10、影夜城
「さぁ陛下。ここが貴女の城、影夜城でございます」
「……うっそ」
「嘘ではございません」
____そして、着いたよ魔王城。
魔王に挑む勇者の気持ち(私が仮魔王なのだが)で来たんだけど、
デッカぁ……。
……立派な塀。おどろおどろしいが精巧且つ美しい壁の彫刻。黒光りする門。
どうしよう。
見習い勇者レベル1で装備が『皮のよろい』から、いきなりトラップか何かでステージ吹っ飛ばして、裏ルートで魔王城に来ちゃったような…そんな気分だ。
勇者、よく戦う気萎えなかったな。賞賛に値するよ。
「ご帰還ですか、ランスロット閣下」
「ご無事で何よりです」
「ああ」
ひぇぇぇ、門番の人の時点でマジ怖だよぅ、悪魔の羽があるよぅ。
びくびくしながらランスさんの後ろに隠れていると、門番の人が私を見た。
そして、みるみる目を丸くする。
「な……なんと……黒髪に黒瞳……! それでは、貴女が、魔王陛下ですか……!」
あわわわ、門番の方も黒髪と黒い瞳で魔王だと判断するんだ……。
困ったな、ここではこの目と髪は目立ちすぎる。
ウィッグとかカラコンとか、入ってなかったかなとバッグをちらりと見てみるが、そんなものが入っているはずがない。
「そ、その……はじめまして」
「お初にお目にかかります、陛下!!」
ガバッと頭を下げられて、やはり魔王というのは恐れられるものなんだ、と感じる。
もっとフレンドリーにしてくれたらいいのに、と思うけど。それは多分無理なんだろうな。
「ではここを開けてくれ」
「もちろんでございます、ランスロット閣下」
今度は恭しく頭を下げると、門の向こうへ向かって叫んだ。
「___開門! 開門!!」
ゴゴゴゴ……と重い音をたてて、豪華絢爛な門が開いていく。ランスさんはそれを見ると、かつかつと足音高く城内に入っていった。
「ま、待ってくださいランスさん!」
こんな広いお城で置いていかれたら、確実に迷子になってしまう。
それだけは絶対避けたい。
仮にも“魔王陛下”が、自分の城で迷子とか情けなさすぎる。
「さぁ陛下、王座の間へ案内致します」
城そのものに恐る恐る足を踏み入れると、ランスさんがこちらを振り向いてそう言った。
私はもう、城の立派さに気後れどころではない。完全に怯えているレベルだと自覚している。
「王座の間……?」
「陛下の書斎のようなものです。寝室は別にありますので。そこに行くまでに、軽く我が国の歴史をお話いたしましょう。王座の間には、既に領の王たちが集まっております故」
領の王? って、なんだろう……。悪魔の貴族、みたいなものだろうか。
私が混乱していると、歩きながらランスさんが壁に視線を移した。
そして、足を止める。
つられて私もそれに倣うと、そこに掛けてあったのは、大きな額縁に飾られた、黒髪黒目の男性の肖像画だった。
「あ……この人……黒い髪と瞳だ……」
「はい。彼こそが影夜国が始祖、初代魔王陛下です」
ランスさんが、頷く。
決して彼……初代魔王は、人間離れした美貌、というわけではなかった。ただ、優しげな眼差しをした日本人という印象。
なるほど。初代に1番近い魔力を持つのが、私……か。
なんとなく、それも……わかったような気もする。
だがしかし、肖像画には1点だけ不自然なところがあった。……紙の切れ方がおかしいのだ。
肖像画自体も、初代魔王陛下の肩あたりで見切れているし、紙の端はギザギザしている。
そう……まるで、何かを破ったように。




