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1話 勇者、キレる

今作品は、とても冗長です。それを踏まえた上でお読みくださいm(_ _)m


2017/05/22、サバトの年齢を引き下げました。15歳で魔王討伐に変更。

 

 ☆時は遡り、10000年前☆


 魔王城、その謁見の間では、世界の命運をその手に宿した、勇者サバトと、世界を闇で覆わんとする暴虐の魔王ヤミネスとが相対していた。


 そして今、闇は討ち払われようとしている。


「ぐはっ……勇者……サバトよ、よくぞ我を倒した……だが覚えておくがいい。光あるところにはぎゃあああああああ!!」


「その先は言わせねーよ。闇は光に照らされ、永遠に消えるのさ。じゃあな!」


 勇者サバトは、魔王の予言めいた遺言を最後まで聞くことなく、両手に握った聖剣を魔王へ突き刺した。魔王は聖剣の力によってその身体を保つことが出来なくなり、ボロボロと土蔵が如く崩れ落ちていく。


 そして、世界は平和になった。





 ★






 場所は変わって、とある平原。

 勇者とその一行は、王都へ向かって凱旋の最中であった。どうせなら歩いて町々を廻ろうという事になり、転移魔法ではなく、こうしてゆったりと旅を続けているのである。


 また、勇者が魔王を倒したという情報は、すでに王国中央部へと伝わっていることもあり、急いで報告に向かうこともないであろうこと、また行中は観光などをする暇もなかったことから、観光旅行の意図もあった。


 そしてその途中、ちょっとした喧嘩が起きていたのであった。


「ですから、このまま王都へ一直線へ向かうべきです! 私はこうして寄り道をしている事にさえ反対なのですからね!」


 そういうは、パーティの回復・補助役、賢者サクラサク。神聖会という、この世界における統一宗教組織の枢機卿の娘、癒しの聖女として今回の旅に同行している。神の声を聞く預言者としての役割もあり、旅の最中でも預言を受けアドバイスをした事により、魔王討伐に大きく貢献した。


 パーティの仲裁役を自称しているが、おっちょこちょいな部分があり、時折騒動を巻き起こしている。

 胸は人は皆平等を表すかのような地平線。だが尻の大きさは神を冒涜せん。


「そう言ったってお前、行く先の服屋へ入り浸って、フリフリの付いた服を見て回ったりやたらと胸が開いた服を弄りながら、きゃーかわいいー、だの、これでサバトを……だの、楽しんでいたじゃねえか?

 町中で、お淑やかで見目麗しい聖女さまにも可愛い趣味があるんだ、なんて噂されていたぞ?」


 反論するは、パーティの中心、勇者サバト。若干12歳にして、世界を救う勇者へと仕立て上げられた少年は、3年間の旅を経て無事魔王を討伐し、こうして信頼する仲間と共に旅をしている。


「なっ……!」


 言われたサクラサクは、自らの嗜好をひけらかしてしまった失態からか、それともあわよくばサバトを籠絡しようと企んでいたことがバレていたからか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ちょっとサバト、そのくらいにして起きなさいよ。ぷぷっ、でも、サクラサクのその胸じゃあ、ねえ?」


「な、何ですか!? 乳牛めっ!」


 サクラサクのことを庇いながらも、なぜか自慢げなのは、パーティの前衛特攻役、武闘家マリー。古くから続く道場の一人娘で、サバトの幼馴染だ。その胸は正に蘇りし魔王、いや魔乳。


 昔から喜怒哀楽の激しい性格で、あまり感情を隠すということを知らない女だ。そのせいもあってか、時折騒動を巻き起こしたのだが、今は昔。


 魔王討伐の折に、一抜けでサバトへと告白したのだが、あえなく撃沈。だがそれに引きずられることなく、良好な関係を続けられているのも、幼馴染という気の知れた相手だからこそだ。今更告白一つで崩れるような関係ではいが、裏を返せば。一番身近というアドバンテージは、時に大きなデメリットとなるのだ。


 その垢抜けた性格から、サバトだけでなく、他のパーティメンバーとの仲もいいが、抜け駆けで告白したことが、パーティメンバーからどう思われているからはまた別の話。女の恋の戦いは、永遠に終わらぬのだ。


