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5章 悪夢の墜葬

2人を乗せた飛行機はそのまま空へ昇っていく。

やはり雲の上の青空は清々しく、綺麗な雲海がその窓を隔てた向こうの世界で広がっていた。

階てな空の旅を満喫していたこいしに対し、ジェネシスは複雑な心情を構えていた。

離陸後、安定した軌道を確保できた為、シートベルトの解除可能の知らせが届くと速攻で外した彼は、通路を歩いて動くキャビンアテンダントから菓子パン2つを購入した。

そして空を綺麗に見渡すこいしに彼は菓子パンを渡した。


「あ、これ…」


「どうせ空腹だろ。カプチーノだけで満腹とは言わせないぞ」


「じゃ、お言葉に甘えてー!」


彼女は隣に座っている先輩博士に遠慮と言う言葉を知らないかのように受け取っては、口に頬張り始めた。

彼も実際には年上や年下なだけで呼び方を変える世界の暗黙の了解を嫌悪しており、彼が見習いとして国際考古学研究所に入った時、先輩博士に「駄目駄目な人間だな」と呼んだことがある。

やはりその後の展開は案の定のものだが、彼自身は何も懲りていなかった。


彼も頭を留守にしながら菓子パンを頬張る。

その眼には、これから訪れるチャカ・リプカに於いて調査責任を任された自分の誇大な期待を裏切ってはいけない、その積み荷が重く感じたのだ。

マター博士なんかに及ばない彼自身が後継して調査に赴くことは、何処か心の齟齬を感じていた。


こいしが一生懸命に眺める窓からの景色には、所々に雲から突き抜けて先端だけ見える山々が存在していた。

どれも山頂付近には幻想的な雪が降り積もっており、山麓の緑の青々しさとは対比する程美しい画となっていた。


ブレイズバリスタが入ったケースを座席の下に、彼は研究所から持参した紅茶が入った水筒を取り出す。

コーヒーを飲んだばかりの彼は水筒を開けるや、静かに飲んでいく。

彼自身、飲み物は大好きである。だが、飲み過ぎると颯爽に尿意を催すのは事実だが。



「―――動くな!全員手を上げろ!」



その声は静かな飛行機内で響き渡った。

同時にいつの間にか忍び込んでいたであろう、黒服とマスクを纏った2人組がマシンガンを片手に乗客に投降を指図したのだ。

急展開に乗客たちは一斉に騒めき、そして次々と手を上げていく。

両手を上げ、何も抵抗しない事を約束した乗客たちに合わせ、彼も手を上げる。

動転したかのような感情。彼自身、何が起きているのか全く把握できないでいた。


キャビンアテンダントも一切の抵抗を止め、全員は投降した。

彼らの目的は何なのか、1人は沈黙した機内をマシンガンで警戒する。

他の1人はそのまま操縦室へ赴き、その姿を消してしまった。…やるなら今しか無かった。


彼の席はハイジャック犯にとっては死角に存在していた。

すぐにケースから巨大な銃剣を取り出し、すぐさま立ち上がった。

これは彼自身の運命に関わることだ。既に空港で連射魔を殺害した彼に、殺すことに対してのブレーキは緩くなっていた。


席と席の間の通路を疾走し、大剣を片手にマシンガンを構えるハイジャック犯を斬りつけた。

不意を突かれた犯人はマシンガンを遠くに飛ばされ、別の乗客がそれをキャッチした。

まさかの展開にハイジャック犯は戸惑うも、ジェネシスは容赦しなかった。

銃化したブレイズバリスタでハイジャック犯に一発穿つと、彼はそのまま壁に凭れ乍ら倒れてしまった。

死にはしない程度に放った銃弾。そしてすぐさま操縦室へ足を急がせた。


こいしはそんなジェネシスの突発的な行動に驚愕しながらも、混乱する機内を統制する。

機内の老若男女が彼女の指示に従い、生命に縋っていた。


「はいはーい!貴方はこっち!貴方はそっちに!

今、ジェネシス博士がハイジャック犯をどうにかすると思うから待っててー!」


どんな時でも彼女は冷静でいた。

軽い口調で乗客たちを分けていき、安全な立ち位置に誘導するその姿は何処か才能さえ感じた。

キャビンアテンダントの一部は今起こっている事象を電話でフィラデルフィア国際空港に連絡していた。

管制塔はハイジャック犯の存在を確かめ、すぐに行き先のゼラ・マグヌス空港に一本入れる。


緊迫した機内の中、彼はすぐさま操縦室へ駆け込むや、そこには機長と副機長にマシンガンの銃口を向けるハイジャック犯の姿があった。

銃口を向けられた2人は冷や汗を流しながら無言で操縦している。


「…どういうつもりだ!すぐにマシンガンを降ろせ!」


「…お断りだ。俺たちは自爆テロを起こす。もう此の身に何が起きようと構わない。

―――寧ろ事故が永遠の歴史に載った方が面白い。

…この飛行機は今先程、軌道を真逆に変更した。…このままフィラデルフィア総合参謀本部ビルへ突っ込ませる。

…史上最悪の飛行機事件の名を此処に刻もう」


彼はマシンガンを片手に、そう自慢げに話していた。

自ら請け負った生命を否定し、このまま飛行機をフィラデルフィア総合参謀本部へ突っ込ませようと言うのだ。

総合参謀本部は所謂フィラデルフィアの中枢機関である。其処がやられれば、一晩でフィラデルフィアは全滅する。車や地下鉄が走るフィラデルフィアの町は一瞬にして死滅するだろう。

