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そう、柴崎さん

作者: 彦音梟


『ふぅ、やはり図書室で行う読書というのは集中できていい。今時の高校生は読書家が少ないからこの図書室も過疎化が始まっているみたいだしマジGJグッジョブ。さて、これの続きを持ってこようかな。』


僕は玉西学園1年生、名前は金森要かなもりかなめと申します。趣味は本を読むことで放課後などはよくこの図書室を利用し、入学してから数週間経過していますが今のところ皆勤賞でございます。


『よし、続編の話があったし読むとし...』


『おい、俺図書委員なんだけどこれからデートなんでもうここ閉めっから出てってくんない?俺が教室へカバン取り行く間に頼むぞ。』


図書委員であろう男はそのまま図書室を後にする。


えっ?もっと働けよ。お前みたいな怠け者な若者がいるから社会は良くならないのを知らないの?


『まったく、あんな本なんか持ったことのなさそうな奴がなんで図書委員に在籍しているんだろうか。仕方ない続きは次回にでもっ...!?』


手に取った本を棚に戻そうとしたら突然風が吹き思わず顔を伏せてしまう。風が吹き付ける中、窓の方を見ると巻き上げられたカーテンの中から1人の少女が姿を表したのが分かる。艶のある綺麗な長い髪を靡かせ、夕暮れの茜色に染められた彼女は目からは雫が流れているのが見えた。


そう、柴崎しばさきさんだ。


柴崎沙希しばさきさきさん。確か同じ学年で品行が良く大人しいタイプだと友人達は言っていていた。同じクラスではないしあまり噂をされるような人ではないためよく知らない人だ。一見するにこちらのやり取りにも気づいていないように見え、立退くように言われたのもあり声を掛けることにする。


『すみません、僕は金森要と言います。確か同学年の柴崎さんですよね。ここはもう戸締りがされるみたいですから出ましょう。』


『えっ?あっ、はい...』


彼女と共に図書室から出すと彼女にハンカチを差し出す。


『えっ...あ...あの...』


『いきなり声を掛けて驚かせてしまいすみませんでした。涙を浮かべているようでしたがどうかなさいましたか。』


『あっ、す、すみません!たいした理由はじゃないんですけど...えっと...は、恥ずかしながら...読んでいた本に...感動して涙が...』


あぁ...絶対いい子だよこの人。僕には分かる。


『そうでしたか。深刻な理由でなくて良かったです。じゃあ僕はもう帰ります。』


『あっ、ハンカチ...』


『あぁ、それはさしあげますよ。それでは失礼します。』


そうして僕はその場を離れた。


『みんなの言うとおり柴崎さんはおとなしくそれでいて口数も少なく声も小さめだったがそれはきっとおしとやかなんだと思える。さらに本を読んで感動し涙を流すなんて心が澄みきるほどの純粋な証拠なんだし好感をもてる女性だな。あとなんか...かぐわしい香りをしてた。』


その日は柴崎さんのことを考えながら家路に着いた。そしてしばらく日が立ち普段通り図書室で本を読んでいるとふと甘い香りがすることに気づき横を向くと1人の女性が立っていた。


そう、柴崎しばさきさんだ。


『やはり柴崎さんでしたか。』


『読書に集中していたのによく気づくことができましたね。』


『まぁ...なんとなくですよ。』


敏感な鼻なので好みの香りは忘れません。


『あの...金森君...にハンカチの...お礼をしたくて...これをどうぞ!』


彼女の手には紙袋があり、受け取って中を確認するとたたまれたハンカチのほかに可愛くラッピングされたお菓子が入っていた。


『ありがとうございます。美味しそうなクッキーも入っていますけどわざわざこれを届けるためにここにいらしたのですか?』


『それも一つの目的なんですけど...あっ、あの!頼みごとがあるのですが!聞いてもらえないでしょうか!』


図書室に柴崎さんの声が響く。


『えっと、とりあえずここ図書室なので声のトーンを少し下げてもらえませんか。ここの利用者も少なからずいますから。』


周囲に目を向けるとこちらを見る少年少女達の視線が刺さっていくる。その視線に対し柴崎さんは顔を赤らめている。


『やはり場所を移しましょう。どこか空き教室にでも。』


『で、でしたらいい場所あります。ご案内致します。』


そそくさと図書室を出る柴崎さんを追いかけていくと文化部の部室がある部室棟へ向かいその一室へと招かれる。


『ここは柴崎さんの所属する部活動ですか?』


『ここはまだ部活動として認められていない部の部屋です。あの〜...頼みごとなんですけど私と...その...』


はっ!この展開はまさか!学生生活における青春イベントの1つ...告白イベ...

