表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い薔薇の約束  作者: 野風 月子
始まりの歌
7/27

第6話

イローナ目線

屋敷に戻った私とアデルタは、生演奏でダンスをし始めた大人たちを横目に、きょろきょろと辺りを見回した。

「アデルタ・・・。」

「うん、私も見てないよ。」

ロマーニからのプレゼントである庭を見て、その後屋敷に戻って来たのだが、本日主役のはずの怜奈が何処にも見当たらないのだ。

庭を見た時、彼女はもちろんいた。

今ここにいないということは、彼女は恐らく屋敷の中に戻っていないということ。

同じように気づいたのか、彼女の執事であるルイ・ショマドーレが私たちに静かに駆け寄って来た。

「怜奈のことね。」

「はい、申し訳ございません。」

頭を下げようとしたルイを手で制す。

「いいえ、あなたのせいではないわ。

執事もメイドも皆、会場で料理の準備や、プレゼントをテーブルに並べるようお父様に言われていたのだもの、仕方がないわ。

お父様や他の人々には知らせず、三人で探しましょう。

怜奈は賢い子だから、いなくなったのには事情があるだろうし、きっと遠くには行っていないわ。」

ルイは申し訳なさそうな顔をしたが、主の娘の命令も絶対だからと言うことを聞いた。

私とアデルタ、ルイは見つからないように、怜奈の庭へ向かった。

懐中電灯で照らされたドアには南京錠がかけてある。

彼女はこの中にはいないのだ。

「怜奈・・・じゃあ何処に・・・?」

アデルタが小さく呟く。

その時、ルイが懐中電灯の明かりを消し、私たちの頭を抱えるようにしてしゃがんだ。

驚いて抗議しようとするアデルタの口を塞ぎ、ルイは森の方へ顔を向ける。

「・・・っうぅ・・・あっ・・・あぁぁ・・・!」

小さな呻き声が私たちの耳にも届いた。

「・・・人間のようね。」

小さく囁いた私に、ルイは小さく頷く。

ルイは再び懐中電灯のスイッチを入れ、森の中にゆっくりと進みだした。

その後に二人でついていく。

少し入ったところで、ルイは急に足を止めた。

「怜奈お嬢様・・・!」

懐中電灯を手放し、駆けだしたルイをアデルタが追う。

私は落ちた懐中電灯を持ち上げ、彼らのしゃがみこんでいる場所を照らした。

白い光の中に浮かび上がったのは、気絶してルイの腕に支えられている怜奈だった。

ドレスはボロボロに破けて穴が開き、ほとんど原形を留めていない。

靴は両足とも履いておらず、辺りを見回しても見つからない。

髪は乱れ、酷く汗をかいて息を切らしている。

だが、それ以上に異様だったのは、彼女の露わになった肌に浮かび上がる棘の模様だった。

それは一カ所ではなく、全身を縛るようにグルグルと巻き付き、時々動いているのだ。

棘に咲いた真っ赤なバラは、ルイが彼女を揺らすたびに揺れ動き、彼女の全身からバラの香りが立ちのぼっていた。

「れ、怜奈・・・?」

アデルタもその異様な姿にようやく気付いたらしく、ゆっくりと怜奈の頬に浮かび上がる棘の模様に触れた。

やはり棘が動く。

そしてそれと同時に怜奈は小さく声を上げて、目を開けた。

「あれ・・・私・・・。」

「怜奈、この姿は一体どうしたの?」

私は目を覚ました怜奈の前にしゃがみ、彼女に目を合わせた。

「これは、私が受け継いだ強大な力・・・。

自らの命と引き換えに世界を救う、呪いの血の証・・・。」

そう言った彼女の目は、何かを覚悟したような、諦めたような色をしていた。

とても嘘をついているようには見えない。

でも彼女の言う意味も分からない。

私はひとまずルイの上着を怜奈に着せ、寝ているふりをさせて屋敷の中に戻った。

途中、輝子に止められたが、庭で寝てしまっていたから連れ帰ったと話して、そのまま四人で怜奈の部屋に入り、鍵を閉めた。

ルイにはプレゼントでもらったドレスを取りに行かせ、怜奈と共にクローゼットから靴を選んだ。

ルイが帰ってくると、怜奈の汗を濡れタオルで拭いた。

「姉様、少し待ってもらえる?」

ドレスを着せようとした私に、怜奈はそう言って月明かりの射す窓に向かって大きく腕を広げた。

すると小さな風が起き、彼女の髪を揺らし始める。

「お願い、私がいいと言うまで姿を隠して・・・。」

小さく怜奈が呟くと、彼女の体の棘が動き出し、ドレスから出ていない肌に固まって巻き付いた。

「姉様、もう大丈夫よ。」

怜奈はドレスを身に着けると、何事もなかったようにパーティー会場に戻った。

それからしばらく彼女を観察していたが、ダンスをするときも食事を摂るときも、特に変な様子はない。

夜も更けて、親戚以外の客が引き上げると、私たちは怜奈の部屋に集まった。

ドレスはメイドが脱がせについてきて、怜奈は彼女たちの目の前でドレスを脱いだ。

「・・・え?」

彼女の棘は見える肌にはなく、声を上げた私がむしろメイドたちに首を傾げられる。

私は何もないと告げ、風呂を出たら三人で話そうと言った。

今日は三人一緒に寝ると告げると、就寝時間で咎めようとしたメイドたちはすぐに黙る。

私たちはさっさと風呂を出てメイドを部屋から追い出すと、一緒にベッドに入った。

「怜奈、あなた・・・その棘について何か知っているのね。

そして、こうなることを知っていたのね。」

暗くなった部屋の天井を見上げながら、隣に眠る怜奈に声をかける。

しかし返事はない。

不思議に思ったのか、アデルタが怜奈に呼びかけた。

「・・・ごめんなさい、姉様・・・。

私、これのせいで今日は疲れて、しまって・・・。

明日、庭で話すわ・・・。」

途切れ途切れだった言葉は終わりに向けて小さくなっていき、最後まで言い切ると小さな寝息へと変わってしまった。

私とアデルタは顔を見合わせ、間に眠る怜奈を見た。

メイドが電気を消して部屋を出るまで見えなかった棘は今、彼女を発見したときのように顔にも再び現れている。

ただ彼女の体と連動しているのか、花は全て蕾になって固く口を閉じてしまっていた。

それでも、発見のときから香っていたバラの香りは、今も微かにしている。

仕方なく、私とアデルタはベッドに入り直して、ゆっくりと目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