13、四天王
「改めて、自己紹介をしておきましょう」
何がなんだかよくわからないまま王座に座らされると、私前には4人が跪いた。
え、何? なんなのこれ。何かの嫌がらせ?
制服で王座座るとか、シュールすぎか。やっぱりいじめか。
……混乱は収まらない。むしろ悪化している。
ランスさんの優しげな笑顔も、今は悪魔の微笑み(実際そうなんだけど)にしか見えない。
「私の名は“智の王”ランスロット。貴女の宰相です」
「し、知っています」
なんだこの会話。空気も何もあったもんじゃない。『存じ上げています』とか言った方がいいのか?
泣きそうになってきた私に、今度は焦げ茶のたてがみに灰赤の瞳を持つ狼男らしき人が言った。
「我が名は“獣の王”アルフレッド。お会いできて光栄だ、我が君よ」
我が君とかやめて死んじゃうと叫んでいいかな。
そして黒いローブに鎌を持つ、死神のような隣の人も言う。
「わたしは……“死の王”ブラッドリー。お見知りおきを」
性格暗すぎか! 怖いわ!!
「そして……吾輩が“妖の王”グラディスだ」
今度は、耳の尖ったおじいさんが深々の頭を下げた。戸惑いつつも、私は王座に座りながら、4人の臣下(仮)を見回す。
“智の王”。
“獣の王”。
“死の王”。
“妖の王”。
彼らが、巨大な魔族の王国__影夜国を支える有力な貴族であり、大きな領を治める“王”たちなのだ。
そして、私は。
この影夜国全体を治める……魔王。
「これで四天王は全て揃いました、陛下。戴冠式まで、まだ時間はございます。
どうぞそれまでに、それぞれのお顔を覚えていただけるように、お願い致します」
「は……はい」
ランスさんの声に、安堵する自分がいることに気がついて、私はハッとした。
……いつの間にか、受け入れていた。
この世界で生きることを。
そして、最初は恐れていたはずのランスさんに、私はすっかり気を許している。
それがいいことなのか、悪いことなのか。
……私では、判断できない。
「それにしても、なんと素晴らしい漆黒……。
黒壇の髪に瞳……自然の黒が、これほどまでに美しいとは」
低い声で、感極まったように言ったのは、フーデッドケープに似た黒いローブを纏う“死の王”、ブラッドリーさん。
待ってやめて近寄らないで、近寄るならせめて鎌をしまって。あなたに首ごと生命を刈り取られそうな気がします!
「ああ、吾輩も同意だ。いたいけな少女のはずなのに、なんて純粋な高魔力……感服する」
「そ、そんなことないです……」
「いいや、あるのだ陛下」
今度は“妖の王”グラディスさんが言う。
「これならば、人間どもを支配しアシュタロスを統一することも、夢物語ではなくなりましょうぞ」
………っ!
その言葉に、一気に顔から血の気が引いていくのがわかった。急いでランスさんに目を向けるが、彼は悲しげに目を伏せただけで、何も言わなかった。
「その通りですな、“妖の王”。現勇者も、我が獣王領のスレイブヤードに囚われている」
「魔族が世界の頂点になるのも、もうすぐですねぇ……」
楽しげに笑う四天王のうち3人に、慄然とした。
3人とも、目立って悪い人はいないようなのに、こんなふうに人間を貶めて、笑っている。
支配することを当然なように言っている。
そうか、これが……異種族の戦争なのか。
なんて怖ろしい。
私はなんて国の……王になることになってしまったのだろう。
「陛下。それでは御名をお教えいただきたい」
「は……はい。私は一ノ瀬愛美……といいます。剣道部所属です」
あ、しまった。
何言ってんだ私は。今剣道部なんか関係ないだろう。
……しかし予想外なことに、四天王の食いつきはよかった。
「陛下……マナミ陛下は剣を扱えるのですか?」
「その細腕で? 剣を振るえると?」
「流石でございます」
うぁぁぁ、失言だったぁぁあ。地雷踏んだぁぁぁ。
ランスさんに助けを求めるように目を向けたが、彼も畏敬の視線を私に注いでいて、助けてくれる素振りは見せない。
待ってぇぇ、私はインターハイ3回戦敗退した人だよぉ、もっと剣の腕がいい人はいるんだよぉ、例えば美咲先輩とかぁ……。
よく考えれば気づいたはずである。
ゲームでもラスボスの魔王は魔剣を持ってるじゃないか!
私のバカ、と嘆いていると、ランスさんが言った。
「それならば、陛下に見ていただきたいものがあります。正式に即位されていませんから、抜くことはできないでしょうが……、12代目様が封印を解いた……それも魔王のみが扱える、魔剣・ディアボロスがあるのです」