『一緒に部活動をやってくれませんか!』


あぁ...確かにそれも青春ですよね...


『うぅ...やっぱり急なお願いですし無理ですよね...』


『いや、そういう訳ではなく...そう!何部を立ち上げるつもりなのか聞いていないもので。』


『す、すみません!そういえばお伝えするの忘れていました。恥ずかしい〜。』


柴崎さんは恥ずかしさのあまり顔を赤らめていて可愛らしかった。


『萌え...』


僕は思わず心拍数が上がり本音が口元から漏れてしまった。


『え?今何かおっしゃいましたか?』


『いえ、くしゃみなのでお気になさらず続けてください。』


『は、はい。私は探求部という部活動を作ろうとしています。』


『探求部?』


『活動内容については各々が興味関心を持つ事柄をお題として挙げてみんなで深く探求しそれを新聞などの刊行物を書いて校内に掲示していこうと考えています。』


『興味関心の探求ですか。確かに面白そうではありますが僕は読書をする時間が減ってしまいますから部活をするのは...』


『でしたら主に本を読んでくださってよろしいので、たまに私のお題の調べことや刊行物作成のサポートをしてください。』


『まぁ、サポートをするって事でよろしいのでしたら是非参加させてもらいます。』


可愛くおしとやかな性格で文学少女な女性と2人きりで放課後を過ごせる展開でそれがしは満足です。


『ありがとうございます!これからよろしくお願いします!』



こうして僕たちは探求部を立ち上げ共に活動していくうちに関係を深めていき、気づいたら恋仲になっているのであった。








という展開を期待していました。


探求部に参加してから約半年の時間が経過しましたがお付き合いはしておりません。活動をする中で彼女のことをたくさん知ることができたが気掛かりな点があるのでした。


バンッ!

探求部のドアが勢いよく開き1人の人物が現れる。


『今日も私と要君の探求部の活動を開始するわよ!』


そう、柴崎あのひとさんだ


『本日我が探求部は本校のアレについて調べるわ!』


『アレと言うと...あぁ、この間言っていた学園の噂の事ですよね。今度複数ある中の1つを検証しようとか言ってましたもんね。』


『そう!今回は学園の噂である“秘密の手紙”について探っていこうと思うの。』


『それはいったいなんです?』


『この学園には行方不明の手紙があるみたいで手紙の内容はバラバラになってこの学園の様々な場所に隠されているの。それらを集めて謎を解くと財宝が眠っている場所にたどり着くみたい。きっと思い人に残した遺産とかが眠っているのかもしれないわね。そして探すのであれば男女のペアで探した方がいいとの情報もあるから私と要君とで学園を探索し、不思議の解析と共に真相の公表をするのが今回の活動よ。だから今回こそは要君には大いに働いてもらうから覚悟しなさいよ!』


『いつも側にいて柴崎さんの探求対象について僕の持つ知恵を提供して活動しているじゃないですか。』


『確かに要君ってたくさん本を読んでるから知識豊富で今までの活動にも頭脳面では役立ってきたけど今度は体を動かす面で活躍をして欲しいって意味よ。それより話を戻すけど手紙の探索方法について私は部室に隠されてあった著者“金麟様ゴールデンジラフ”のファイリグ本を見つけ、そこに情報が載っていたから要点をまとめたものをメモしたから説明させてもらうわよ。まずは...』


