ゆうしゃになれなかった彼
彼にとっては、ずっと大切だった。
手に入らないと知りながら、それでも守りたいと思っていた。思い続けていた。
「あのね、ぼくはゆうしゃになるの。それでずっと、ねーねをまもるの!」
「そっか、それなら任せるね、しょーちゃん」
「まかされた!」
うん、と大袈裟に頷く彼。手にはラップの芯で作った剣、頭には折り紙の兜。そしてアニメで聞いた、カッコいい台詞。
その頃の彼は純粋で、それさえあれば"ねーね"を何からでも守れると思っていた。たとえどんな悪者が来たって。どんな天災に見舞われたって。必ず守れると、無邪気に信じていた。
頭を撫でてくれる優しい手を、悪い事をすれば叱ってくれる声を、女手一つでやんちゃな幼馴染みを育てる心を、守れるものだと信じていた。
物心ついた頃から大好きで、毎日会えないのが納得いかないほどの"ねーね"は、けれど彼には守れなかった。それは当然と言えば当然で、止める術も彼には見つけられなかった。
まさか"ねーね"自身が彼女を傷つけるなんて、彼には考えもつかなかったのだ。狼狽もしたし、何度も何度も自分を責めた。
「僕なら何か、気付けたんじゃないか?」
それだけ見ていた自信はあった。
けれど、実際には気付けなかった。表情も、声音も、いつものように優しい手も、何も彼に気付かせてはくれなかった。
ただ、中学生だった彼の心の中には"ねーね"の占めていた部分にぽっかりと穴が空き、それから5年もの間、何によっても埋める事が出来なかった。
そして何をすることもできないまま高校を卒業し、フリーターとして生計を立てている。
それが三崎翔太、今を生きる事ができなくなった青年である。