「ふん、何を言ったって、サバトが巨乳好きなのは知っているんだから! 悔しかったら大きくなりなさい。あっ、尻は大きいんだったわねっ!」


「なんと、神への冒涜! 懺悔しなさい、マリー!」


「まてまて、お前たち。少し落ち着きたまえ。言い争っても変わらぬものは変わらぬぞ? なあ、サバト。もしよかったら、この後あそこの岩の陰で……」


 手に拳を添えて仁王立ちするは、後方から一撃必殺の矢を射る技術の持ち主、俗にワンショットスナイパーと呼ばれている、王国騎士団弓士部隊隊長のアイネだ。


 その類稀なる弓の才能で、わずか10歳で王国からスカウトされ、寂れてはいるが穏やかな田舎の農村から金と権力の渦巻く王都へと上京した、これまた見目麗しい女性だ。

 魔力を弓に乗せ射る、通称マジックアローと呼ばれる技術の使い手でもある。些か変態チックな所が玉に瑕だ。


 アイネは、勇者の仲間であると同時に、監視役でもあり、癒しの聖女と呼ばれているサクラサクを派遣した神聖会への牽制役でもあった。だが勇者に惚れてしまったが故に、今では勇者派(自称)とでもいうべき勢力へと衣替えをしている。



 勇者パーティは、この四人によって構成されていた。



「アイネ、何を言ってんだ!?」


「いやいや、サバトよ。この清々しい青空のもと、開放的な気分でコトに至れるというのは素晴らしいことではないか?

 想像してみるのだ。風が肌を通り抜ける快感、もしかしたら誰かに見られるかも知れないという背徳感、そのような状況で紡がれる、熱烈な愛! ああっ!!」


 アイネは自らの体を両腕で抱き締め、モジモジと体を揺らす。


「おいアイネ、頭がおかしくなったのか?」


「うぅん、サバトの罵倒が身に染みるっ!」


 アイネはさらに体を揺らし、何かを耐えるように体を震わせた。


「ちょっと、やめてよ!」


「いいえ、これは裁きです! 教会の異端審問なのです!」


「なら、こっちも!」


「きゃっ! お尻に触らないでください!」


「何がきゃっ! よ! カマトトぶっちゃって、あんたが腹黒なことなんて、サバト以外はみんな知っているんだから!」


 一方、先程から言い合っていたサクラサクとマリーは、何故か胸と尻の揉み合いに発展していた。


 その光景を見たサバトが突然、叫び声を上げた。


「あ……うあああああああああ!!!」


「さ、サバトさん!?」

「サバト!?」

「んんっ?」


「もういやだあああああああああああ!!!」


「ちょ、ちょっと、どうしたのよ! ねえ!」


 マリーがサバトの肩に触れる。


「さわるなあああああ!」


「きゃあっ!」


 するとサバトは、マリーのことを突き飛ばした。


「マリー! サバトさん、なんてことを!」


 サクラサクが突き飛ばされたマリーのもとへ向かい体を抱く。普段はなんだかんだと優しいサバトが、マリーのことを突き飛ばすという暴挙には驚いたが、それよりも仲間を不用意に傷つけたことに怒りを感じた。


「サバト、落ち着け!」


 アイネも何かがおかしいと感じ取り、警戒しながらも、頭に両手を当て何事かを喚き続けるサバトの元へ向かう。


「うるさいうるさいうるさい! お前たちはいつもそうやって騒ぎやがって! いい加減我慢の限界だ!」


 サバトはそう叫ぶと、そのまま草原の奥へと走り去ってしまった。






 ★






「はあっ、はあっ……なんなんだよ、あいつら」


 くそっ、いつもいつも好きなだけはしゃぎやがって。いい加減頭にきて、逃げてきてしまった。


「はあ、疲れてんのかな、俺……世界平和の為だと思って、今まで勇者様を必死に演じてきたけど、そろそろ限界かなあ……」


 自然と、独り言が多くなってしまう。


「……あれ、ここはどこだ?」


 ふと頭をあげると、いつの間にか何処か峡谷の谷間へ入り込んでしまっていたことに気がついた。細く狭まった道がどこまでも続いている。


「あれは……」


 道中の壁に、穴が空いているのが見えた。


「……よし、少し頭を冷やそう」


 辺りを見渡した所、モンスターの気配もない。今までの帰途もそうであったことから、恐らく魔王を倒したと同時に、モンスターも消滅してしまったのだろう。



 穴の中はそれほど複雑ではなく、小さな鍾乳石が垂れており、所々に岩がある程度だった。奥行きもあまりなく、他の生物の気配はない。俺はこれ幸いと入り口から見えづらい、近くの岩に寝っ転がった。


「はあ……」


 頭が冷えてくると同時に、旅の思い出が蘇る。

 楽しいこと、辛いこと。強敵との邂逅、魔物から助けた民の笑顔、魔王との決戦。


 そして何よりも大切な旅の仲間の顔。


「……戻る、かな」


 幾時が経った頃か、俺は思い出に耽るのをやめ、体を起こした。


 その瞬間、轟音とともに地面が大きく揺れた--



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