入部して以降の柴崎さんは最初こそ思っていた通りの性格や口調であったが時を刻んでいくうちに言葉使いはくだけ、僕との関係に慣れが生じてか清楚感は消えて品行の良かった振る舞いもなくなり僕が惹かれていた柴崎さんの印象は幻影となっていた。しかもそのキャラクター性は僕と2人きりの時だけで、それ以外の状況だと僕が出会ったばかりの大人しいキャラに戻るのである意味詐欺紛いの行為と感じとれる。ちなみに部活動ですが、柴崎さんが日々図書室やパソコンを使っては興味の沸いた不思議な現象や文献の事を調べています。そして僕は彼女が調べごとをしている最中にいつも横で文庫本を読み漁っていて、ちょくちょく話しかけられては調べごとの意見を言ったり報告を聞く相手役になっています。



『ちょっと要君!話聞いてるの!』


『当然ですよ。普段の僕は柴崎さんの言葉を聞き逃す訳ないですか。』


うわぁー、全然聞いてなかった。まぁ、柴崎さんは単純な人だしいつも通り誤魔化しつつ接していこう。


『そうね。要君はいつもしっかりしているから大丈夫よね。じゃあ早速キーワードがある場所へ行くわよ!』





こうして僕達探求部の秘密の手紙探しが始まる。移動時に柴崎さん口から出た情報を聞きこれからの目的を簡潔にすると“散りじりになった手紙キーワードを集める”ということになる。そして集めたものが秘密の手紙となり財宝を見つける手掛かりになるということだ。



柴崎さんの後に着いて行くと多くの本が並ぶ部屋に到着する。最近は本の他にCD、新聞、DVDなどのレンタルなども行われていて貸し出しの受付には招き猫が置かれていた。


『要君の生息地だった図書室に来たわ。』


『案の定図書委員はサボリ魔ですからわざわざ職員室から鍵を借りる事になりましたね。』


『図書室に隠されたキーワードのありかの暗号はこれよ!』


柴崎さんが手帳を見せてきた。


『”この部屋の門番により隠される“って書かれていますが柴崎さんはどういう意味か分かりますか?』


『目星はつけているわ!何故かこの部屋に置かれている異様な存在である招き猫こそ門番の正体よ!』


柴崎さんはそう言うと招き猫を手に取り調べ始めるがしばらくするとそのまま元に戻す。


『いろんな角度から見ても、叩いてみても、振ってみても怪しい部分が見当たらないのよ...この謎はもう迷宮入りだわ...』


『図書室で門番...例えば門番といえば見張りや管理をしているイメージがしますからこの場所で考えれば図書委員とかになるんじゃないかと。そして委員の人はパソコンのデスクで貸出のやり取りをしますから受付のデスクを探せば...ほら、ここに鍵付きの引き出しがありますから次は鍵を探しましょう。』


『あっ、それなら大丈夫よ。ここにあるから。』


『...』


『なんで持っているのって顔しているから説明するけどキーワードが隠された部屋ごとにアイテムがあるのよ。』


『別にそんなこと思ってませんよ。ではその鍵が使えるかどうか試しましょう。』


柴崎さんが意気揚々と錠前に鍵を差し込むとカチャと音がなり、中に入っていた物を取り出す。


『”六“と”山“と書かれた紙切れがありましたがこれがキーワードですね。この2つだと僕は兵庫県の六甲山を連想してしまいますよ。』


『もっと集めていけば真実は見えてくるわ。そうと決まれば次のステージへ行くわよ!』


そうして次のキーワードを探しに歩き始める。普段から楽しそうに話をする人だけど今回の柴崎はいつも以上に楽しそうに見える。まるでゲームをしている子供のようにはしゃいでいるから僕としても彼女が嬉しそうだから喜ばしく思った。


『次の部屋に着いたわ。』


そこは美術室で机や椅子のほか、人物画のキャンバスとイーゼルのセットがいくつか並べられたり棚に石膏が並べられたりホワイトボードが置かれている。


『ここは塗料など画材の種類や石膏の数が多くて美術部員も多いらしいですね。今飾られっている石膏は上段の右からミロのヴィーナス、ラボルト、アポロ、ブルータスで下段はマルス、ヘルメス、ラオコーン、メディチと置かれていますが美術倉庫にもまだあるらしいですよ。それはそうと柴崎さん、手帳を貸してください。』


『えっと......はい、このページよ』


『美術室の暗号は“人々の中に潜む”とありますね。』


『ふむ、確かにそう書いてあるわね。』


うわっ!?一緒に手帳を見ている体勢になっているから柴崎さんとの距離が近くに!