そうすれば、敵対するハルバード王国の絶好のチャンスでもあった。

…嫌な考えが頭をよぎった。何にせよ、この金甌のような町…フィラデルフィアは全て自分に託されている、と言うことだ。


「…そうはさせるか!」


「おーっと、お前が手を出せば2人は死ぬ。…いいのか?ケッケッケッ」


嘲笑を口元に浮かべるハイジャック犯を、彼は憎んだ。

しかし、人質が存在する以上…余計な手出しは許されない。

これもハルバード王国の仕業、と考えると呆れや瞋恚を超えた、遥かな怒りを彼は抱いていた。


「…ならお前だけを倒す!」


銃化したブレイズバリスタでハイジャック犯の右膝を穿つ彼。

剣が銃弾を放つとは知らないでいたハイジャック犯はその余裕を表情から消し、一気に崩れ去った。

膝から床に落ちた彼はマシンガンを落とし、それをすぐさま機長が拾う。

ブレイズバリスタを構え、再び立ち上がったハイジャック犯にジェネシスは尋ねた。


「…もう逃げ道は無いぞ!」


「…ケッケッケッ…それはどうかな?」


そう言うや、彼が取り出したのは…手榴弾であった。

黒めく物体は、その場にいた3人を驚愕させ、畏怖を抱かせた。

流石のジェネシスも少し悪寒を受け、少しずつ後退していく。


「…な、何をするつもりだ!?」


「…軌道は変更された。…後は墜ちるだけだよ!この飛行機が!…全員死ね!」


◆◆◆


操縦室を襲った大爆発に巻き込まれ、そのままこいしたちが避難する座席まで吹き飛ばされた彼。

何が起きたのか、乗客たちはそんなジェネシスの傷ついた姿に動揺を隠せないでいた。

すぐにこいしが駆け付け、何が起きたのか様相を問う。


「何が起きたの!?」


「…手榴弾の爆発でこの飛行機の操縦機械を完全に壊された…。

―――奴らの目的は恐らく、フィラデルフィアの機能停止だ。

…この飛行機は現に、フィラデルフィア総合参謀本部ビルへ向かっている。衝突を狙うつもりだ」


彼の意見は人々を恐怖に浸された。

子供は泣き、大人は訪れる災厄にただ親近感を沸けないまま困惑する。

どうしようもない展開に、泣くしかなかったのだろうか…。…ジェネシスは傷ついた体を起こして、再び口を開く。


「…出来ることをやるしかない」


彼はそう言い残すと、黒煙が巻き起こる操縦室へ彼は向かう。

3人のバラバラ死体が転がっていたが、血塗れた機械を出来るだけ操って、最悪の事態を免れようとした。

電流が迸る機械を、感電しながらもレバーやボタンを適当に操る。

急降下していく飛行機。降下していくにつれて焦りは増大していく。

そして一つのボタンを押した瞬間、フィラデルフィア国際空港の管制塔とのコンタクトが取れたのだ。


「ツーツーツー…こちらフィラデルフィア国際空港!フィラデルフィア国際空港!只今の状況を!」


「こちら乗客の1人です!機長と副機長はテロリストの自爆行為にて死去、代わりに私が便をとっています!」


「何だと!?…分かりました!そのまま自動操縦ボタンをお押し下さい!場所は赤いランプのすぐ下、比較的小さな黄色いボタンです!」


「分かりました!」


すぐにジェネシスはそのボタンを見つけ、壊れている機械の中でも出来る限りの事は努力しようと試みた。

自動操縦に切り替えた飛行機はそのまま降下を止め、何とか軌道を取り戻したか…のように思えた。

が、此処で水を差したのはもう1人のテロリストであった。

彼の背中に手りゅう弾を投げ込み、その自動操縦さえも停止させようとする。

背後に気づいた彼はすぐさまブレイズバリスタを持って離れたが―――予測していた悪夢は…今、そのものになろうとしていた。


彼らが乗る飛行機は自動操縦を停止、そのまま一気に急降下する。

乗客たちは物凄い勢いで傾く機内でただ悲観し、お互いに抱き合ってその生を確かめ合うことしか出来ないでいた。

キャビンアテンダントは最後までも乗客に頭を下げろと指示をする。

…やはり、此処までであった。

2人目のハイジャック犯も手榴弾に巻き込まれ、飛行機は雲海から飛び出してフィラデルフィア市街に突っ込もうとする。

総合参謀本部との激突は自動操縦による軌道変更で免れたものの、事故は避けられない…。


「全員、頭を下げろ―――!!!」

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