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赤い薔薇の約束  作者: 野風 月子
始まりの歌
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プロローグ

この世界は始め、何もなかった。

ただ真っ暗な空間が永遠に続く世界に、ある日突然“それ”は生まれた。

“それ”は自らの存在が何かなど知らず、かと言って“それ”の存在を知る相手もいなかった。

長い年月、“それ”は大人しく、真っ暗な空間を彷徨っていた。

だがある時、“それ”は小さな寂しさを覚え、自らの力で何かを作ろうと考えた。

“それ”は、大きな声で叫んだ。

「光あれ!」

途端に世界は光と闇が生み出された。


“それ”は毎日少しずつ、様々なものを作り始めた。

空気やガスなど目には見えないものから、植物や動物など自身に生きる力のあるものまで。

何一つとして同じものは作らなかった。


“それ”は生きるものたちが寂しくないようにと、それぞれの仲間を一つずつ作った。

これはやがて、“オス”と“メス”と呼ばれるようになる。


“それ”は最後に、自らの体を作った。

二本の足で立つ、どの生き物とも違う形。

“それ”は生きるものたちに名前を与えた。

すると彼らは“それ”に聞いた。

「あなたの名前は何ですか?」

“それ”は少し考えたあと、こう答えた。

「私の名前は、サラよ。」


サラは生き物たちと楽しく暮らした。

昼間は一緒に駆けまわったり、川で泳いだりした。

夜は一緒に星を眺めたり、眠ったりした。

そうして少し経ったが、サラは自分がまだ寂しいことに気がついた。

生き物たちには自分に似た相手が存在し、それは仲間と呼べる唯一の存在。

でも、自分にはそれがいないことを、サラは寂しく感じたのだ。

サラは土と水で自分に似た形を作り、口づけで息を吹き込んだ。

新しく作った生き物に、サラはサタンという名前を与えた。


サタンが生まれてからというもの、サラは今まで以上に明るく笑うようになった。

しかし、サタンにサラは、一つだけ入れなかったものがあった。

自らが持つ、命を生み出す力だ。

サラが考えてそうしたわけではなく、無意識に今までと同じ生き物たちと同じように作っただけだった。

しかし、サタンにとってそれは、サラを恨むきっかけになってしまった。

サタンはサラがやっていたように、土と水で形を作った。

サラはそれに息を吹き込んだ。

きっとサタンが喜んでくれると思ったからだ。

サタンはもちろん喜んだ。

彼の形作ったものは、彼にヘビと名付けられ、彼に付いてまわるようになった。

サタンは、ヘビに似た仲間を次々と作り出した。

そのたびにサラは息を吹き込んでやった。

全てにサタンは名を与え、非常に可愛がった。

サラはそれを見て、自らが必要とされていることを嬉しく感じた。

しかしある時、サタンはサラの目の前で、ヘビたちに命令を下した。

「この世界を壊し、サラを閉じ込めてしまえ。」


サラはサタンを愛していた。

それこそ、息子のように。

だが、サタンはサラが作り上げた平和で美しい世界を壊し始め、サラを岩で作り上げた塔の中に閉じ込めてしまった。

ヘビたちは自分より小さい生き物たちを食べ始めた。

それを見た大きな生き物たちは、彼らを止めるために食べた。

やがてヘビは食べ尽され、大きい生き物たちはサラを助けるためにサタンを襲おうとした。

悲しみに打ちひしがれ、泣きながらサラは、また大きく叫んだ。

「彼を、サタンを闇の世界へ・・・!」

サタンは途端に闇の世界に閉じ込められ、光の中に出ることが出来なくなった。

サラはそれでもいつか、彼が闇から出てきてしまうのではと恐れ、自らの存在を光の彼方へと封じ込めた。

それでもまだ、サラはサタンを愛していた。

そして彼のために、新たに星を作り出した。

星に自ら動くものたちを送り込み、新たに動かないものたちを作って送り込んだ。

のちに“地球”と呼ばれる美しい世界だ。

サラはそこに、サタンが寂しくないようにと人間を作った。

人間には人生に限りを作り、星の真ん中に“決して食べてはいけない木の実を付けた木”を置いた。

彼女は彼らに選ばせたかったのだ、自らを滅ぼすかもしれない感情をいうものを手に入れるかどうかを。

サタンは自らが隠し持っていた、唯一生きたヘビをその星に送り込んだ。

ヘビは“女”をそそのかして木の実を食べさせ、“女”は“男”にも食べさせてしまった。

彼らは感情を得て、他の生き物たちを見渡し、自分たちに体を覆う毛も羽も鱗もないことに気がついた。

彼らは木の葉や皮で服を作り、訪れたサラの前に現れた。

サラは、自分に似せて作った彼らが、自分自身の体を何かに似せようとしていることに悲しく思った。

それでも、サラはサタン同様、彼らを愛し続けた。

サラは星を自らが住む場所から遠ざけ、生きている間は来られないようにした。


そしてサラは、自らに似せた存在を十体作った。

彼らには自らが持つ力を分けて与え、“地球”に人間として行かせた。

人間に敬われ、慕われるもの。

恐れられ受け入れられず、殺されてしまったもの。

サラはそれを自らが住む場所から眺め、地球で住む期間が終わるともう一度天に上げた。

彼らはサラを前にしても、人間のように自らを偽ることも、サタンのように裏切ることもなかった。


サラは彼らを新たな世界の守りとした。

そして光と闇の狭間で、闇の世界と光の世界の間に十一の約束を作った。

最後の一つに提示した文を見て、十の守りたちはサラに抗議した。

十一番目の文はこうあったのだ。

『以上、十の決め事をどちらかが三つ以上破った場合にのみ、破った側の世界を壊すべし。』

十の守りたちはサタンが三つ以上破るであろうことを確信していたのだ。

しかしサラは彼をもう一度信じさせてくれと頼み、十の守りたちは彼女の必死な姿を見て変更を諦めた。

サラは疲れ果て、土と水に自分の血を入れて人形を作り、息を吹き込んだ。

そして彼女に特別な力を与えた。

その力を、彼女が世界を守る為だけに使ってくれるようにと、サラは彼女に今までの自分の記憶と感情を与えた。

サラは彼女とその子孫たちに受け継ぐための、彼女たちだけの十の約束を作った。

彼女はそれを、彼女の血を受け継ぐ者にしか開けられない箱に収め、誰にも知られないように隠した。


サラは全てを終えると、新しく作った彼女を加えた十一の守りたちの為に、一つの世界を作り出した。

十一の守りたちがその地へ行くと、十一の守りたちが役目を終えないと来られないよう、サラは新しい彼女の血がなければ開けられぬ扉で世界との接続を絶った。

新しい彼女―“愛と大地の女神”を受け継いだテレシスは、守り神の一人との間に子を作った。

十一の約束の通り、男と女の赤ん坊を光と闇の狭間に置き、サタンは男を取って帰った。

サタンは男の赤ん坊にハデスと名をつけ、地球に送り出した。

テレシスは女の赤ん坊に秘密とされた約束を覚えさせ、他の守り神たちが土から作った子と共に地球に送った。




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