23、魔王城から大脱走!
___始祖の時代から生き続ける、唯一の魔物、か。
私は不死鳥が去っていった蒼穹の彼方を、じっと見つめた。……初代魔王陛下の一の使い魔だった不死鳥は、始祖の時代の全てを見たことになる。
何百年、独りで生きてきて、あの美しく大きな魔物は、何を想っていたのだろう。
____『争いは醜いだけだというのに』
____『今の影夜国を思えば嘆かわしい』
その言葉が、ぐるぐると頭の中を回り続けた。
今の……ってことは、昔の、つまり始祖の時代は素晴らしかったと不死鳥は言いたいのだろうか?
____わからない。
頭を使うのは、勉強と剣道の戦法だけで、美咲先輩みたいに“賢く”なんてない私じゃ。
マヌケでトロくて新前魔王、いや、魔王(仮)でしかない存在である私じゃ。
「陛下」
“私の名前でない呼称”をランスさんが呟く。
私は俯くと、小さな声で「部屋に戻ります」と言った。
*
____わからない、わからない、わからない。
どうして私がこんなところに、という思いや、魔王になんてなりたくない、という思いが、再び渦巻いて溢れて、思考が上手く回らない。
____もう何もかも面倒くさい。全て捨てて逃げてしまいたい。
____どこへ?
____泣きたい。魔王なんて何なのよ、って誰かにすがりつきたい。
____誰に?
「もう、やだよ…」
期待なんてしないで。私はただの人間。
のうのうと両親の下で庇護されて生きていた、ごく普通の平凡な女子高生なの!
何かに助けを求めるように、私はカバンを手に取る。ぶら下がった剣道部員お揃いの竹刀ストラップを握りしめてぎゅっと目をつぶった。
「戦争を……やめさせなくちゃ」
せめて平和に暮らしたい。
魔族と人間が、争わないでほしい。
魔族にも、人間にも、良い人がいっぱいいるんだ。何も知らない私には、判らないことも多いけど。
「魔王の地位があれば……私にだって」
マヌケだけど。右も左もわからないけど。
この世界での私の権力は危ないけど、無力ではないのだから。
……クローゼットから二つ三つウィッグを取り出して、ブロンドのかつらを頭に手に持つ。
それ以外のかつらはバッグにつめて、今度はサングラスに似た色つき眼鏡をかけた。
そして服は、動きやすいように制服に。それから、フーデッドケープを被る。
ここにいてはいけない。
いつまでもここで庇護されたままでは、変えたい世界も変えられない!
……動こう。覚悟を決めて。
私は、仮だとはいえ……第13代目魔王だ!
その時、コンコン、とノックが聞こえた。
びくっ、と体を強ばらせると、入ってきたランスさんが目を見開いた。
「陛下!? なんですかその荷物は……一体何を」
「____来て、不死鳥!!」
ランスさんの声を遮って、窓を開け放つ。
新鮮な空気とともに、黒い炎が流れ込んできた。
そして瞬く間に目の前に現れるのは、煌々と輝く幻獣、不死鳥。
『おや……随分早いお呼び出しですね、陛下』
「愛美でいいよ! ……お願い、少し背中に乗せて!行きたいところがあるの!!」
2回目からの召喚に、複雑な魔法陣がいらなかったことを安堵しながらそう言うと、後ろからランスさんの声が再び響く。
「どこへ行かれるのです、陛下! 私がお供しますので、戴冠式まではどうか……」
「今動かなきゃいけないんですっ!!」
私は手に持ったかつらを被り、その髪を整える。
そしてホバリングした状態を保ったままの不死鳥の羽に掴まった。
「魔王になってしまったら、私はもっと自由に動けなくなるでしょう! 戦争を止めるなら今しかないですから!」
「陛下、いったい何を……」
「だから、」
私はきっ、とランスさんを睨んだ。
自分を奮い立たせるめにも。
「聖ミスリル統一王国の、王都まで行ってきます!!」
「なッ!? ……へい、」
「留守を頼みます、
____“智の王”ランスロット!!!」
叫んで。
私は不死鳥に「飛んで!!」と命じる。
視界の端に、呆気に取られたランスさんが見えた。
そして、爆風とGに耐えながら舞い上がり、私は急いで不死鳥の背中によじ登った。
___これで、もう後には戻れない。
前に進むだけだ。




