サービス開始当日
2016/9/4、大幅に変更しました。
この話に含まれていた内容を全て前話に移しました。
1月1日午前5時。
アラームの音が鳴る数秒前に俺は目覚めた。
隣にはアスがいる。『隣の部屋』や『隣のベッド』ではなく、『隣』にいる。この家に来て3ヶ月後ぐらいにはこの事を深く考えるのは辞めた。
「さて、と……」
アスを起こさないようにゆっくりと体を起こし、軽くストレッチをしてから庭へ出る。
この『屋敷』の庭は学校の運動場ぐらいのサイズがあるから走ったりするのにはちょうどいい。こんなに大きい庭を作る意味をアスの父親に聞いたことがあるが……特に理由は無かったらしい。アスの父親は大手の会社の社長だから意味も無く巨大な庭を作れたんだろう。
ともかく、この庭で30分ほど走るのが俺の毎朝の日課だ。どんなにゲームに熱中していようと、風邪にかかろうと、この日課を欠いた事は無い。
30分走り、ストレッチをしていると美愛が起きてきた。
「おはようございます、ナオ様」
「おはよう、美愛……アスはまだ寝てるかな?」
「えぇ、寝ておられますよ。昨夜は頑張っていらしたので食事は楽しみにしておいてくださいね」
「へぇ、楽しみだな」
そんな感じの会話をしながら屋敷に入る。
どうやら俺が寝た後もアスと美愛の2人で料理の仕込みをしながらNWOの勉強をしていたらしい。基礎的なことは憶えたそうだ。
午前6時頃、ゲーム仲間のグループにメッセージが投稿されていた。
***
ライカ:おけおめことよろ〜、特にNWOではね!
ガク:おけおめ〜、職業決めたか?
ライカ:当然シーフ
ガク:相変わらず過ぎて
ライカ:うっさいわ!ガクもどうせ盾役でしょ!
ガク:おっと誰か来たようだ(既読2)
ナオ:よう、おけおめ
ライカ:あけおめ!頼りにしてるよギルマスぅ
ガク:おけおめ〜、ナオは職業どうする?
ナオ:秘密……あとギルドシステムあるか分からないんだからギルマス言うな
ライカ:えー、流石にあるでしょw
ガク:あるでしょw
ナオ:それはそうと、前言ってたヤツが回復職やってくれるかもしれない
ガク:おぉ!
ライカ:うちの唯一の穴が……!
ナオ:まぁまだ決まったわけじゃないけどな
ミヤカ:皆さんあけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いしますね!
ライカ:ミヤちゃんあけおめ!
ガク:よろしく!ミヤさんは…やっぱ水系の魔法使いだよなぁ
ナオ:よろしくなー
ミヤカ:ふふ、バレました?
ミヤカ:回復職の方が入るかも知れないんですね〜、ナオさんの幼馴染みの方でしたっけ?
ナオ:あぁ
ガク:ナオみたいなゲーマーの面倒を見る幼馴染みだろー?絶対可愛いタイプだよな( •̀ω•́ )و
ライカ:ガクが手を出さないように見張らなきゃね。
ミヤカ:ガクさん……
ナオ:まぁ身長低いし可愛い方だと思うぞ
ガク:冗談だよ!!!
ライカ:きゃー!すっごい楽しみ!
ナオ:何気にライカも不安要素だよな
ガク:うんうん
ミヤカ:確かにそうかもしれませんね
ライカ:ええっ!?ミヤちゃんまで〜。・゜・(ノД`)・゜・。
ガク:おっと親に呼ばれたから俺は落ちるぜ!じゃあまた後でな〜ノシ
ナオ:おう、種族の件分かってるよな?
ライカ:じゃあね〜
ミヤカ:私も落ちますね〜
ガク:もちろん!
ナオ:じゃあお開きだな、また後でNWOで会おう
ナオ:みんなも種族はちゃんとしてくれよ?
ライカ:もちろん!よーし、アバター設定頑張っちゃうぞ!?
ナオ:身長盛るなよ?
ライカ:女子のコンプレックスに突っ込むな!?
ナオ:じゃあな〜
ライカ:くっ……
***
……やはりこいつらと話してるのは楽しいな。
あるゲームで知り合い共に戦ってきたゲーマー達、全員都内に住む高校生らしく、NWOの発売日にオフ会として初めて顔を合わせてからはリアルの友達のように話し込む大切な仲間たちだ。当然NWOでもパーティを組み、ギルドやそれに似たシステムがあれば、一緒に作ろうという話も進んでいる。
ライカは身長低めの活発な女子で、ゲーム中では盗賊系を選択することが多い。実は俺達との活動記録を録画し、動画サイトに上げていたりする。
ガクはムードメーカーとして、盾役の重戦士としてチームを支えてくれる存在だ。180cm後半という高身長である。
ミヤカはいつも冷静沈着、魔法使いとして高ダメージを叩き込む役割を果たす。ちなみにスタイル抜群。
今までのゲームでは俺をギルマスとしてギルド「Cherub」を組み、4人で活躍してきた。あるRPGでは1パーティでギルドクラスの最強ボスを倒したとして、特別な称号を貰ってたりする。
とりあえず俺を含めて全員筋金入りのゲーマーってことだ。
午前7時、アスが起きてきた。
「ナオさん、美愛、おはようございます…」
「おはよう、アス」
「おはようございます、お嬢様」
「今年もよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
「よろしくお願いします」
新年の挨拶も済ませ、いよいよ朝食だった。
……量が多過ぎて食べるのに苦労したが、楽しい時間になった。
例年はアスの祖母の家に行くからこうゆっくり楽しく過ごすわけにはいかなかったし、新鮮な気分だった。
「さて、挨拶も済ませた、朝食も終えた……」
「他にするべき事はありませんね」
「じゃあ、準備しましょうか」
そうして準備に入る。現在は午前8時、もうすぐ設定の事前受付が始まる時間だ。
滞りなく準備を終えて、午前9時になった。
VR端末を起動し設定を開始する。
名前はナオ、性別は男。
職業には大きな変化は見られないようだ、その中から決めていた職業を見つける。
職業名は『練血術師』。MPを使わずにHPを消費する魔法職といったところか。
さて次はアバターの設定だ。
種族は事前に皆で決めておいた「翼人」にする。小さな翼が生えている種族だ。翼と言っても羽のようなものではなくどちらかと言うと飛行機の翼のような硬質的な物だ。
ちなみに飛ぶ事は出来ない。
また、この翼には質量が無く、衣服を貫通して背中に常に存在するという設定がある。
アバターは特には弄らず普通に黒髪で、眼だけは赤く変える。
体型は全身画像とかデータから勝手に作ってくれる現実体型のままだ。
アスと美愛の諸々の設定も終わって、ゆっくりと時間を過ごす。
情報交換サイトを見ると、職業に関して大きな変動が無かったことからゲームの中に関してもそれほど差はないのではないか、という意見が多いようだ。
昼食も済ませた。
ゲーム開始までは、残り約1時間。
サービス開始当日になります。
共に楽しむ仲間たちが出てきました!
あのL〇NE風のやり取りのところは書いてて楽しかったです。読み返しても楽しいシーン。
ではまた次話で!