プロローグ1
「おめでとうございます。あなたの前世は中世の女王様です」
「えっ、私女王様!?やったぁ嬉しい!」
「愛美、あのねぇ……」
昼下がり。とある駅前の広場。
紫色の水晶に手をかざした、紫色のベールを被った占い師は、妖しげにに笑いながら私……一ノ瀬愛美にそう告げた。
紫色の水晶は中がふわふわと光り、神秘的な雰囲気を醸し出している。
そう。私は今の今まで、占い師に前世占いをしてもらっている最中だったのだ。ちなみに料金は1000円。
やだ、前世は中世の女王様だって、私。
ちょっと嬉しいかも。
「ねえ愛美、もう帰らない?どう考えても、この占い師かなり胡散臭いわよ」
「まあまあ、美咲先輩。もしそうでも騙されたわけじゃないし!」
「つきましては、来世のための運気を上げるストラップを5000円でどうでしょう」
「買いますッ」
「待てい!!」
剣道部一の美少女、美咲先輩が私の腕を引っ張る。
高校2年にして、インターハイベスト4を飾った美咲先輩の腕力はハンパではなく、身を乗り出した私はあっさり椅子に引き戻されてしまった。
「やだ、何するんですか先輩」
「何するんですかはこっちのセリフよ! 言ったそばからストラップ買わされそうになって! あんたもう高1でしょーが!」
「えーっ、わかんないんですか先輩、この神秘的なパワーを秘めたこのストラップの魅力が」
私は占い師の手からストラップを受け取り、美咲先輩に見せる。
陽光を反射して光る飾りのついたストラップ。5000円には見えないが、それなりにお洒落だ。
……しかし、美咲先輩はすぅーっと息を吸うと、それからめいっぱいの力でそのストラップを私の手からはたき落とした。
「「ああーっ」」
同時に声を上げる占い師と私。
とどめに美咲先輩はそのストラップ__勾玉の形である__を、
思いっきり空にぶん投げた。
ああああ、何やってんですか先輩、それは曲がりなりにも商品なのに!
「あなたっ、そのストラップ、どうしてくれるんですか!?弁償してもらいますよ!」
「んじゃあんたも占い料1000円返せ! インチキで愛美を騙そうとして! 全部録音してあるんだからね!警察に通報するわよ!」
「ぐっ」
占い師があからさまに言葉を詰まらせ、上体を仰け反らせる。
美咲先輩の迫力に恐れをなしたのは、正直彼女だけではなく私もだった。美咲先輩男らしいけど怖いです。
「さぁどうするの、返すの返さないの!? 本当に警察に通報するわよ!」
「かか、返します!だから警察はやめてください! 私はただのバイトなんですぅ! いつもの占い師が腰痛で休みで、臨時で入ったんですぅ!」
紫色のベールを被った占い師の女性が、慌てふためきながら、私に野口さんを押し付ける。
いや、どう見てもベテランの装いじゃないですかあなた。
…………え、まじで?まじでインチキでした?
信じられない、騙された。こんなに自分が騙されやすい性質だったとは、自分で自分に唖然としてしまう。
……というか確かに、冷静に考えれば先輩の言うとおりかなり胡散臭い話だった気もする。
ただ単に私があほだっただけか?
このままじゃ割に合わない、さらにメンツも立たない、と私はすごすごと店じまいを始めた占い師にあわてて言う。
「あ、あの! もうなんでもいいので、せめてラッキーアイテムとか、教えて下さい!!」
「は? ラッキーアイテム?」
「はい! ほら、何かあるでしょう!?」
ええと、と視線を足下に落としたあと、占い師は早口で答えた。
「ラッキーアイテムは……その、魔剣です!!」
……はい、お疲れ様でした。




