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4章 来襲

GT-Rはそのまま高速道路を走らせ、先程の事件を知らぬかのように疾走する。

やはり大きな傷は目立っており、彼自身も何時かは修理に出したいと思っていた。

ハルバード王国の特殊部隊が我が身を狙っている以上、自分自身もブレイズバリスタで戦う他は無さそうであった。

やがて銀色に光輝く、飛行機の管制塔を始めとした近代的建物に高速道路は囲まれる。

そのままインターチェンジで降り、空港に併設された立体駐車場に彼は入車した。

駐車券を乱雑に引きちぎるかのように取り、そのまま財布に入れる。

車を最上階である屋上まで移動させ、そのまま適当な位置に停車させる。

太陽の光が白色のGT-Rに反射させられ、外観は眩しく感じる。


彼は車から降り立つや、改めてヤマメ戦での無茶ぶりを把握した。

純粋に彼は後悔して、自分の計画性の無さを悟った。


「…うわあ~すっごい傷だね」


「…派手にやりすぎたな。…こりゃあ修理費10万もまんざらじゃねえな…」


しかし、彼は遠い未来は気にしない。

慧音に奢ってもらえると信じて、そのままフィラデルフィア国際空港の中へ入る。

多くある棟の中で、チャカ・リプカに一番至近な空港であるゼラ・マグヌス空港まで行く飛行機は便数が極めて限られており、次の飛行機まで2時間も存在していた。

こいしは広い国際空港の中を興味津々に見渡している。やはりフィラデルフィア国際考古学研究所という檻の中に入れられた以上、新鮮に感じるのだろうか。


「…2時間もあるのか。…暇だし、お前もコーヒーショップで何か飲むか?