『ふむふむ、今度こそ私の推理によって解決される時よ!』


『まず注意する点は【人】ってところね。美術室において人というのはこの絵描かれた人物画の名前の事を指しているのよ!』


『それだと高良孝仁たからたかひと一刻瞳ひとときひとみの2名が【ひと】という言葉が入ってますが......その方達の絵をどうするつもりですか?』


『潜んでいるのだから......切り裂いて中を見てみるとか......』


『僕のクラスメイトの名前がありましたからこの作品は在学中の生徒さんの作品と考えられるでしょう。昔からある学園の噂とは関係無いと思いますし切り裂いて中を見たところで謹慎処分になるだけですよ。』


『うぅ〜。』


隣で唸っている柴崎さんを可愛いと思ったが気持ちを切り替えて暗号について1つの答えを出す。


『柴崎さん、今回は石膏に注目してください。』


『石膏?』


『あれらの石膏像の中で仲間はずれがいるんです。』


『仲間はずれ......それは暗号に関係するのかしら?』


『その通りです。この中には人物と神話の神とで分けられ、キーワードが入っているのは人間にカテゴライズされる人物達です。』


こうして2つの石膏像を手に取り2人で調べる。


『このローマの政治家であったブルータス、フェレンツェの政治家メディチには穴か切断面が......ほら、裏面に丸く切断面がありましたよ。』


『本当だ!でも、これ爪とかも引っ掛かりそうもないけど、どうすれば開くのかしら?』


『柴崎さん先程のパターンで何かアイテムが入っているのではないでしょうか。』


『あっ、そうね。ではでは次のアイテムは...これ!...よ?』


柴崎さんが摘むように取り出したのは円形状の物体2つで取り出した本人もはてなマークを浮かべていたが石膏の裏面に近寄せると何か起こったみたいで顔が明るくなった。


『私の読み通りこれは強力な磁石になっていてくっつける事により裏面の蓋を取るための摘みの役割になっているのよ。』


『そんなトリックに気づけるとはさすがですね柴崎さん。あっ、切り口が取れて中から紙が2枚ずつありましたよ。』


『ブルータスの方が“め”、“る”のひらがなでメディチのほうが“ヒ”、“メ”のカタカナになっていたわ。』


『“ヒメ”なら単語として分かりますけど“める”っていう単語はちょっと知らないですね。もっと集めないと分からないので次のキーワードのある場所に行きましょう。』


『そうね!早く行きましょう!』


そう言い柴崎さんは僕の手を取ると笑顔を見せながら次の場所へ駆けて行く。


『次はこの体育館での探索よ。暗号は“貯蔵庫の瘴気を払え”とあるけど、さっきよりは分かりやすいかもね。』


『ようは物を置いておく場所の悪い空気を取り除けっという感じで言い換えることができるでしょう。』


『体育館の物置なんて体育倉庫に決まっているわ!早速突入よ!』


柴崎さんはガラガラと扉を開けるとウッ!と渋い顔をしてすぐさまこちらへ戻ってきたかと思うとそのまま抱きついてきて僕はドキッとした。


『体育倉庫の密閉状態の空気ってこんなに酷いんだ!授業でも体育委員会の人が準備とかで出入りするから私は知らなかったわ!』


中を覗くとマットや跳び箱、ロッカー、ボールの入ったカゴなどの大道具が粗雑に置かれており、カビや汗っぽい臭いが感じられ、締め切られた窓からは日差しが入り込んで埃が舞っているのが分かった。


『せ、清掃や換気が充分になされてないから凄い臭気になっているようですね。って言うか僕の匂い嗅いでません!?恥ずかしいから離れてください!』


柴崎さんを離れさせると呼吸を整え気持ちを落ち着かせる。


『ちょっと時間が掛かるけど掃除をすればいいのかしら?隠れた収納スペースがあるかもしれないわ。』


『いや、瘴気ってありますし空気をどうにかすればいいのではないでしょうか。例えば道具を使って匂いを薄めるとかで状況が変わるかもしれませんよ。』


『それよ!探求部の隣が物置になってるんだけどその中に空気清浄機があった筈だから持ってくるわ。』


『えっ、そんな大きな物持ってくるのですか!?それに部屋には鍵が掛かっていると思いますよ!』


『大丈夫!アイテムに物置の鍵入っていたから!』


柴崎さんが行ってしまった間、僕は体育倉庫に入ったりして待っていると柴崎さんが台車に乗せて持ってきて渡してきた。空気洗浄機を体育倉庫の中へ設置しろという無言の命令を聞き入れ、体育倉庫内で装置を起動する事数分柴崎さんも中へ入ってくる。


