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20、精霊は呼び出せるのか?



夢を見た。

父と母と祖母と一緒にご飯を食べながら、笑っている夢だった。かつて、長期休暇はいつも祖母が家を訪ねて来てくれて、お泊まりしたものだ。その夢だった。

……ただ、現実とは違うのは、若くして死んだはずの祖父が、若い姿のままでそこにいたこと。

しかし会ったことがないからか、祖父の顔はボヤけてよく見えなかった。


「お父さん、お母さん、おばあちゃん……」

「どうしたの、愛美。ほら、これもお食べ」


ああ、夢の中でも、優しく声をかけてくれる家族がいる。

私は……日本では、ずいぶん幸せな人間だったんだろう。でも、今になって【当たり前】がこんなに恋しくなるなんて、思いもしなかった。

顔の見えない祖父が、微笑みながら私の肩を叩いて、何かを言った。


……え? 今、何を言ったの?

そう考えた瞬間、急速に夢の世界は崩れていって。


私はすぐに現実へと引き戻された。





____そして。

カーテンから溢れる朝日に目を細めながら、私はむくりと起き上がる。

明るくなった辺りを見回して、最早見慣れてきた黒いベッドに、自分がいることを確認する。

……やはり世界は、そう甘くないようだ。

一晩寝ても、何も変わってない。


「あふ……ぁ」


大きくのびをして、ベッドから降り、

メイドの子達が用意してくれていたらしい下着と、素朴な濃い灰のドレスに着替える。

まぁ、そう動きにくそうでもないし、制服は洗濯してもらってるらしいし、ドレスでもいいか。

……そんなことを思っていると、コンコンと扉がノックされた。

はい、と答えると、最早聞き慣れた声が訊く。


「陛下、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」

「お、おはようございます、ランスさん」

「おや、お召替えが既に済んでおられるとは。メイド達を呼んでくるつもりだったのですが」


扉を開けると、私を見て少し目を丸くしたランスさんに、こっちが慌ててしまう。


「ええ!? ぎょ、仰々しいドレスやらマントじゃあるまいし、普通のお着替えに手伝いなんていりませんよ」

「そうなのですか……陛下は、おもしろいお方ですね」


おもしろいお方ですと!?

それはどういう意味で言われたのか、と複雑な気分に陥る。

……美咲先輩みたいに、「マヌケ」と言いたいのか、それとも普通に面白いと思ってるのか。

後者でも別に名誉なことではないような。


「それに、お優しいお方だ。まさかメイドや執事達に笑顔で声をかけ、共に夕餉をお召し上がりになるとは。しかもメイドとはすぐに仲良くなっていた様子でございましたね」

「そ、そんな、優しいなんてことは。ランスさんだって、あの水の妖精を呼び出して、メイドさんたちを癒してあげてたじゃないですか」

「水の…それは、水精……ウンディーネのことですか?」

「はい、そうです、それですそれ」


……やっぱり、ウンディーネっていうんだ。

それ、地球では想像上の生物……というか精霊だけど、アシュタロトではちゃんと存在するんだね。魔族の家来、魔物の部類として。

わー、本当にどこかのゲームみたいだ。


……まあ残念ながら当然、現実なんだけども。


「あれ、どうやって呼び出してるんですか? 魔力を持つ者なら、すぐに呼び出せるんですか?」

「はい。魔力を持つ者なら、誰でも。ただ、人の持つ魔力の形によって、呼び出しやすい魔物が変わります。……力を伸ばせば、どんな種類の魔物や精霊も使役できるようになりますがね」


微笑んだランスさんは、「もちろん陛下はどんな魔物でも呼び出せるでしょう」と言った。


「ただ、やはり相性はありますね。魔王陛下以外の魔族は、風・火・水・土の属性の魔力を持つと言われています。私は風なので、1番最初に呼び出したのは、風精……シルフでした」

「え? それなら魔王の属性は……?」

「もちろん、万能でございますが?」


そ、そんな笑顔で首傾げて言われましても……。

慌てた私は、じゃあ先代様は? と返す。


「先代様ですか?先代様が1番初めに呼び出したのは、夢魔……アルプといわれています。

ですから先代様は、俗に“最凶”の他に“黒き堕天の……いや失礼、なんでもございません」


なんて?


失言だった、と言うようにわざとらしく咳き込むランスさん。……聞き返しても『なんでもない』を繰り返すので、諦めた私は、改めて自分の手を見つめた。


私にも、何か精霊が呼び出せるのだろうか。

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