12、緊張する
「いつお怪我をなさったのですか?」
「ええと……その、多分、あの兵士さんを手当した時にだと思います」
「あの人間の……なるほど。それは、魔除けで負った火傷でございますか」
「!
わかるんですか!?」
目を丸くする私に、はい、とランスさんは頷く。
そして私の手を取ると、例の如く、あっという間に治癒してしまった。
まだ信じられない気持ちで、綺麗に治った自分の手を見て放心している私に、ランスさんは優しく微笑む。
「戦場に出ている人間は、たまに白い星の魔除けをしていることがあります。魔除けには、人間の貴族や王族、賢者、僧侶などが持てる『聖力』と呼ばれる力が込められていて、我々魔族の持つ力……魔力に反発し、時には浄化されてしまいます」
賢者! 僧侶!!
これぞ正に前世紀の遺物(失礼)、正に王道ゲームのパーティーの役職!
そんな思考を内で燻らせつつも、私は尋ねる。
「その聖力……というのと、私の持つ魔力? が反発したから、火花が散って私が火傷をしたってことなんですか?」
「左様です。さすが陛下……ご慧眼です」
「やだもうやめてくださいよ……。そんなに褒めないで!!」
そこまで手放しに褒められると、むしろ鳥肌がたつ。羞恥で死ねるからやめてほしい。
……というか、もうあの占い師の件で懲りたから。舞い上がるのは。
「余程の魔力と聖力に差がなければ、2つの力は反発し合います。恐らく、陛下の体から漏れ出る魔力と、魔除けの力が拮抗したのでしょうね。
……そして聖力は弓矢などに纏わせ、破壊力を増加させることも出来るのです。それに対抗する為、陛下は、普段から流れ出ている魔力を体に留められるようにならなくてはなりませんよ」
……そんなこと言われても、そもそも人間(?)の私に本当に魔力なんてあるのだろうか。
黒い炎は確かに操れたけど、それだけだし。
他の誰かが私を守ってくれたという可能性も、
いや………ないか。
この世に魔王は私1人だけだ。
「聖力の象徴は、白と金、そして星。ですから、人間の王族…つまり勇者の一族は、白金色の髪に、瑠璃色の瞳をしています」
「ひょえ〜……」
それ、かんっぺきな外人さんだ。
あの兵士さんみたくかんっぺきな外人さんが、日本語ペラペラってことだよね?
……シュールだ。
そしてランスさん曰く、魔力が強い者ほど明度が暗く、色素の濃い色の瞳や髪を持つらしい。
しかし、薄くても黒ければ……つまり、灰色や茶色などの瞳や髪を持っていたりすれば、魔力が高いんだそうだ。
もちろん、濃ければ濃いほど潜在魔力が多い。
そして、その最たる例がこの私、黒髪黒目の一ノ瀬愛美というわけだ。
「……さぁ陛下、こちらが王座の間でございます」
「う……わぁ……」
扉だけでも圧倒されてしまう。
なんて荘厳で、美しい黒い扉なの。
あの正門よりサイズは小さいのに、豪華絢爛でもないのに、どうしてこうも圧倒されるのだろう。
「それでは陛下……お入り下さい」
ランスさんが扉を押して開き、恭しく私の手をとった。
「……っわ……」
部屋の中の様子に、私は思わず声を漏らした。
壁には黄金の彫刻、天井画は精巧な悪魔の絵。
吊り下げられたシャンデリアは、蝋燭を取り付ける形の、ゴシック的なデザインだ。
私の前に敷かれた黒いカーペットは、まるでおエライさんのの通る花道のよう。そしてだだっ広い部屋のど真ん中に鎮座し、圧倒的な存在感を放つ、漆黒の王座。
「陛下、ようこそ我らが魔族の国、影夜国へ」
部屋にいた、ランスさんを含めた4人が声を揃えた。
皆、それぞれ膝をついたり、心臓に手を当てたりと、忠誠を誓うような体勢だ。
……どうしよう。緊張の余り全身の穴という穴から何かの汁が出てきそうだ。