26、勇者との邂逅
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____今、思えば。
中立区域であるはずの旅人岬の港町に、活気がないことから、気づくべきだったのではなかろうか。
「貴様の労働はまだ未定だ! 決まるまでしばらくの間そこに入っていろ!」
「わっ!!」
乱暴に背中を押され、私は土の上に倒れ込む。
そしてガチャン!! という音に思わず振り向くと、既に鉄格子が下ろされた後だった。
色付き眼鏡が地面に落ちて、あわてて目を閉じる。そして反射的にかつらを押さえた。
黒髪、黒目を見られてはいけない!
「あぁぁぁ……」
なんてことだ……こんなとこやだよぉぉー……。
一ノ瀬愛美、人生初の牢屋生活です。
それもしかも、地下! 地下監獄!!
暗いし、埃っぽいし……。まさか中世みたいに拷問とかされないでしょうね。あぁ嫌だぁ……。
泣きべそをかきながら、私は立ち上がる。……その時、この監獄が意外と広いことに気がついた。
鉄格子に捕まりながら立ち上がり、恐る恐る後ろを振り返る。
奥は闇に包まれて見えないけど、少しだけ……息遣いが、聞こえる……?
「……誰かいるの?」
返事はない。もしかしてこれ、寝息……なのかな?
てゆーか、相監獄(悪趣味)って、なんか……イヤじゃない?
「ええと……そこに、いるんですよねー……?」
恐らく寝ているため、私は抑えた声で呟きながら、真っ暗な奥の方へ足を進める。
だって、暗いから、何かしゃべってなきゃ怖いんだよぉぉぉ。
……あ、いや! 暗いなら、これがある!
ハッとして、私はカバンをさぐった。
「これで、よし……っと」
看守の竜人もいないし、これを使っても大丈夫だよね。
……私は掲げたスマホを見て、意図せず笑顔になる。
「ええと……そこにいるのは……誰ですかぁ……?」
そして、バッ!とスマホの光を後ろに向かって当てた。闇に包まれていた監獄の奥が、柔らかいが白い光に照らされて、鮮明になる。
____そして、そこにいたのは。
「う……そ………っ」
驚愕の余りからん、とスマホを取り落としてしまった。
……そう、そこにいたのは、鎖で繋がれていた人間……それも、完全な白金の髪を持ち、簡易な軍服に似た服を纏った、絶世の美少年だった。
……私は、しばらくの間、息をするのも忘れて彼に見惚れていた。
そしてハッとして我に返り、スマホを拾い上げる。
うそっ、うそうそ、あんなイケメン、初めて見た!
私と同じか、一つ上くらいだよね!?
あわわわ、心臓がバクバクしてくる。
失礼して……と、スマホの光を美少年の顔に当てる。
ああ、どうやらところどころ怪我をしているようだ。鎖がついた手錠に繋がれた手は、擦りむけた跡があって痛々しい。ひどいな……。
「ん……」
不意に、美少年が身じろぎした。
長い金色のまつ毛がかすかに震え、まぶたが開く。
うわ、と私は再び息を呑んだ。
彼の開いた瞳は、見事な瑠璃色だった。
……そう、まさにその色は、王族の持つに相応しい、高貴なるロイヤル・ブルー……。
「……光……看守か?」
美しいテナーの声が私の耳に届く。
溢れ出る威厳に、私は声が出せないまま後ずさってしまった。
まさか、この人……本当に、王子?
聖ミスリル統一王国第一王子……勇者なの?




