14 、魔剣ディアボロス
「でぃあぼーろ?」
なんだその、乳児用のお菓子みたいな魔剣は。
「いいえ陛下、ディアボロスでございます。今は宮殿の奥深く、悪魔文字の石碑と共に黒曜石の台座に置かれています」
「魔剣……ディアボロス」
言いにくい名前だな、と何度か口の中で反芻する。
もしそれを手にする機会があって、もし勇者と対峙する時があるならば(会えたらすぐ命乞いするつもりなので、ないとは思うが)、その時に剣の名前を噛んだりしたらムードが破壊される。多分。
「魔剣の抜き方には作法があり、共に置いてある悪魔文字の石碑には、その手順がかかれています。戴冠式の際には、それを抜くことで即位を証明するのですよ」
「ほうほう」
作法が悪魔文字で書かれている石碑、ねぇ。
悪魔文字……。
……って読めるかあああ!!!
「ランスさん、私、悪魔文字なんて読めません!」
「何をおっしゃいます。魔王陛下ならばその身に流れる血により、必ず読めるはずでございますよ」
あなたこそ何をおっしゃいます。
私がそんな、悪魔文字なんて読めるはずないじゃないか、私は人間なんだから。
……はっ、待てよ。
私はそこで我に返った。
……これで、悪魔文字が読めなかったら、私は魔王ではないと証明されるのでは!?
もし読めなかったら身の危険があるかもしれないという思考は、最早私にはない。
「ランスさん、なら、その魔剣と石碑、1度見てみたいです」
「陛下」
そう仰ってくださると思っていました、という顔をするランスさんに若干引きつつ、私は続ける。
「ですから、連れていってください。その魔剣があるところへ」
「御意のままに」
四天王のリーダー……“智の王”は、恭しく跪くと、深々と頭を垂れた。
そして、他の四天王に自分の領へ帰ってよしと言うと、私とランスさんは宮殿の奥深くへ、魔剣と悪魔文字の石碑を見に行くことになった。
……連れてこられたのは、暗い地下室だった。
昼間ではあるが、蝋燭1本の明かりと、小さな天窓から漏れてくる光じゃ、やはりとてつもなく暗い。
湿っぽいし……怖いし……。
私がげんなりしていると、ランスさんがランプに火をともした。
少しだけ明るくなる地下室。
だが、恋しいLED。どっちかっていうと、やっぱり日本に帰りたい。
「陛下、これが魔剣と石碑でございます」
ランスさんが手で指し示したのは、黒い台座に刺さった剣と、それから、灰色の石碑。
これが、魔剣ディアボロス。
どこぞのインチキ占い師(私が言うことではない)が確か、ラッキーアイテムは魔剣がどうのと言っていたが、とてもそんな雰囲気じゃない。
……私はゆっくりと魔剣に歩み寄る。
しかし何か、怖いものに威圧されるみたいな悪寒を感じ、手を伸ばすことはできなかった。
「……さすが陛下でございます」
「へ?」
突然響いたランスさんの声に、振り返る。
え、触ることも躊躇われたのに? なにがさすがなのか、わからない。
しかしふと、彼の顔色が心なしか青いのに気づいた。何があったんだろう、と思うと、ランスさんが答える。
「私には……これ以上その魔剣に近づけそうにございません。即位するより前に、その魔剣にそこまで近寄り、平然としていられる。それが、魔王の魔王たる所以ですよ」
「え……」
近づくことすら、できないんだ……。
触れないことは、即位前の魔王として恥じることではないのか。
そこまですごいのか、この魔剣は。
「先代様も、即位された身にも関わらず、それを持つことには苦労されていました。魔王城に運ぶことも、大仕事だったのですよ」
「そう、なんですか……」
ランスさんは頷いた。そして再び、今度は石碑を指し示す。
「では陛下。早速、その石碑を読んでみてください。悪魔文字は、魔王陛下のみが扱える文字。貴女が真なる魔王という証拠は揃っています。必ず読めるはずでございますよ」




