7話 勇者、ご都合主義の沼に嵌る
※キーワードにもありますが、この作品には大量のご都合主義成分が含まれています
2017/05/24、神様の一人称を私から我に変更しました。
<では話をしようではないか。この話は、お前達二人にしか聞こえていない。また我も暇でないため、一回限りしか説明しない。サバトよ、特にお前には、人間にとっては辛いと思う話になるだろう。覚悟して聞くが良い>
神様……この世界の発音でコットという名前だとかつて教えてもらった。
は、いつもの感情を感じられない平坦な口調でそう述べた。
覚悟して聞け、とのことだが……俺もシャルロッテ達との会話を経て、何かがおかしいと感じ始めていた。さっき10000年がどうとか言っていたし。
<その通りだ。10000年だ。お前がこの洞窟……今は部屋になっているが、ここに入ってから10000年が経った>
「……はあ、そうですか?」
「10000年……が、経った……?」
シャルロッテの奴には何か心当たりがあるのか、思案げな顔だ。
<……わからぬか? お前が魔王を討伐してから10000年が経ったのだ。つまり、今の世界はお前の知っている世界ではない。お前の知り合いは全て死に、国の形は変わり、人々の生活も変わったのだ>
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。色々とおかしいとは思っていたが、10000年って……」
馬鹿らしい。みんなと喧嘩してこの洞窟? に逃げてきてから、1日も経っていないはずだ。俺が魔王討伐直後で弱体化している時を狙って、眠らされたという可能性もあるが、それでもよくて数日だろう。場所が変わっているのは、転移魔法を使って連れてこられたとも考えられる。
<ふむ、その疑問は最もだ。人間という生き物は、疑うことを厭わない。常に考え、常に最適解出そうとするものだ。その繰り返しが、文明を発展させてきたのだろう>
神様が何やら難しいことを言い出した。神様だからか知らないが、この人は時に王宮にこもって研究ばかりしていた学者みたいなことを言う。
<まず、お前をこの洞窟に転移させたのは我だ>
「え?」
等と突っ込んでいると、神様がとんでもないことを暴露した。
「神様が俺をここに? でも俺は、仲間と喧嘩してやけになって走っていたら、いつの間にかこの峡谷に居たんだが」
いやあ、よく考えると、あいつらが騒ぐのはいつものこと。あれくらいでキレるとは俺も思わなかったが、何故だがとてもイライラしてしまったのだ。
<それも我が誘導したのだ。お前達の従者が喧嘩を始めたことに介入し、一時的に感情を弄ったのだ>
「はあ? 俺の感情を神様が弄った?」
<そうだ。だが、管理世界の個体に介入するには多大な力を必要とする。神の力は強大であるがゆえに、乱用すると世界そのものに影響を与えてしまうのだ>
むむむ、どういうことだ? 管理世界? 個体?
<理解しなくても良い>
「はあ、そうですか。とにかく、神様が俺を怒らせた、ということだな?」
<そうだ。そしてその理由だが、人間は怒ると周りが見えにくくなる。お前達でいう血がのぼるというやつだ。お前を転移させたことを気づかれる可能性を低くするためであり、喧嘩というシチュエーションが、従者達がそれを踏まえた上で勇者サバトと離れ離れになる合理的な理由だったからだ>
「うーん、よくはわからないが、なんとなくはわかった。だが、肝心の何故そんなことをしたのかを聞いていないのだが?」
そんな手間をかけて神様は一体何をしたかったのだ?
<お前という個体を使用し、バグを取り除きたいのだ>
「バグ?」
<言ってもわからんだろうが、この世界における予期せぬ不具合のようなものだ。お前も、身体が不意に不調になることもあるだろう? それと同じで、この世界も体調が悪くなることがあるのだ>
わからん、余計とこんがらがってきた。世界に体調も何もあるのか? 世界は世界、空と海と大地があるこの世界だろ?