…今なら私の奢りで何か奢ってやるぞ」


「わーい!じゃあ私ね…カプチーノ!」


しかし、2時間と言う長い時間は退屈に思えた。

そこで、彼女を連れて空港内に併設されたコーヒーショップでその暇を過ごすことにした。

その前にチケットを受付に見せ、席を予約して万全の態勢を取る。

ブレイズバリスタは黒くて細長いケースに入れているため、外観からは分からないが。


モダン風なコーヒーショップに入店し、彼は普通のブラックコーヒーを、彼女は甘いカプチーノを頼んで、飛行機の滑走路が鮮明に映る窓側の席に並んで座った。

銀色の翼はまるで自由自在に飛べる力を得たギリシャ神話の登場人物イカロスのようであった。

果てしない空を仰ぎ見て、見えない軌道上を飛んでいく姿は何処か心を惹かれるものがあった。

コーヒーショップは人の出入りが激しく、老若男女がコーヒーや飲み物を楽しんでいた。


「…あの飛行機に乗るのか」


2人が乗る飛行機は静かに着陸し、そのまま人を降ろしていく。

飛行機と直接繋がれた通路によって多くの人が空港に戻り、入れ替わりに清掃員が入っていく。

その光景はやはり近代化が進んだフィラデルフィアだからこその計画性なのだろうか。


「…やっぱりどれもカッコいいよね~」


彼女も左手にカプチーノを携え、目をキラキラ輝かせてその銀色の翼を見ていた。

ガラスを隔てた向こうの世界では人が次々に入れ替わっていく。

ハブ空港であるフィラデルフィア国際空港では中継地点とする飛行機も多く、エネルギーチャージを行う光景も見られたりする。

飛行機の給油部分に繋がれたパイプによって、飛ぶためにエネルギーは送られる。

ジェネシスも曖昧な知識は知っていたが、考古学専門である彼が機械学に詳しい訳が無かった。


「…飛行機はカッコいいな」


「…これから飛行機に乗るの…やっぱりワクワクする~!」


彼女はそう燥いでいた―――その刹那であった。

人の入れ替わりが激しいコーヒーショップに接する空港の大広間で突然、悲鳴が上がったのだ。

それは彼をハッとさせるものであった。突然響く銃声。逃げ惑う人々。

すぐに振り返るや、そこにはハルバード王国特有の機械化武装をした兵士5人が銃を構えて乱射していた。


―――無差別虐殺だ。


心の底から許せないと思っていた。勝手に開拓しておいて、石油を自らの物だと所有宣言するだけならまだしも、対峙しているフィラデルフィアを襲撃するのだから。

…頭の線が切れた気がした。すぐさま黒いケースの中に入った大剣を取り出し、右手に構えて彼は走った。

其れに気づいた彼女も、カプチーノを急いで飲み干すや、そのまま二丁銃を両手に外へ飛び出した。


兵士5人は乱射魔であった。

無辜の民である空港利用者を無暗に虐殺し、混乱を招いていた。

既に20人が倒れており、泣き叫ぶ子供の悲痛な姿は心痛い光景であった。

嘲笑を口元で浮かべる兵士たちの銃撃を前に、彼は大剣を持って立ち塞がった。


コーヒーショップ前で行われる対峙。

コーヒーショップの店員や客は、今さっきまでコーヒーを飲んでいた人物が兵士たちの前に勇猛果敢にも立ち塞がった事を凄いことだと捉えていた。

銃声は止み、静まった空港内に彼の声が響く。


「…お前たちの狙いは何だ!?…何を目的で殺戮を行う!?」


「…いたぞ!…ターゲット;『ジェネシス・F・レクエール』!

奴だ!奴を捕縛して、さとり様に引き渡すぞ!」


兵士たちはジェネシスを狙っていたようであった。

彼は狙われの身であったが、無辜の民の大量虐殺を傍観している訳にはいかなかった。

両手でブレイズバリスタを構え、武装化する兵士たちを睨み据えた。


「…いい加減にしろ!」


彼の怒号と共に銃化した大剣はそのまま5人を射貫いてしまった。

…兵士たちは過去形の存在となり、辺りに血が吹き零れる。

過呼吸していた彼はその5体の死体を前に、虚しさを覚えた。

…これしか、無かったのだろうか。…やはり、人を殺す事など…。


他にも兵士たちはうろついていたが、全員こいしが銃で撃滅した。

倒れる人々がジェネシスの周りで海のようになっていた。

彼はそのまま大剣をケースに仕舞い、現場に急行してきたFBI職員に対して事情聴取を受けた。

彼は正直に話すと、FBI職員は大きく頷き、残念そうな顔を浮かべていた。

―――静かにその場を立ち去った職員に、彼は取り残されたような疎外感を覚えた。


「…何だ、私は…悪者なのか」


「…違うと思うよ?…そもそも、もし悪者だったら自覚するの…遅いんじゃないかな?

さっきヤマメを車で轢いた時、ジェネシスさんはどうでもよさげな顔を浮かべてたでしょ?」


「…あれは慧音からの指示があったからだ」


「じゃあ指示が無ければ目の前で多くの人々が殺されてても助けちゃいけないの?」


こいしの意見も一理あった。

全ては指示では無い、意識だ。自分自己の抑制が、善悪を判断する。

吹き抜けの空港の広間で、静かに佇んでいた彼は居心地が悪くなったような気がした。


その後、多くのパトカーが駆け付け、多くの警察官たちが現場検証を行っていた。

ジェネシスも散々という程話を聞かれ、結果は無罪で済んだ。

そして野次馬や多くの報道陣…所謂マスコミが駆け付け、現場は騒然とした。

しかし、兵士たちの犠牲者の遺族は親類の突然の死にやはり涙を隠せず、綺麗な空港内は僅か数十分で弔い会場となった。


「…もう時間だ。…飛行機に乗りこもう」


「…うん」


悲しみは彼の心を救っていた。

ブレイズバリスタも二丁銃も慧音からの連絡があったのか、検査に引っかかる事は無かった。

そのまま彼はゼラ・マグヌス空港までの飛行機便―――フィラデルフィア航空101便に乗り込んだ。

主に小型飛行機であり、普通のジェット機と比べて大きさは劣っていた。

満席で出発した飛行機は大空へと離陸、そのまま空の旅を始めた。

窓側で眼下を眺めているこいしは絶景に心を打たれていたが、通路側の彼はさっき起きた悲劇を何時までも考えていた。

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