プロローグ2
「……ラッキーアイテムが魔剣って、どんなだよーっ!!」
「落ち着きなさい愛美。電柱に当たるな。今更あの占い師がおかしいということに気づいたあんたがおかしい」
「ううっ、だって」
中世の女王様。
そんなこと言われたら(しかも見た目すっごくベテラン)舞い上がるに決まってる。
美咲先輩曰く、その考え方が私がアホたる所以と言うが、人生疑ってばかりじゃ損していると思う。
……のだが今回ばかりは反論できない。私がバカ野郎だった。反論の余地はない。
「あんたはその爛漫さが長所でもあるんだけどね。世間知らずなのが玉にキズね」
「えー……まぁ、否定できませんけど……」
両親ともに中の上の会社に勤める、中の上の裕福さを持つ一般家庭に生まれた、一人娘。
アホではあるけど、小学校から偏差値の高い私立の学園に通って、お嬢様とお坊ちゃまに囲まれていたからか、世間を知らずに生きてきたのも無理はないと自分でも思う。
それで詐欺に引っかかっていいかと問われればまだ別の話ではあるのだが。
「もう高1なんだからしっかりしなさいよね」
そう言う美咲先輩も、歴史ある旧家のお嬢さんだ。
常識的で有能、いつだって周りに目を配り、統率能力にに優れている完璧主義者。そして何よりしっかり者の優等生……その性格はどこから来ているのだろう。
ご両親か?
……なら根本的な問題だな、うちの両親はどちらもほわほわだ。
「とりあえず、家も近くなって来たし、『おめでとうの会』はここでお開きね」
「はい、そうですね。ありがとうございました!」
____駅前の広場からバスに乗り、住宅街へ戻ってきていた私達。
お屋敷立ち並ぶこの住宅街は、ここら一帯のお金持ちが住む地区なのだが、そのお屋敷が高層マンションであったり、趣ある日本家屋だったりと種類豊富であり、いささか見た目趣味が悪い。
美咲先輩がここらの地区に住んでるから、言わないけど。
「愛美のお家ってどこだっけ」
「集合場所だった、もう一つ先のバス停の近くです」
「あ、そうなの? 付き合わせてごめんね。もう一つ先まで乗ってって良かったのに」
驚いたような顔をする美咲先輩に、首を振る。
「いいんですよ、料金余分にかかるだけだから。それにご飯のお礼、ゆっくり言いたかったので。普通は成績的に私がご飯奢るべきだし」
私がそう言うと、美咲先輩は笑った。
「いいの、後輩は黙って奢られてなさい。インターハイ初出場、それと2回戦突破おめでとう、愛美。これからも頑張りなさい」
さっすが美咲先輩、懐が深いです!
そう言ってパチパチと手を叩くと、美咲先輩は苦い顔になって「さっさと帰れ」とジェスチャー。
ひどい。
けど照れ隠しだってわかってるんですよ。だって耳が赤いし。
なんてことを考えながら先輩と別れ、私は帰り道を行く。バス代が節約できるから、わざわざまたバスを待ったりはしない。
おこづかいで自由に使えるお金が制限されている高校生の身だから、バス代は手痛い出費なのだ。うちの学校、バイトしたらいい目で見られないし。
まあ、歩けば少しはカロリーを消費できるよね?
「あれ……」
帰り道にある公園の入り口付近で、小学校低学年らしき男の子たちがボールで遊んでいる。
もっと中央で遊べばいいのに、とそう思った時だった。
「あっ」
「!? …危ないっ!!」
男の子の手から離れたボールが、バウンドしながら道路に飛び出す。それを追って男の子が道路へ走っていく。
そしてその子に迫るトラック。運転席からは、男の子の姿は見えないだろう。高い座席からは小さな彼は死角になっているはずだ。
……ああ、なんていうベタな展開。
そう脳のどこかで暢気に考えたが、次の瞬間、私の体は咄嗟に動いていた。
そして男の子を突き飛ばして顔を上げると、すでにトラックは目の前にあった。
____キキキキキキィィ!!!
刹那、凄まじいブレーキ音とともに、視界が反転した。
大きな衝撃が体に走り、ごぼりと口から何かがこぼれ、息が詰まる。
……あ、やばい。これは、やばいやつだ。
ああ、私はここで死ぬのかもしれない、とスローになっていく視界の中で思った。
もうちょっと長生きしたかったんだけどな。まあいいか。
好きな人もいないし、特にこの世に未練もない。
薄れゆく意識の中で、私は妙に冴えたことを考えていた。
……救急車の音がどこかで聞こえる。
だけど、きっと私は……もう助からない。
そして、目の前は真っ暗になった。
____当然の話ではあるが。その時は知りもしなかったのだ。
私が……異世界で、魔族の女王になるなんて。