<わからなくても良い。本来はこのようなことは個体に話すべきではない。しかし、お前は現状バグを修正できる唯一のソフトウェアなのだ。ある程度のことを知らせておいても大丈夫だろうと、会議で承認された>
「会議で? 神様にも、役人達がするような話し合いの場があるのか? というか、そもそも神様ってコット様だけじゃないのか?」
<違う。この世界には神は三柱存在する。我は渉外担当なのだ>
「渉外ってあれか、相手と交渉する人のことだな。その手の役人とはなんどもやり取りをした覚えがあるぞ」
<その認識であっている。他の神のことは詳しくは話せない。これは絶対だ>
「わかったよ」
別にそれほど興味はないしな。サクラサクの奴なら飛びかからん勢いで質問するだろうが。
<話を戻そう。神が世界を管理する仕組みを、我々の神界ではデウスエクスマキナと呼んでいる。この星、通称クォリンテにおいて、10020年前にエラーが発生した。その原因が、バグと呼ばれるお前達のいうところの魔王だったのだ>
…………はあ、そうですか?
「で?」
<お前というソフトウェアを使い、修正することにした。会議の結果、渉外担当である我が、通称勇者に力を分け与え、早急に駆除するように取計らった。そこで我は、星一番の魔力を持つ人間であるサバト、お前に力を分け与えることにした>
「……なるほど、わからんが、なんとなくわかった。20年前といえば、丁度魔族の活動が表に出始めたころだったはずだ」
一万は余計だが。
「つまり俺は、そのバグ? をどうにかするために、三年間の間勇者として活動してきたと。神様の思惑通りに働いてくれて良かったと、そういうことだな?」
<平たくいえば、そういうことだ。お陰で星の活動は想定通りに修正され、正常な状態。つまり人間が覇権を握る世界へと戻った。改めて礼を言おう>
「ど、どうも」
なんだかうまく扱われたような気がする。実際そうなのだろうが。
「ん? だが、魔王を倒してバグは修正出来た。じゃあ、俺はなんで10000年もの時を飛ばされたんだ?」
そもそも本当に10000年経っているのか、内心疑っている。信じろと言われて信じる奴はそういないだろう。神様の言葉には、いつも有無を言わさぬ説得力があるが、ここは大事なところだ。今一度問いただすべきだろう。
<それは簡単な理由からだ。この星のシステムを詳しく調べた直したところ、10000年周期でバグが発生することがわかったのだ>
「は!?」
<驚くのも無理はない。我とて、気付いた時には相当驚いた。勇者による魔王討伐は一時的な修正であり、根本的なシステムの改善には繋がらなかったのだ>
「え、と言うことはじゃあ、俺のやったことは意味がなかったということか?」
魔王を倒してもまた魔王が現れるってことだよな!? ということはつまり、俺は死ぬまで10000年もの時を飛び続けなければいけないってことにならないか!?
<そのようなことはない。魔王を倒したことによって、人類の多くは助かったのだ。生き物は我々にとってデータだと言っても、生きたデータである以上、放置するわけにもいくまい。それに、ある程度の修正の兆しは見えてきたのだ。ただ、完全に修正する為には、後もう10000年前は時間が必要なのだ。だから今回、お前を時間跳躍させたのだ>
「じゃあ、魔王が後一回は魔王を倒せということか」
<そういうわけにもいかぬのだ>
「え?」
<今魔王を倒してしまうと、世界の情報が大量に修正される為、修正作業に負担がかかってしまう。よって、魔王というバグを安易に削除することができない>
うーん、下手に運動して風邪をこじらせる感じか?
「じゃあどうすればいい?」
<それはお前に任せる>
「はあ!? そんな無責任な!」
<頑張り給え。お詫びとして、新たな恩恵《力》を後で授けよう。我々も出来ることは少ないのだ>
「はあ、マジか……わかったよ」
一度倒した相手だ。なんとかなるだろう……多分。
だが、前の魔王は、仲間がいたからこそ倒せたようなもの。喧嘩した後で少し小っ恥ずかしいが、またあいつらに頼んでみるか。三人とも、なんだかんだいって面倒見いいからな。
……あれ? 10000年経ったんだよな? もし本当だとすると、仲間は死んでいるということに……それにさっき神様も、知り合いは全て死に〜〜とかなんとか言っていたような……
俺は、その事実について考え出すと同時に動悸が早くなるのを抑えられなくなった。
<……そうだったな。その話をもう少し詳しくしよう。今、この世界がどうなっているのかを>