32、氷狼たちの魔の手
「ちょっ、何やってんだよお前!早く立って……、」
そこまで言って、レンが再び私を突き飛ばした。
2人で横に転がると、直後に青い焔がさっきまで私達がいた場所で燃え上がる。
レンは私が腰を抜かしたことを察したらしい、くそっ、と呟くと、叫んだ。
「銀の月は笑み、夜の闇は咽び泣く。聖なる光よ我が鎧に、
法術典項の三、“光盾”!」
刹那、私達の周りを白い光が包んだ。
レンの早口な呪文、そして眩しい光に驚いたのも束の間、再び青い焔が私達を襲う。
しかし今度はそれは光によって防がれた。
「す、すごいっっ」
レン、すっごいよ! どうして今までやらなかったの!
と、言おうとレンを見た私の耳に届いたのは、息を切らす彼の喘ぎ。
「っ、魔族の土地で法術を使うのはやっぱり……疲れるな」
「……ちょ、レン!? 大丈夫なの!?」
もう、どうしてそんな息切れするほどの力を使ったの!
と思ったけど、すぐに気づく。
……何も出来ない私を守るためだ、と。
白い光に阻まれて、青い焔は届いてないけど、さっきから光は弱まってるのはわかる。
このままじゃ……。
「捕らえろ!!」
「「「ハッ!!」」」
唐突に響いた看守長らしき声に、いくつもの声が応える。……今度は私が、この人を守るんだ!
お願い、始祖様。
私を魔王として認めてくれるならもう一度だけ、黒い炎を私の手に!
「うわぁぁぁ!? なんだ!? 熱いぃッッ」
轟!! という何かが激しく燃え上がる音。
しかし、燃え上がったはずのそれはどこにも見えない。
視認出来ないということは、それは闇と同化しているということ……つまりそれは、黒い炎!
私……やれたんだ!
「レン! 今のうちに!」
「わかった!」
黒い炎が地下2階の通路を塞いでくれているうちに、私達は奥へと走り出す。地上への階段は通路を進んだところにあるようだ。
私は走りながら、黒い炎があまり燃え広がらないように、と念じる。
技(魔術?)が使える看守や獄卒……竜人達と違って、ここの捕虜は人間だ。
囚われていて、戦闘力もないのに、火が燃え広がれば大惨事になってしまう。それこそ戦争の引き金になるだろう。
「黒い炎、ちゃんと使えるじゃねぇか!」
「うん! ちょっと自分でも嬉しい」
「よし! このまま行くぞっ」
レンがそう言った瞬間足元がつるんと滑った。
あわてて体勢を整えるが、靴の裏で擦ってみるけど、やはり地面は何故かいきなり滑るようになっている。
なんでー!!?
「氷狼だ! 多分“獣の王”の眷属のッ」
「げぇぇぇ!!? アルフレッドさんに見つかったら魔王城に連れ戻されちゃう!!」
「そのカエルの潰れたような悲鳴やめろ! 俺なんか捕まったら死ぬわ!!」
「失礼な! 女子の黄色い悲鳴をカエルなんてそんなっ」
____ヒュゴォォ!!
私の言葉を遮ったのは、氷の礫や雪が混じった頬を叩く冷気。
さ……っ、さっむ!! もしかして、暗くて見えないけど、足元凍ってる!?
走れないじゃん! ゴチャゴチャ喧嘩してる暇なんかないじゃんっっ!
「愛美溶かせるか!?」
「やってみるけどッ」
グルルゥ、という唸り声が近くで聞こえてくる。
うわ! 何かが近くにいる! しかも超寒い!凍え死にそうだ。
しかもこれが氷狼とやらの唸り声だとするならば、また黒い炎を使えなければ、私の命は風前の灯だ。
……始祖様、いえ初代魔王陛下! もう一度とか言ったの嘘ですごめんなさい!
だからやっぱり私に力を!!
____ボッ。
今度は比較的小さな音がしたと思うと、しゅうう……という水蒸気が上がる音と共に、足場が安定する。
「走るぞ!」
「グルルルルゥゥ!!」
手を掴まれて、私達は階段へと走り出す。
後ろから氷狼達が、鼻息荒く追いかけてくるのがわかる。
うぁぁぁやめてぇぇワンちゃんたちぃぃ!!




