曇り空の目醒め
太陽が天頂まであと少しといったところで、三崎は絶望感に目を醒まされる。
「…おはよう」
誰にともなく呟いて、彼は布団から抜け出すとカーテンを開けた。いつもと変わらない、ただの曇り空。
「全く、成長しないな」
夢を見る度に毎回見ている夢でしかなく、記憶でしかないので、彼は自嘲気味に呟いた。
夢の中の彼は変わりようもないが、自分自身も変わっていない、という事を。
(俺の時計はきっと、あの頃から動いてやしないんだろうな)
何もなくても信じていた、彼女がいる筈の未来が途絶えたあの日。彼の世界は一変した。
綺麗だと思っていた景色が、心に響かなくなった。
大好きなアーティストの曲が、ただの音の羅列にしか感じられなくなった。
好物だった筈の料理の味が、わからなくなった。
だけどそれらを、彼は何でもない事のように、何事もなかったかのように、後の学生時代を過ごした。
中身は空っぽで、上辺ばかり綺麗な自分でい続けた。
時計は止まったままでも、見せ掛けの自分は動き続けていた。
それに耐え切れなくなって、彼は学生を辞めた。大学への進学も困難ではなかったが、どこへの進路も自ら断った。
そして、今の彼がいる。
「夢も希望も無いのにな。こんな夢ばかり見る」
苦い顔をしながら仕事の準備に取り掛かる彼は、一見すると真面目なようだが、その実、後悔から逃げ続けているだけなのだった。