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赤い薔薇の約束  作者: 野風 月子
始まりの歌
2/27

第1話

怜奈目線

また同じ夢を見た。

怜奈は薄く額に汗をかきながら、ベッドの上で膝を抱えた。

幼い時から時々見る夢。

美しい銀の髪を持つ女性が、自分にこう言うのだ。


「いい、貴女の血は周りの誰とも違う物なの。

特別な力を持っていて、誰かの肌に触れたり、舐められたりしたら駄目よ。

その人はきっと死んでしまうわ。

とても危険な物なのよ。

でもね、貴女が使い方を間違えなければ毒にはならないわ。

お母さまとの約束を、ちゃーんと思い出すのよ。」

そして、少し分厚い小さな本を出す。

彼女はその本を開いて、十の項目を説明と共に読み聞かせるのだ。


「私の血は、周りの誰とも違う物・・・。」

女性の言うことは違っていた。

彼女がこけて怪我をした時、直接触れたメイドたちには何も起こらなかった。

では、あの夢は何なのだろう。

額の汗を拭うことなく、怜奈は部屋に立ててある姿見鏡の前に立った。

話しかけてくる銀髪の女性は、自分の顔によく似ているのだ。

髪形も、癖のある髪質までも似ている気がする。

バラの香りのする女性は、お母様と言ったが誰のことなのだろう。

怜奈は初めてこの夢を見た時、姉二人やメイド、執事たちに聞いて回ったが、そんな女性など誰も知らなかった。

それでも怜奈は、何度も見る彼女の姿に、どこか懐かしさを感じていることは間違いなかった。

外を見ると、日は既に出ていて、そろそろメイドが部屋を訪ねてくる頃だ。

怜奈はベッドに戻って目を閉じた。

少しして現れたメイドは、汗をかいている怜奈を見るとすぐにシャワーを浴びさせた。

「怜奈様、今日のご予定を・・・。」

「大丈夫、覚えているわ。」

「左様でございましたか、失礼いたしました。」

彼女の髪を乾かしながら話しかけたメイドは、特に申し訳なさそうにすることもなく謝った。

いつもこうだ。

マリアがいなくなってからというもの、ロボットのようなメイドばかりの屋敷になってしまった。

マリア・レーノは幼い頃、私たちのメイドをしてくれていたのだが、ある日突然いなくなってしまったのだ。

他のメイドや執事たちはその行方を知らず、父親に聞いたら自ら辞めていったのだと言われた。

朝の支度を終え、食堂に向かいながら怜奈は小さくため息を吐いた。

「おはよう、怜奈。」

角から出てきた少女が声をかける。

「おはよう、イローナ姉さま。」

「おっはよ、怜奈!」

イローナと呼ばれた少女の横から、少し活発そうな少女が顔を出す。

「おはよう、アデルタ姉さま。」

アデルタはニカッと笑うと、大きく欠伸をしながら先頭を歩き出した。

イローナとアデルタは怜奈と半分血の繋がっていない姉妹だ。

三姉妹は皆、父親が違う。

母である輝子は日本人で、かなりの美人だ。

輝子は金に目がなく、金持ちの男に貢がせて生活してきた。

そして、彼女が今まで出会った男の上位三人が彼女たちの父親だ。

因みに一番の金持ちは、現在の彼女らの父親で、怜奈とは血の繋がった親子である、ロマーニ・アドネトスだ。

彼はイタリアの大手IT企業の社長だが、実際はかなり性格の悪い男だ。

三姉妹の誰も彼を好いてなどいないが、彼にすがらなければ生きていけない歳であるのもあり、彼には懐いているふりを続けている。

食堂に現れた三姉妹の目には、相変わらず濃い化粧と大きな宝石の指輪を付けた輝子が映った。

既にテーブルについており、朝の紅茶に口を付けている。

「おはようございます、お母様。」

「「おはようございます。」」

三人で声をかけるが、いつもの如く返事は帰って来ないし、広げられた雑誌から目を逸らさない。

彼女たちが席についた瞬間、ロマーニが食堂の扉を開けた。

「あなた、おはよう!」

さっきとは打って変わった嬉しそうな表情で、輝子はロマーニに駆け寄った。

「「「おはようございます、お父様。」」」

慣れてしまった愛想だけの満面の笑みを、三人は現在の父親に向ける。

ロマーニは満足そうに、駆け寄って来た輝子とキスを交わし、三姉妹の頭を撫でて声をかけた。

その間も輝子は三姉妹を一切見ない。

彼女にとって三人は、金持ちの財産を手に入れるための手段でしかないからだ。

それを彼女たちもよく分かっていたし、だからこそ痛い目に合わないように話を合わせていた。

今日もまた、嘘だらけの一日が始まる。



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