『おっ!もう臭くないし早速探索を開始するわよ。』


『その結果見つかった物がこちらになります。』


手には3枚の紙片がありそれぞれ“要”、“求”、“止”とある。


『柴崎さんが取りに行かれた間に僕は体育倉庫の観察をしておき、空気洗浄機の設置後と変化した場所を見つければ一発でしたよ。一部のロッカーにどうやら匂いセンサーのような物が取付けられていて設定数値より低くなることで開閉する仕組みでした。』


僕がキーワードの書かれた紙片を見せていると柴崎さんは眉間に皺を寄せ頬を膨らませて不機嫌そうな顔をしていた。


『要君が早々にキーワードを見つけちゃったから私が探索する必要がなくなっちゃったじゃない!探索部なのに探索できないなんて楽しみを半減させられたようなものよ!ちょっとそこに座りなさい!』


柴崎さんはプンプンに怒って文句を言っていたが可愛い子は怒っていても可愛くこの表情も普段は見れないものなので案の定見惚れてしまいある程度聞き漏らしたが我に戻ると話が終わっていた。


『まぁまぁ、まだ探索は続きますから柴崎さんの冴えた頭が働く次の場所に進みましょうよ。』


柴崎さんの背中を押しながら次の手掛かりの場所へと向かう。


『さぁ、着きましたよ。柴崎さんの得意科目の音楽関係が集まるこの音楽室も手掛かりが隠れているみたいなので探索をしましょうか。暗号はえ〜と、うおっ!』


『“天使界の扉をノックせよ“とあるわ。アイテムに水晶があるけれど要君はこの暗号の意味が分かるかしら?』


今度は腕に抱きつく形でメモを覗かれ驚きが声に漏れてしまった。思いの外柔らかい感触に驚きました。


『えっと、少々難解な暗号ですしこのさすがの僕でもわからないですね。』


周囲を見渡しても音楽室にはピアノが1鍵あり、有名な作曲家の肖像画が飾ってあったり棚には金管楽器、木管楽器、打楽器が置かれているが暗号との関連性が見当たらなかった。


『ふん!さすがの要君もここまでのようね!仕方ないから私が暗号の謎を解いてあげるわ!まずその音というのは...』


『あっ、柴崎さんこの暗号なんですけど、今携帯で調べてみたら世にはクリスタルチューナーという物があり水晶で優しく叩いた時に響く美しい音色は天使界の扉を叩く音と呼ばれているらしいですよ。ですからこの部屋にあると思われるクリスタルチューナーを使えばきっとキーワードが見つか...る?』


柴崎さんの方へ目を向けると俯く体勢だった。


『なんで...ないの?』


『えっ?』



『なんで私も参加させてくれないの!』



顔を上げた柴崎さんの表情は今にも泣きそうであった。


『今私が説明しようとしていた風だったじゃない!何で私に探求部の活動に参加させてくれないの!私は貴方と一緒に活動しながら話しをする事が好きだったのに!』


『あっ...』


『スラスラと謎を解きながらキーワードを集めてきたのは凄いと思うけど、今の貴方といても楽しくない...』


『柴崎さん!』


柴崎さんが涙を浮かべると駆け出して音楽室を出て行ってしまった。


『まさかこのような展開になってしまうとは思わなかったな。途中までは筋書き通りだったけどちょっと焦ってしまったから柴崎さんに嫌われてしまったみたいだ。もう柴崎さんは僕を嫌って会ってくれないだろうし探求部もお終ってしまい1人での読書時間が始まる訳か。でも元々一人で過ごすのが好きなのだから再び図書室で静かに過ごせる日々に戻れるというのは喜ばしいことじゃ...』


