19、急転直下の一日
「陛下、そろそろお部屋にお戻り下さい。明日から、戴冠式に向けてやって頂きたいことが山ほどあるのです。お早めにお休み下さい」
「は、はいっ」
ランスさんの言葉に、私はハッとして慌てて立ち上がった。そして、立ち上がってから、器が食べっぱなしだということに気づく。
片付けした方がいいかな、と思っていると、
「良いのです、陛下。これは私共メイドの仕事ですので」
「今日は楽しかったです、陛下!」
「またおしゃべり致しましょうね!」
な、なんていい子達なの……!!
新前魔王(しかも仮)で、ドジでマヌケな私を、こんなに信頼してくれるなんて……!
でもでも、私はそんな立派な人間じゃないんだよ。罪悪感で胸に鈍痛が……。
するとランスさんが肩をすくめて、短く「ウンディーネ」と言った。
え? と思う間もなく、軽く風が吹いたと思うと、そこには、小さな、水色の肌と美しい羽根を持つ妖精みたいなものが現れた。
え? なに、なに? 何この生き物、と呆然としている私をよそに、ランスさんが水色の精霊達(?)に優しく命じる。
「彼女達に癒しを」
そして精霊達はこくん、と頷くと、小さな右手を高く掲げた。
……途端、辺りが水色の光に包まれて、メイド達の顔色が良くなっていく。
うわぁぁぁ、すごい……!
私は思わず拍手をしたくなる。治癒とはまた違った“癒し”を、ランスさんの家来みたいな精霊が行った、なんて。
かっこいい……!!
ほわあぁ……と感激していると、ランスさんが消えるように命じたのか、いつの間にか水色の精霊達……ウンディーネ達はいなくなっていた。
そしてメイドさんたちに「ありがとうございます!」と唱和されているランスさんは、私を見ると優しく笑った。
「さぁ陛下、寝室へ戻りましょうか」
*
しかし。
……寝室に戻って、寝転がってみても、眠ったばかりだからかほとんど眠くなかった。
真っ暗になれば、ベッドが黒かろうが何色だろうが関係ないのかもしれないな、とふと思う。
「……変な1日だった」
そして、何よりも長い1日だった。
……だって、夕方まで美咲先輩と出かけてて、そこで車に轢かれて死んで、気がついてみたら昼だったんだよ?
そこで矢に射られるわ、炎から逃げ出すわ、魔王だなんて言われるわ……、
私にとってはてんてこ舞いで急展開、もっと言えば急転直下な1日だったわけだ。
「……本当に、私、魔王なのかな」
普通の女子高生で剣道部員のはずだったのに、たった一日にして魔王になった私。
出来事全てが夢のようであり、現実のようでもある。正に夢現だ。
「……明日、朝早いんだっけ」
……なら、やっぱり少しでも早く寝なくちゃね。
私はそう思いながら、目を閉じた、




