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9、変えなくちゃならない

「……そう、ですか……」


地球でも戦争はあった。

自分と違う民族は争い、諍い、弱い者は迫害され、差別される。

ここも同じだ。

人間が魔族を憎むなら、魔族も人間を憎む。

どちらも『加害者』になりたくないんだ。『正当防衛する被害者』になりたいんだ。

十二代目は、人間を蹂躙する世を作りながらも……人間が悪だと広めたのか。


「……陛下。そろそろお暇しましょう。

店主、この地図を買おう。いくらだ」

「毎度。それの値段は……えーとですね」


私が唇を噛み締めたのを見たのか、ランスさんが店主さんと値段の交渉を始めた。

ランスさんも……あの兵士さんが言うには、前魔王に『休戦』を提案した唯一の幹部だったらしい。

どうして自分で結んだ休戦協定を破ったりしたんだろう。

考えながら私が顔を上げると、魔族の男の子がべしゃっと目の前で転んだ。


「ちょ……ちょっと君! 大丈夫!?」


あわてて男の子に駆け寄り、抱き起こす。

ああ、膝から血が出てるよ、可哀想に。

そしてふと、魔族でも血は赤いんだな、なんてくだらないことを思った。


「うん、大丈夫……ありがとう、おねえちゃん」

「良かった。気をつけてね」

「わかった……、

って、え……!? 黒い、髪……!」


私が微笑んで、男の子が笑顔で頷いたと、そう思った。

しかし、向けられたのは恐怖に歪められた顔。

怯えた目を見て、震え始めた肩を見て、困惑する。

これ。ど、どうなってるの……?


「ごめんなさいっっ!!」

「えっ?」

「魔王様、ごめんなさいごめんなさい、きたないものを見せてごめんなさい。あやまりますから、許してください。首をはねないでください」


な、と私は思わず絶句した。

……首を、刎ねる……!?

男の子が、蒼白な顔のまま、乱暴に自分の膝の血を拭う。

そんなやり方じゃ、傷口にバイ菌が入っちゃう。

それに……そんなこと、するわけない!

中世ヨーロッパの処刑じゃないんだよ?


「落ち着いて。大丈夫、首なんて刎ねたりしないよ、ねぇ」


そう言って、魔族の少年の肩に触れる。

しかし、その肩がビクッと震えて、反射的に手を引っ込めてしまった。

そして周りを見回すと、恐怖に顔を歪めた他の魔族の人たちが、私達を遠巻きに見ていた。

泣きそうな顔でおろおろしているのは、この子のお母さんだろうか。


「どうかしたのか」


響いたのは、手に地図を持ったランスさんの声だった。弾かれたように顔を上げた男の子が、安堵に顔を少し綻ばせる。


「ランスさん……私、ただ……この子の怪我を心配しただけで……」

「……わかっております、陛下。貴女は心優しいお方だ……。少年、安心しろ。十三代目様は先代様のように“厳しすぎる”お方ではない」


ランスさんがふわりと微笑んで、男の子の怪我をした膝に手を翳す。

途端、その掌から暖かく白い光が漏れ出て、それが消えた時には、既に彼の怪我は綺麗に治っていた。


「ランスロットさま……本当に魔王様は、優しい人なの?」


恐る恐る、というように男の子がランスさんに尋ねる。

ランスさんは「ああ」と言って頷くと、彼の頭を撫でた。

……すごい、と私は感嘆のため息をついた。……ランスさん、すごく信頼されてるんだ。

彼が私を庇ったその瞬間に、私に対する恐怖の視線は一気に減った。

すごい人なんだな……。


「あ、あの……本当に、殺さない? 僕のこと……」

「……そんなこと、するわけない! 誰も、君を傷つけたりしないよ」


おずおずと私を見上げた男の子に、ツキンと胸の奥が痛む。

こんな小さい子をも、ここまで怯えさせて。

なんて奴だったんだろう、先代様とやらは。

……前の勇者に討伐されたのは、その非道さ故だったのかもしれない。


「ああ、坊や……良かった。新王陛下、ご寛大な御心に感謝致します」


駆け寄ってきた女の人……男の子の母親らしき人が目に涙を溜めて、頭を下げた。

寛大な心も何も、なんで子供が転んだだけで処罰しなくちゃならないんだ。

そんなことを認めるなんて……腐ってるよ、この国は。

いや違う。腐ってたのは……先代魔王か。


____変えなくちゃならない、と強く思った。


人を恐れ、見下すも、蹂躙しようとする歴史も。この世界の未来も。

そして、この影夜国という国を、自分の手で護らなくては、と。

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