21、顕現、不死鳥
それを聞いてなんだかドキドキしてきた私を見ていたランスさんは、おもむろに微笑むと、言った。
「朝餉を召し上がったら、呼び出してみましょうか。初めて呼び出した魔物は、他の何よりも忠誠を主に誓うものですよ」
「え、いいんですか?」
使い魔とか、ちょっと憧れだったんだよね。
私、意外とゲームとか好きだったし。
……食堂で、朝食(スコーンとクリーム、スクランブルエッグなど)を食べたあと、私はメイドさんたちと少しおしゃべりしてから、席を立った。
どうやらランスさんは、兵士達が魔力の修練をする場所へ連れて行ってくれるらしい。
門番の人達みたいに、兵士達も皆いかついのかな、と思うと少し憂鬱だけど、使い魔みたいなの作ってみたいし仕方ないか。
*
「あれは……まさか、新王陛下!?」
「黒髪に黒瞳……!! 第13代魔王陛下が君臨されたという噂は本当だったのか!」
「陛下!」
「新王陛下!!!」
………………。
修練場に着いた途端に湧き上がる歓声に、私はげんなりを通り越して泣きそうになっていた。
ランスさんはクスクス笑ってるし、とても助けてくれそうにない。誰か助けて。誰もいないこと知ってるけど。
……この人実はドSなんじゃないの。
そしてこの人(ドS疑惑イケメン放火魔宰相)はダメ押しに、兵士達(悪魔の羽根付きいかつい漢達)にこんなことを抜かした。
「皆の者、新魔王陛下が初めて、魔物と契約なさる! 中央にいたものは端に控えよ!」
「「「「うおおおおおお!!!」」」」
ふざけんなぁぁぁあ!!
……なんてことは当然、目の前の、散々世話になったイケメン宰相に言えるはずもなく、私はただ半べそのまま、ランスさんが描いてくれた魔法陣の上に立った。……すると描かれた魔法陣が、ヴァイオレット色の光を発した。
目を刺す凄まじい光量に、私は小さく悲鳴を上げる。
……風が私を包み、そして私を中心に渦巻く。
舞い上がった粉塵が、ビシビシと肌を叩いた。
「なんて力だ」
誰かが呟いたのが耳に届いた。
何もしていないのに、魔法陣の上に乗っただけで何が起きたの?
……発光する魔法陣の上で混乱する私に、更なる声が届いた。
「陛下! それは陛下の魔力で魔物を召喚する為の、魔力を具現化する魔法陣です! 今すぐ念じて下さい!自分に仕える者がこの場に現れるように!」
ね、念じる?
念じれば……この風は収まるの?
私は突風に煽られつつも、必死に『私に仕えてくれる魔物、どうか早く現れて!』と祈った。
____そして。
地球における伝承とは少し異なった姿で、“それ”は現れた。
燃えるような赤の羽根に、深淵の如き黒い炎を纏いながら。
死んでもなお、火に飛び込んでも蘇るとされる、伝説の火の鳥。
「不死鳥……?」
ランスさんの、唖然とした声が届いた。
同じく唖然とした私が、その黒い炎の不死鳥……つまりフェニックスを視認すると同時、ヴァイオレット色の光と風が止む。
不死鳥の神秘的な黄金色の瞳は、私をじっと見つめたまま、微動だにしない。
そして誰も声を発せない静寂の中、煌々と輝きを放ちながら、不死鳥は言った。
『……成程、貴女が次の魔王ですか』
「え……っ」
『確かに…“彼”によく似ている』