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5話 勇者、チートレベル1

 

 なん……だと? 詠唱・・をしたのだから、てっきりこの場にいる全員を回復させるくらいの魔法だとおもったのが。一体どういうことだ?


「今のがお前の詠唱、なんだよな?」


「ええ、そうですが?」


「貴様ぁ、一体何が不満なのだ。回復魔法は使い手が少なくまた魔術の中でも難しい部類なのだぞ。殿下は、聖女として有名なのだ。勇者か何か知らんが、そこまで無知だとは呆れたぞ?」


「なんだと? 聖女?」


 サクラサクの奴も聖女と呼ばれていたが、とても比較にはならない気がする。それにしても、コウジョに聖女に殿下、呼び名の多い奴だな。まあ向こうがシャルロッテでいいって言ってるんだからこれからもそれでいいだろう。


「ふふん、わかったなら驚くがよい。そもそも、殿下にお近づきになれるチャンスなど、一般人には中々無いのだぞ? 光栄に思うがよい」


 なぜこの男が得意げなんだ。シャルロッテが言うならまだわかるが、ただの護衛だったはずじゃ……


「バーン、やめなさい。それよりも今は彼らをどうにかしなければ」


「……失礼いたしました」


 そうだな、詠唱のことや俺のことを知らないこと。なにより、こいつらの素性がいい加減気になってきたけど、まずは倒れている兵士たちをどうにかしないとな。

 よし、ここは俺が一つ手を貸してやるか。勇者の力を振るうに貴賤はないのだ。何、これくらいの人数、たとえ束になって襲いかかってきても一網打尽だ。


 シャルロッテに声をかける。


「なあ、ちょっといいか?」


「はい、なんでしょうか?」


「俺がさ、こいつらのことをどうにかする。そしてみんなでここを出よう。少しは勇者だと信じてもらえるかも知れないしな」


「いいでしょう。サバト様、お願いいたします」


「任せておけ」


「ふん、こんな男に何が出来るのだか」


 護衛の男……バーンが何かほざいているが無視しておこう。こういうタイプの人間は苦手だ。まあ、貴族にはそこそこいるから、付き合わないといけない機会も多かったのだが。

 殿下とやらの護衛をしているところを見ると、

 同じ派閥の下級貴族の次男三男といったところか。自らの立場を少しでも大きく見せるため、雇い主を殿下と呼ぶ下っ端貴族はたくさんいたからな。このものいいと言い、同じような立場なのだろう。

 シャルロッテが上級貴族なのは間違いなさそうなのだが、こんな性格のやつを雇っておいて、周りからは何も思われていないのだろうか?


 おっと、集中集中。まだ周りを分析する癖が抜けきれていないようだ。魔王を倒すまでは、そこかしこに人間に化けた魔族がいたり、勇者をよく思わない連中の間諜が紛れ込んだしていたものだ。


 よし、たった20人程だ。無詠唱でカバーしきれるだろう。


 シャルロッテの言っていたタイル? に吹き飛ばされたのか、兵士達は散らばってしまっているが問題ない。さっきここにも通っていることを確認した魔脈を伝って、人数や怪我の具合等を確認する。


 魔脈は地中深くに存在する、この世界を覆っている血管のようなものだ。意識の一部を魔脈と一体化させることによって、遠く離れた場所にいる人間のことまで確認することができる。勿論そのぶん難しくなるし、あまりに離れている場合は、相手がどこにいるのか予めわかっていないと把握することができないのだが。暗闇の中で自分だけがランタンを持っていて、何も持っていない相手を一方的にみつけるのと同じだ。


 勿論、一般人にできるようなことじゃない。魔力を多く保有していて、尚且つ魔法に関する技術や知識が必要だ。だが、俺は勇者としての”恩恵”を受けている。魔脈を把握する技術は旅の間にだいぶ身についたし、この程度の距離なら簡単に把握することができるのだ。ランタンの光がとても強いのだとでも思ってくれたらいい。


 ……って、俺は誰に説明しているんだ?


