17、魔族の食事
ひととおり見終わった私は、衣装棚から離れた。そして再び、黒いベッドに腰掛ける。
枕はほどよく柔らかく、精緻な装飾が施された布団は一流ホテルのようにふかふかだ。
シーツは黄金の糸で幾何学模様が刺繍されていて、目を見張るほどキメが細かい。
……うわ、このキラキラ、何かと思ったら細かいダイヤモンドじゃん。
漆黒の中にも、美しい何かがある。
まるで夜空のように。
「先代様の感性も、少しわかってきたかも」
偏ったモノの見方だけでは、あとから後悔する。嫌いな人間でも、よくわからない文化でも、理解しようとしなくては。
私はそう考えると、ベッドに寝転がって、
そのまま寝てしまった。
*
「____下、陛下」
「んー……あと五分……」
「陛下、しっかりなさって下さい。陛下が夕餉を召し上がらなくては、料理長が悲しみます」
もう、なんなの……。
人がせっかく気持ちよく寝てるっていうのに……。
目を開けるのも億劫だ……と思いつつも仕方なく、うっすら目を開く。
すると真っ先に、視界に飛び込んでくる漆黒。
「うひゃあ!」
見たこともないベッドの色にびっくりして飛び起きて、それから……我に返った。
ここは、魔王の……つまり私の寝室か。
ここは異世界アシュタロスで、私は影夜国の次期女王、魔族の王。
特に夢を見てたわけではないけど、混乱した。
「陛下、よくお眠りでしたね。許可なく寝室に入ったこと、お許しください」
「……寝顔の感想を言わないのなら許します。それで……ランスさん、もしかして夕飯ですか?」
「そうです、陛下。お疲れでしょうから、メニューはあまり重くないものにしました。早速食堂へ向かいましょうか」
「は、はい!」
毎度毎度のことながら、置いていかれないように、はぐれて迷わないように、ぴったりとランスさんの後ろについて、着いた食堂。
……そこもやはりとても広く豪華な場所で、まるで英国のお城のようだった。実際問題、城だけど。
そして何より目を引くのは、城の食堂の代名詞とも言えるだろう黒く長いテーブル。
そこの一つのやたら目立つ椅子の前に並べられている料理はまさか、私の夕飯だろうか?
「どうぞ、陛下。まだ作法などはお教えしていませんので、気にせずお召し上がり下さい」
にっこりしながらランスさんが言った。恐る恐る椅子に座りながら、テーブルの上の料理を見つめる。
テーブルの上の黄金の燭台や、高い天井に吊り下げられたシャンデリアが、すごく“それっぽい”空気を醸し出しているから、ご飯なのに緊張してきて吐きそうだ。
「お、美味しそう……」
しかし、並べられた料理は、魔族の食べ物にも関わらず、意外にとても美味しそうだった。
挽肉と細かく刻んだ野菜が入ったミートパイ。
ゆで卵を挽肉で包んで揚げたもの。
デザートは、黒糖を使ったプディング。
涎が出てきそうだ。




