27、勇者様の正体
あわわわ! どうすればいいの?
今この状況って、あれだよね? ゲームだったら、魔王VS勇者の最終局面ってことでしょ?
場所は監獄で、どちらも情けなくここにいるのではあるが。
「……君は……?」
勇者(仮)が私を捉えて、訝しげに眉を寄せた。
緊張と恐怖で、動悸は収まらない。心臓が口から飛び出そうだ。
「黒の瞳……?」
「!!」
しまった!
色つき眼鏡を落としていたことをすっかり失念していた。しかもスマホがいらない働きをして、私の顔を照らし出している。
スマホに黒い瞳に、最悪だ!!
「ちち、違うの!! 私、看守にここに入れられて! 間違って獣王領に入っちゃって、囚われてここに来ただけなの! けけ、決して魔族とかそんなんじゃ……」
ああああ、自分で墓穴を掘ってどうするんだ。
しかし勇者(仮)はスマホに目を移したまま動かない。
そして呟いた。
「スマホ……?」
____耳を、疑った。
今の、目の前の王子様が言ったの……?
まさか、この世界にスマホが……あるわけがない。それに私は一回もスマホという言葉は口にしていない。
……どうして、どうして彼が、スマホのことを知ってるの?
驚きのあまり声が出てこず、私はじっと彼の次の言葉を待つ。
そして白金色の髪を持つ美少年は、私の顔を見た。彼も同じように、驚愕の表情を宿しながら。
「その……黒い瞳……まさか」
どくん、と。
心臓が高鳴る。
……そして。
「君は……まさか、日本人、か……!!?」
____意図せず、涙がこぼれた。
理解してくれる人がいた。私の本当の仲間がいてくれた。心の奥深くに仕舞っておいたはずの不安が、一気に溢れてきたように、涙と一緒にこぼれていく。
まさか、ここに、地球を知ってくれている人がいるなんて。
それは、何の因果か、一番の『敵』である勇者だけど。不幸だけど、何よりも幸せで。
私はただ、その場で泣きじゃくっていた。
勇者様は黙って、そんな私を見つめていた。
「……ひっく……ごめんなさい、私、いきなり泣いて……恥ずかしい」
「いや、別にいいよ。……で、君は本当に日本人……なのか?」
ああ、また涙出てきた。
『日本人』というワードにこんな安心するなんて、どういうことだろう。
「はい……情けなくも監獄に入れられた、影夜国第13代魔王、一之瀬愛美です……。そちらは恐らく聖ミスリル統一王国の第一王子殿下では……」
「ああ、わた……いや、日本人相手に気取っても意味ないよな。
……俺は、レオナード・ヴィフ・アルジャン。
お察しの通り、人間の国の第一王子で、監獄にいる情けない現勇者だ。よろしく、魔王サマ」
……なんだろう、この違和感しかない会話は。
恐らく字面だけで見たら、お見合いのようになっているはずだ。
……魔王と勇者が。
魔王と勇者が!(二回目)
……しかもここは監獄。あまりにも信じられない光景だ。傍から見たら。傍から見る人いないけど。
「ええと、レオナード殿下」
「レン、でいい。俺が日本人だった時も、同じような名前だったから」
「……てことはやっぱり、あなたも元日本人なんですね……」
また涙が出てきそうになって、私はあわてて目頭を押さえる。
「懐かしいな。『今の』俺はもう16だから、俺の感覚としては、日本にいたのは16年も前になるんだけど」
「16! 私も! 高校一年です!!」
そこまで言ってから、すこし我に返る。
16年前に日本にいた……ってことは、この人はきちんと『生まれ変わった』んだ。
私はここにきたのは、体感時間で一日前……つまり昨日だ。
つまり、私が『トリップ』。
レンさんは、『転生』で、このアシュタルトに来た。




