30、脱出作戦始動
「とりあえず、レン! 早くここから脱出しないと」
「上手くいく脱獄方法に心当たりが? 魔王サマ」
「やめて! なんか脱獄とか言うと犯罪臭が増すから!」
絶対わざと言ってるよね、と頬を膨らませながらも私は顎に手を当てて考える。
とりあえず、手錠を初めて外さないことには何も出来ないか……。何か鍵を外せるものはないかな、と私はカバンを漁る。
「ヘアピンとかはあるか? 愛美」
「え? ……ううん、ごめん……つけてない」
「ならかつらを留めるピンを1つ外せばいい」
な、なるほど。その手があったか。
私はかつらを留める用のピンを外すと、手に持った。
で、でもこれで開けられるかな……? ここかなり暗いし。視界のすぐ先もよく見えないのに。
「鍵穴はここだ。スマホのライトをつけて、ここを照らせばわかる」
「う、うん」
スマホを片手に、レンを戒めている手錠の鍵穴にピンを差し込む。
しばらくでたらめに動かしていると、やがてカチャッ、と音がして錠が開いた。
良かった! 複雑な錠じゃなかったみたい。文明があまり進んでなくて、助かった。
「レン!」
そう言うと私は、レンの手を取った。
……しかし、その刹那。
____バチィッッ!!と。
蒼い電光が生まれ、レンに触れた手に激痛が走る。
「!?
いったぁぁ……」
赤くなった自分の手を見て、私は呟く。信じられないほどの苛烈な激痛。
……ああ、この火傷、この世界に来てから2回目だ。尤も、今のはあの時とは比べ物にならないけど。
「ったく……魔力と聖力は反発するって、“智の王”に習わなかったのかよ?」
「うぅ……習いましたぁ……」
「……ほら、手、貸してみろ」
恐る恐る手を差し出すと、ぼんやりとした白い光が私達の手を包み、みるみるうちに傷を治していった。
これが、聖力の治療……!
すごい、レンの治療、ランスさんのとほとんど変わらないくらいにクオリティが高いよ!
「ま、“智の王”に出来たなら、愛美もすぐできるだろ。なんてったって次期魔王サマだしな」
「……勇者には言われたくないよ」
「そりゃそうだな。……さて」
楽しそうな笑顔を引っ込め、レンが声を低めた。
「そろそろここを出なきゃな」
「……それはもちろんわかってる。でも……さすがに牢の鍵は外せないよ」
「いや、その問題はない。鍵は俺の力で外せばいい。ただ、問題は看守だな。無駄に戦闘力が高い……竜人だからだろうな」
“獣の王”は、よっぽどスレイブヤードが大事だと見える、とレンは言った。……恐らく彼は、『人間嫌い』な幹部なのだとも。
「…それは愛美、そう言えばお前はこれからどこに向かうんだ? スレイブヤードは見えただろ?」
「……私の最終目的は、王都だよ。なんとかして停戦協定まで漕ぎつけたくて、魔王城を出てきたんだもん。
休戦協定を破ったのが魔族側なら、誠意を見せるのも魔族側……それも王じゃなきゃいけないはず」
「確かにな。……それじゃ、共同戦線を張るか」
レンの言葉に、私は頷く。
魔王と勇者。前代未聞……いや、空前絶後の最強コンビだ。
恐れるものなんて何も無い……、はず!
脱獄作戦、開始だ。
「よし、出るぞ……」
レンが音を立てずに、鉄格子の扉を開ける。
……やはり辺りは真っ暗で、何も見えない。
レンはどうやら夜目が利くみたいだけど、私はまだ暗闇に慣れない。
スマホを何度か使ったせいだろうか。目がチカチカする。
「前、見えるか? 愛美」
「ご、ごめん……よく見えなくて」
「魔術はまだ使えないんだよな? ……ったく、ほら」
苦笑混じりのレンが、私の服の袖を引く。
……うわっ。何、このシチュエーション。
男の子に、しかもすっごい美形と、……いや、手を繋いでるわけじゃないけど。なんだか妙にドキドキする。
……距離が近い。牢獄だとそんなに意識しなかったのに、一緒に歩いていると妙に気になってしまう。
「……よし、地上に出る階段を見つけた」
レンが、ぴたりと足を止める。
やっと私も目が慣れてきたところだったので、私も足を止めて向こうの方を見た。
……一際暗いシルエット。おそらく、看守だ。