僕は思わず微笑むと図書室へ向かい歩む。


『僕は元々出会った当初のお淑やかな柴崎さんに興味を持っていたのだからこれで良かったんだ。本性が現れてからはいつも話しかけられて読書に集中できなかったから寧ろ今回こそが僕GJじゃないか。これでやっと解放されるんだから。』



そう、柴崎さんに



ズキッ



『ん...なんだろう...なんか...胸に...違和感...締め付け...いや、刺されたような...なんていうか...とりあえず痛い。』



足を止めて胸を押さえながらふと思い出したのは柴崎さんの事だった。


いつも読書をしている最中に声をかけられ集中できていなかったが、それに応対すると彼女は楽しそうに笑っていて自ずとこちらも笑ってしまっていた。毎度刊行物の作成も毎回レイアウト又はデザインを相談してきてアドバイスをしてあげると彼女は笑顔になって作業をし、僕と一緒に作ったと毎回大満足していた。他にも僕が読書で笑っていると毎度こちらに興味を持ち内容を説明すると声を張って笑うケースも多くこちらも共感してもらった事に喜びを感じていた。他にも様々な事を一緒にやってきたが柴崎さんはいつも笑顔を見せていて悲しげな表情を見たのは初めてだったと思う。


『やはり...まだ僕は彼女に嫌われたくない。今回はそのためのトリックだから。だから追いかけよう。』


そう、柴崎きになるひとさんを


部活に入って以降柴崎さんと一緒に過ごした日々を思い出して分かった。


方向を変え止めていた足を再び進める。


『早く謎を解いて真実を知ろうとしたばっかりに柴崎さんの気持ちを考えてあげられていなかったみたいだ。早く見つけてあげて説得したいけど、多分柴崎さんに会うなら先にやっておくことがある。』


急いで音楽室内を探してピアノの裏に貼り付けていたクリスタルチュウーナーを見つけると持っていた水晶を叩く。伝導した音が音楽室に響き渡っていくと肖像画の方から微かにメロディーが流れてくる。


『この曲は...アリア...柴崎さんが好んで聴いていたG線上のアリア。だとするとこのメロディーはバッハの肖像画からだ。』


音が流れているバッハの肖像画を手に取り裏側を見ると開閉する部分があり中を見るとスピーカーの他にキーワードの“大”、“木“、”君“が入っていた。


『音感知センサーが反応する設定をクリスタルチューナーの放つ周波数に合わせたってところか。さすがに天使界扉なんてロマンチックな周波数は知らなかったし考えた方は情緒的な人であろう。それでは次の暗号へ行こう。』


『最後はこの理科実験室にキーワードがあるんだったか。暗号は...そういえば聞いていなかったな。』


理科室に着き棚に置いてあったじょうろを手に取ると水を入れ骨格標本に近づき頭から水を注ぐ。すると頭部の表面に貼られていた紙が溶け出し、さらに中からキーワードが書かれた紙が姿を現わす。


『キーワードは“際”、“可”とあって裏面に“あとは手紙形式にこれらのキーワードを当てはめていけ”か。ここには人の気配が感じられないし柴崎さんはあの部屋だろうな。』


僕が向かったのは探求部の部室で室内に入ると誰の姿もなかった。


柴崎さん...姿は見えない...けどいますね。


ゆっくりと窓の方まで歩み進むと足を止めカーテンを思いっきり広げる。


『!?』


そこには目を赤くさせて涙を流していた柴崎さんの姿があり、急にカーテンを広げられて驚いているようだった。


『ど、どうしてここが...』


柴崎さんの涙をハンカチで拭っていくと顔がほんのりと赤みがかっているのが分かった。


『探求部に入ってから一緒に過ごす時間が多くなりましたから柴崎さんの行動は分かりますよ。悩んでいたり困ったことになったらまず部室へ向かう傾向が多いです。あと、初めて会った時に涙を浮かべていましたけどそれは泣き顔見られたくないからカーテンの中に隠れていたんですよね。今回も多分泣いているだろうと思いましたが、正解でした。』


