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35、石碑の異常性

「レン、できたよ。短い文だったけど、時間かかっちゃった。

誰かのせいで」

「そうか、ありがとう。見せてくれ」


私の渾身の皮肉を華麗にスルーして、レンがいけしゃあしゃあと言う。

こ、この野郎。勇者のくせにいい性格してるよ、まったく……。

私は不貞腐れながら、メモを読み上げる。


「“我 この文を魔族の王に捧げる

魔剣は その手に黒き焔を纏い振るえ

さもなくば 呪いがかかるだろう”」


____しん、と。沈黙が二人きりの隠し部屋に舞い降りた。

……何、この文。

なんなの……!

訳してるときは必死だったから、気付かなかった。この文の異常性に。


「どうして……神聖文字の石碑に記されているのが、魔王に捧げる文……それも、魔剣ディアボロスの扱い方なんだよ……!!?」


……そう。それが何よりおかしいのだ。

神聖文字の石碑を記したのは、当然人間王の始祖のはずだ。

魔族と敵対する人間の王である者が、どうして魔剣ディアボロスの扱い方を書いているの?

魔族の王に捧げる、って書いてあるけど、魔族の王が神聖文字なんて読めるはずがない。初代魔王陛下と、人間王の始祖の考えてることが、全くもって理解できない。


「……始祖の時代に起こったことで、考えられるパターンは2つある」

「レン……?」


レンが眉間を指でつまみながら指を1歩立てる。

そして言った。


「1つは、聖王陛下が魔剣の力の使い方を情報として仕入れ、ここに記した場合。スパイかなんかを使ってな。俺の知る歴史と1番合致するのはこれだけど、それではなぜ石碑にそれを記したのかが説明できない。

それも、『魔王に捧げる』という体で」

「……確かに」


私は頷く。聖王、というのは恐らく人間王の始祖のことだろう。

レンはそれを見ると、もう1本指を伸ばした。


「もう1つは、なんらかの理由があって、初代魔王が聖王陛下に魔剣の情報を託した場合だ」

「なんらかの理由……って?」

「それには3つの場合が考えられる。

1つは、お互いのほかに、二種族の以外の脅威があり、お互いの最終兵器の情報を共有しなければならなくなり、情報の漏洩を防いだ」

「……でも、それって無理がない? お互い以外の脅威があるなら、わざわざ魔王が人間王に情報を渡して、人間王がそれを“魔王に捧げる”という体で文を書く?」

「俺だって意味が分からないから、検証は難しいんだよ!」


レンが怒ったように叫んで、それから石碑を見上げた。

……神聖文字で書かれた石碑が、スレイブヤードにあっただけでなく、それが魔王に捧げた文だと来たら、勇者じゃなくたってそりゃ動揺するよね。


「2つ目は、初代魔王と聖王陛下が本当は友好な関係にあった場合だ」

「……!!」


私ははっとして口を押さえた。

それって、もしかして……!


「……この仮説だと、二人の王同士がお互いの秘密を共有しあうことで、友好の意を示したことになる。それは、この“魔族の王に捧げる”という文章の意にも合っているよな」

「……でも、もしこの文が真の魔剣の扱い方を示しているなら、やっぱり不自然だよ。魔王が、次の魔王に魔剣の使い方を教えればいいんだもん」


それに、もしこの神聖文字の石碑が正しいことになれば、魔王城にあった悪魔文字の石碑が間違っていることになる。

……それはそれでよくわからない話だ。

なぜ、魔剣の真の抜き方が神聖文字で書かれていて、間違っている作法が悪魔文字で書かれているのだろう。

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