16、魔王の寝室
案内されたのは、やたらめったら広い(もうここまで来るとくどい)部屋。
王の寝室。これが……。
教室2個分くらいあるんじゃないかという広さに、でかい天蓋付きのベッド。もちろん布は真っ黒だ。こんなところで寝たくない……っていうか、寝れない。
「いつ見ても素晴らしいものです、漆黒の部屋……。これをデザインしたのは先代様なのですよ」
悪趣味野郎はお前か先代。
まぁ、白いシーツで寝たいー、とか思ってる私が、この国では悪趣味なのかもしれないが。
……それにしても、ランスさんまでこの部屋をうっとりと見つめるとは思わなかった。どんだけこの国の貴族は、黒が好きなんだろう。理解し合えない。
これが見解の相違ってやつか。
「それでは、夕餉になりましたらお呼びいたしますので、どうぞごゆっくり」
「はい。ありがとうございます」
ランスさんは微笑み、足音を一切立てずに部屋を出て行った。その流麗な動作に見とれつつも、私はとりあえず天蓋付きのベッドに歩み寄り、そこに腰掛ける。
……持ちっぱなしだったカバンを開け、なんともなしにスマホを手に取ってみる。
日本にいた証拠は確かにここにあるのに、もうずいぶん故郷が遠いような気分だ。
「あの兵士さん……無事かな」
ちゃんと国に戻れたかな。
奥さんと子供に会えたかな。
それでもやっぱり……魔族を憎んだままなのだろうか。
電源をつけてないスマホの液晶画面に、私の顔が映る。
黒髪と黒い目。
……どうして、魔王に選ばれたのが私だったのだろう。
他の人……例えば、美咲先輩みたいに、私より可愛くて強い人なんていっぱいいるはずなのに。
なんでなんだろうな……。
ふと顔を上げてみると、衣装棚が目に入った。
先代の服だろうか。それとも、コレクション?
興味をそそられた私は、恐る恐る衣装棚に近寄る。
「失礼しまーす……」
誰もいないのに、なんとなくそう呟く。
なんだか故人の荷物漁るみたいで(事実そうだが)気が引けるけど、気になるのだ。
ごめんなさい先代様。
「わ……」
すごい。
そこには、the・王様!という感じの深紅のマントや、黒いローブなどがたくさんあった。そしてどれもが、服であっても、コレクションであってもおかしくない、魔王としての正装みたいな衣服がばかり。
……あ、この焦げ茶のフーデッドケープ、私でも着れるかも。
服を見ているとなんだかわくわくしてきて、沈みがちだった気持ちも少しだけ上がってきた。
「あ、ここにはウィッグもある!」
女物の長いものから、男物の短いものまで。
さすがに日本製のものほどではないけど、本物の髪から出来ているのか、結構質がいい。
……だからか、やはり黒いウィッグはなかった。
だいたいブロンドか、金に近い茶色のものだ。
「これは、コレクションかなぁ」
それとも、先代様のものではなく、もっと前の魔王のものなのかもしれない。
それで、なんか魔力みたいなもので、質を保ってる……とかも有りうる。
今まで聞いてきた先代様の印象からして、あんまり変装はしなさそうだし。
「……これを被れば、魔王ってバレないかもしれないかなぁ」
ウィッグを手に取って、呟いてみる。
……まぁ、バレないからどうだってことはないんだけど。