『...ある程度持つ情報から私の位置を予想できていたのね。』


『柴崎さん、まずは貴方の楽しみを阻害したことの謝罪をさせてください。申し訳ありませんでした。』


『ううん、私こそ逃げてゴメンなさい。私は学校ではあまり自分の本性を出せていないから友達も少ないし本当の私を知る要君まで交流をしてくれなくなって、部活で一緒に活動をしてくれなくなるんじゃって怖くなって思わず叫んじゃった。』


『確かに僕はひとり好きの読書家で基本的に一人で過ごすことが好きです。』


『...』


『しかし今回は僕が先走ってしまって推理をしただけであって柴崎さんとの謎解きを省きたかった訳ではありません。それに柴崎さんとの交流はわるくないって気がするんです。』


『...要君...』


『それはそうと今回の秘密の手紙ですがキーワードをを全て集めました。今お見せしますので真相を開示しましょうか。』


『それは...』


『心配ありませんから推理を聞いてください。まずは集めたキーワードを全部出しますよ。』


六、山、ヒ、メ、め、る、要、求、止、大、木、君、際、可


『今回の謎は手紙で文字構成が解となりますのでこれらのキーワードは漢字などのパーツをばらけさせたものと考えました。正しく並べればとある文章が完成するんです。例えば最初に思いついたのは、手紙というのは送り手と受取手の名が必要ですから人物名の名前を考えてみました。止、ヒ、木、山、大、可を使ってみたら都合よく柴崎さんの名字が完成して、柴崎さんと言えば普段僕を呼ぶ際、”要君”って呼びますからその2文字も採用することで残りの文字はこうなります。』


六、メ、め、る、求、際


『あと六文字ですけど平仮名を送り仮名として扱うことにして該当する字と合わせると“求める“とります。』


六、メ、際


『あとは残りの文字ですけど想像付く単語は"交際"となります。そしてそれぞれの言葉を繋げつつ手紙形式にするとこうなります。


Dear要君 交際求める From柴崎


僕からの手紙ではないので送り手と受取手をこうしました。柴崎さんから僕への告白文が完成するというのが僕の導き出した回答です。』


『...要君は凄いね...正解よ...私は貴方が好きなの...素直に思いを伝える勇気がなかったから暗号に隠して君に気づいてもらいたかったの。』


『謎が解けえないで気づけない可能性もあるじゃないですか。』


『元々キーワードが集まったら一緒に部室で推理するつもりだったし、要君なら絶対解けるって信じていたから。』


『随分と信頼されてたんですね。それにしても柴崎さん自分で考えたトリックだと勘付かれないように演技するのが上手でしたよ。自分の性格を分かっているというか極々自然の柴崎さんでした。』


『あ、ありがとう...と...ところで私の目論見を知ったんだし要君...返事を...その...』


彼女が待ちきれないという思いが伝わってくる。しかし僕はちゃんと伝えなければいけない事がある。興味本位で仕出かしてしまった事を。


『あっ、返事の前に1つ質問をよろしいですか?』


『な、何かな?』


『何故謎解きを交えた告白にしようとしたのですか?』


『要くんは覚えていないかもしれないけど入部当初に君は何故自分を勧誘したのかと聞いてきたの。』


『そのうち推理ゲームを考えるから勧誘した理由を答えにする。って言っていましたよね。』


『要君に始めて会ってから君のことを人に聞いたりして好きな本のジャンルはミステリーって知ったから謎解きを踏まえた告白なら喜んでくれると思ったの。』


『その心使いありがとうございます。しかし...僕はその思いを受け止めていいのか少し迷っています。』


『うぅぅ、要君...お付き合いが嫌ならきっぱり断っていいんだからね。』


『いえ、そういうことではなく、その...柴崎さんが見つけたファイリング本ですが僕が作っておいた物です。』


『えっ!?』


『匿名の人が作った感じにして柴崎さんと一緒に謎解きをしていき最後のオチにたどり着いた際にネタバラシをして終わるお遊びとして用意していました。柴崎さんは知っていると思いますがあの本はギミックやアイテムは事前に用意してあって、後は感知機類の数値、暗号、キーワードの内容を読み手が考えられるよう記されてあったと思います。その部分がまだ考えてなかったのでとりあえず部室に置いておいたんですけと見つかってしまうとは...しかも先に考えられたるまでいかれたのは...少し悔しかったです。』