「……。できたぞ」


 思った通り、簡単だった。


「え? 出来たとは、なにが?」


「だから兵士に回復魔法をかけたんじゃないか」


「何を言っているのだお前は、また詠唱もしていないじゃないか?」


「詠唱? そんなことしなくたって、これくらいなら無詠唱で回復できるさ。ほら、遠くで兵士が立ち上がっているぞ?」


 俺が指差す方向には、立ち上がりながらキョロキョロと自分の身体や周りの状況を確認する兵士の姿が見えた。横にいる兵士と何かを確認し合うものもいる。そして誰かが気がついたのか、こちらへと一斉に駆け寄ってきた。


「無詠唱!? ほ、本当にサバト様が魔法を?」


「ああ、そうだ」


「信じられん、無詠唱だと? そんな高度な技術を使えるとは……」


 無詠唱が高度な技術? うーん、どうも出会ってからずっと、会話が噛み合っていない気がするなあ。後で色々と詳しく聞くか。


「ですがバーン、現に兵士は立ち上がり、こちらへと走り寄ってきていますよ。無詠唱のことは置いておいて、サバト様がなにかしらをしたのは間違いないでしょう」


「むむぅ……にわかには信じられませんな」


 バーンが顎に手を当てしきりに首をひねっている。信じたくなければ信じなくても結構だけどよ。


 そうすると、兵士がだんだんと集まってきた。と同時に、俺に向けて持っていた槍やら剣やらを突き出してきた。


「殿下、隊長! おさがりください! 貴様、何者だっ!」


 ……あー、これはめんどくさいパターンだな。


「副長! それに皆! 怪我は大丈夫か!」


 バーンが俺に誰何してきた兵士に声をかける。どうやらこのイケメンさんが副隊長らしい。バーンのむさ苦しい顔とは大違いだな。


「我々は無事です! 急に体が軽くなったかと思うと、怪我や流血が治っていたのです! それで、遠目にお二方が見えたもので、こうして集結した次第であります!」


 副長は敬礼しながらそう答える。だが目線は俺に向けられている。威嚇のつもりだろうか?


「それで、この男は?」


「ああ、それはだなあ……」


「勇者様です」


 バーンが何か言おうとしたのを遮り、シャルロッテが口を挟んだ。


「はっ?」


「勇者様です。勇者サバト様です」


「で、殿下?」


「皆さんの怪我は、ここにいる勇者サバト様が治してくださいました。決して怪しい者などではありません、武器を下げなさい」


「いや、しかし」


「これは命令です」


「……御意」


 シャルロッテが強めの口調で言うと、副長イケメンが手で合図をし、兵士たちが俺に向けていた武器を下げた。変な女だと思っていたが、少なくともこの集団で一番偉いのは間違いないらしい。口調には人に命令することを戸惑わない芯の強さがあった。


 ここは一応自己紹介をしておいたほうがいいかな。自分から名を名乗るのは信頼関係構築のの第一歩だ。


「俺はサバトだ。勇者なんてものを任されている。先の魔王討伐については知っているか? 自慢じゃないが、俺が倒してきた。お前たちを回復させたのも俺だ。

 そこの洞窟で寝ていたら、いきなり閉じ込められてしまった。どうにかして外に出ようとすると、この二人が洞窟の中に入ってきたので、すったもんだの末、仲間に会いに行くために外に出た。そうしたらお前たちが倒れていたから、とりあえずと言うことで回復魔法を使ったんだ。

 信じてもらえないかもしれないが、これが俺の精一杯の情報開示だ」


 俺は身振り手振りを加えながら、この洞窟に閉じこもってからの一部始終を副長や兵士たちに伝えた。副長はなんだこいつは、といいたげな顔をしていたが、野盗扱いは避けられたようだ。


「は、はあ、そうですか……申し遅れました。私はニブルフェイメ皇国第三八騎士団副団長の、メルリオーズというものです」


 ニブルフェイメ皇国? どこにある国だそれは、本当にわからないことだらけだな。自分がそんな世間知らずだとは思わないが、旅の間に色々と世情が変わったのかもしれないな。この世界の全てに目を通せるわけではないのだし。


「メルリオーズか、よろしくな! ところで--」


「サバト様、良ければ、何か勇者であるという確実な証拠を見せてはいただけませんでしょうか?」


 俺が質問しようとしたところで、またしてもシャルロッテが口を挟んだ。この女は人の話に口を挟むのが趣味なのか? それとも為政者としての、場を支配しようとする無意識からか。


「あ? ああ、証拠? うーん、そうだな。これでいいか?」


 俺は腰に身につけていた聖剣オーラデオーラを手に取り聖力を流してみせた。


魔脈はいわゆるマップ機能+他人限定のステータス機能のようなものだと思ってください。

もちろん、それに該当する魔法も有ります。

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