34、神聖語=フランス語
え? 神聖文字? ……それって確か、人間の王族しか扱えない文字だよね……? 私がスマホで石碑を照らしたまま、困惑しながらレンを見ると、彼は整った顔を歪めた。
「どうして神聖文字の石碑が、スレイブヤードに……魔族の土地にあるんだよ……っ」
その苦しげな声に、私はハッとした。
……そうか。この石碑はここにあってはならないものなのだ。これでは、魔族が神聖文字の石碑を隠蔽したかのように思える。
……神聖文字の石碑は、人間達の歴史を記したものだ。……つまり、それを隠したとなれば、更なる戦争の火種に成りうるということ。
「くそ、なんて書いてあるんだ……?」
「えっ、王子なのに、読めないのレン!?」
「神聖文字の読み書きが教えられるのは、王位継承権を持てる18歳になってからなんだよ!」
そんな……。
せっかく不死鳥の言っていた、戦争を止める手がかり……『歴史』の記録がそこにあるのに、読めないだなんて。
私は、眉尻を下げながら石碑を見上げた。
____そして。
「あれ……これって……」
石碑に記されるアルファベット。確かに英語に比べて見慣れないものだが、これなら……読めるかもしれない。
だって……なぜならこれは、フランス語だから。
そして私には、それを読める理由がある。
「レン! もしかしたら私、頑張れば読めるかもしれない……神聖文字」
「はっ? だってこれフランス語だろ? 高校必須科目じゃないはずだけど」
レンもフランス語だってわかってたんだ。
きっと優等生だったんだろうな、と思う。
……けどここは、上級生の面目躍如だ。
「私の第二外国語選択科目、フランス語なの」
そう。
私の通う私立以詰面学園では、高等部に上がると、英語の他に2カ国語目の言語科目を選択しなくてはならない。
その選択肢は、ドイツ語、ロシア語、イタリア語と多岐にわたるが、私はなんとなくで、旅行してみたかったフランス語を選択した。
それがここで功を奏すだなんて……!
「さすが超進学校……愛美がまさかフランス語が読めるなんて」
「失礼な! だから私は落ちこぼれじゃないって言ってるでしょ!」
私はそう言うと、再び石碑を見上げる。
そうして和訳を開始した。
ええと……“Satan”は、魔王……で、“vouer”は確か……捧げる、だったかな……。
意外に難しい単語が組み込まれたフランス語の文を、必死に単語の意味を思い出す。
そして口に出して訳していく。
「えーと、一文目は……『私は、捧げます。この文を』」
「待った」
しかし何故か王子殿下からストップが入る。
「なによー、レン。せっかく一文目が和訳できたところなのに」
「なら、せっかくなんだからそれっぽい感じに和訳文作ってくれよ。日本語に訳す宿題じゃないんだからさ」
「何そのわがまま!?」
しかもそれっぽくって何!?
ゲームの王様みたいな口調にしろってこと?
「ちょっと! 勝手なこと言わないでよもう! しかもその命令の意味がわからないしっ」
「王子ってのは椅子に座ってふんぞり返って、意味もなくくだらない命令を下すもんだろ」
なんだそれ!
くそう、都合のいいように王子の権力を振りかざしおってわがまま王子め……。
私はレンみたいに華やかな容姿じゃないけど、これでも黒い炎を操る次期魔王なんだからね!
悔しくなった私は言う。
「合計年齢30歳のロリババアならぬショタジジイのくせに、大人げないよ!?」
「お前、世の中すべての30歳に謝れ。30歳はジジイじゃない」
「ならショタおじさん!」
「やめろ! 犯罪臭しかしないだろ!!」
レンのツッコミ、というか怒声を受けて私は頬を膨らませ、石碑を見上げる。
わがまま王子は腕を組むと言う。
「ふぉっふぉっふぉっ。苦しゅうない。余の命に従い、ムードに合った文をつくり上げると良いぞ」
「棒読みで言うなぁっ! だーもうムカつくったら! レンのバカ!!」
私はぷりぷりしながら、爆笑するレンを無視して和訳(それっぽい文)を進める。
そして、しばらくして……それっぽい訳が完成した。