『じゃ...じゃあ、金麟様って...』


『僕の名前を捩っただけですよ。こんな感じに。』


金麟様→きんりんよう→金森要


『じゃ、本当に要君が作ったんだね。』


『こんな誘導的に柴崎さんを気持ちを知ってしまった僕は貴方の気持ちを弄んでしまったようなもので罪悪感を感じ告白を受け入れてはいいのか迷います。』


『要君...』


『だから今のを聞いて心変わりしたのであれば柴崎さんの告白もなかった事に...』


『要君、それはしないよ。』


柴崎さんはさっきより怒ったような表情をしていた。


『私を甘く見ないで。おきてしまった事を無かったことにはできないのと同じで告白したのに無かったことにはできないのよ。それに私は寛大な心を持っているんだから要君のちょっとした誤りや些細な悪事に対して。』


『寛大...ですか...』


『寛大な方だと思うよ。だって今まで要君が話を聞いてなかったりした時気づいていないふりとかしてるし...ねっ。』


『えぇ...分かっていたんですか...ずっとバレてないって思ってましたから驚きましたよ..,』


『私と話してるとき要君は目を細めて動かなくなる事があるの。きっと何か考えてるんだろうなって思うから呼んで気付かせてあげようとするんだけど、その時の表情がカッコイイから毎回見惚れてしまうのよ。』


『そ、そうですか。』


正面切って言われるとだいぶ照れる。


『要君は人の話を聞かなかったりするし、私はその状況で見惚れて今回みたいに説明をキチンとしていなかったりするしお互い様なの。だからこれで抱えたものは払拭されたと思うし君の思いを教えて。』


『お答えします。もともと僕は柴咲さんに興味がありました。勧誘された時に図書室で泣いていた理由が本を読んでいたと言っていたところから感受性豊かなところや涙もろさで性格の良さが分かったからです。』


『...』


柴崎さんは小さく頷く。


『入部以降は部活内だけでなく学内でも見る機会も増えていき、柴咲さんは何に対しても素直に受け止めたり人からの頼み事をよく聞いたりしていて純粋で優しい人だと分かっていきました。』


『...』


柴崎さんは目を輝かせ大きく頷く。


『今回の謎解きでは匂い感知器の謎ですけどセンサーを段ボールなどの箱で囲い消臭スプレーを中に吹きかければ機械の数値は落ちていき開くので空気洗浄機のような大きい機械を持ってくる手間はなくなるので柴崎さんは少し頭が固いのも分かりましたけど。』


『...』


柴崎さんは浮かない表情をし始める。


『他にも柴崎さんについて色々知る事ができそれらを総体して返事をさせていただきますが。僕は柴崎沙希さんが好きになっていたみたいなのでお付き合いしましょう。』


そのまま彼女の体を引き寄せるとギュッと抱きしめる。


『今回の謎解きで柴崎さんのスキンシップにドキドキさせられましたからこの行為は仕返しですよ。』


『うえっ!?要くん!そ、そんな...いきなり...』


感情が高ぶってしまったのか、柴崎さんは目を閉じると徐々に顔を近づけ自分の唇を僕へと寄せる。そしてプニッと柔らかい感触を受け心地よくてドキドキしてしまう。


『あれ?なんか思ったより硬いし形に違和感が...って人差し指!?』


僕は自分と柴崎さんの唇の前に自分の指を挟んでいた。


『柴崎さんいくらなんでも付き合っていきなりキスするのは早くありませんか?それに僕らはまだ学生なんですから節度あるお付き合いをしていきましょう。』


『えぇ〜そんな子供の恋愛じゃあるまいし...キスくらい...』


『でしたら...』


チュッ


僕は自分の唇を柴崎さんの頬にそっと触れさせた。


『あっ...』


『健全な男女交際をと思っていたのに柴崎さんの唇の柔らかさを知ったら僕も少し感情が高まってしまいましたよ。しかし今はこうやって頬にする形式で我慢してください。』


柴崎さんの顔は一気に赤く染めて首を上下させた。


『それにまだ高校生活も序盤の方ですからゆっくり仲を進展させていきましょうね。』


『はっ、はい!』


こうして僕と柴崎さんの関係性は変化しました。


それは





そう、柴崎かのじょさんだ!




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