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43章 空中のクーデター

ラディウスはジェネシス達を背に、そのまま飛翔していた。

風を切り、隔たれた空間に突入するかの如しその形容は、飛行機にも例えられた。

銀翼を太陽に輝かせては、空気を突き抜けて……遠くへ見える情景へと急がせる。


「…こいし……お前の真実を聞かせてくれ…」


過去への思いと、彼女への憎しみ。

二律背反した、齟齬した感情を心の中で渦を巻かせて。全ては彼女の真髄を知る為に。

遠くにぼんやりと映る、曾て見た事があるような、白い直方体の建物。

―――あれこそが、天敵であるさとりの居城…ハルバード考古学研究所であった。


彼はその建物を睨み据えていると、彼の元にやって来たのはパチュリーであった。

両手に握り拳を作っては、行き場のない苛立ちを持っていた彼を慰める。

彼の背中を優しくトントン、と叩いては彼に安堵感を覚えさせる。


「―――大丈夫、あの子の分まで私が支えてあげる……」


「……ありがとな」


そっと、静かに語りかけてくれた彼女に、彼はお礼を述べた。

そして…寄り添ってくれた彼女にも、彼は背中を柔和にトントン、と叩いた。

其れは彼女への返事のようでもあった。彼はこいしとの過去を削る事は出来ないでいても、精一杯今を見つめて行こうと決め込んだのであった。


◆◆◆


ラディウスはやがてフィラデルフィア市街地上空に到着する。

やはりフィラデルフィア軍最後の希望と示唆されるラディウスはハルバードにとっては悪夢でもあり、辺り近辺にはしきりに空襲警報のサイレンが鳴り響いた。

民衆は怯え、機械龍の存在を嘆いた。泣いた。恐怖に押しつぶされ、倒れる者もいた。


ジェネシスは眼下の光景を見ていると、何処か心が痛くなった。

其れは他の仲間たちも同じ…レミリアやフランも辛そうな顔を浮かべていた。

マター博士は溜息を一つ、ラディウスが風を切る音に交じって吐いた。


「……戦争は…やっぱり良くないものじゃ…。皆の衆が恐怖に怯え、毎日が毎日で無くなるじゃからのう………」


彼は戦争の悲劇に震えた。

身が縮むような思いで、眼下の光景をまじまじと眺めていた。…残酷な絵であった。

やはり民衆の恐怖を取り除くためか、迎撃機がジェネシスたちの前で立ちはだかる。

だが、ラディウスの標準機能で迎撃機にホーミングミサイルを撃ちこみ、爆発が空中のあちこちで発生していた。


市街地に降り行く、飛行機の残骸の雨。

晴天の中に降る、天候が矛盾したような光景はまさに青天の霹靂へきれきそのものであった。

人々の悲鳴が更に舞い起こる。恐怖に駆られ、民衆は混乱に陥った。

その混乱の波紋は、当初の目的の場所であった考古学研究所にも広がった。


「じぇ、ジェネシス!迎撃機にホーミングミサイルを撃ちこむのは止めて!」


唐突にレミリアの声が響いた。

その声は彼の耳元に届き、ラディウスへと命令を下した。

既に機械龍へと近づく戦闘機は消え、殆どが周りでプカプカと浮いているに過ぎなかった。

此処で彼女はスマートフォンを取り出し、声の大きさを拡張するスピーカーアプリを起動させて、スマホを口元に当てたと同時に話し始めた。

市街地に生き渡るような声が、ラディウスの上から放たれた。


「やめなさい!…もう、やめるのよ!

―――私は機械軍弐號式枢機卿………レミリア・スカーレットです。ですから、今すぐ戦闘機は元の場所へ帰還しなさい!…繰り返す、私は機械軍弐號式―――」


「黙りなさい!…所詮、枢機卿風情で停戦なんて、高が知れているわ!」


ヘリコプターと共に、ラディウスの上に現れた人物……。

黄金のマントを羽織り、黒服を身に纏っては右手に長い槍を構え、彼らを睨み据えて―――。

レミリアとフランはその人物の姿を見た時、時間が止まったかのように唖然とした。


「……れ、靈夢様…」


彼女たちはその姿を見ては怯え、右膝を地面に付いては頭を下げた。

その様子と彼女の服装から察するに、ジェネシスは靈夢と言う人物こそが此処の国王であると把握した。

大剣を背中の鞘から差し抜き、戦う姿勢を取っておく。


「…お前は…ハルバードの国王、か」


「―――ええ、私の部下がお世話になってるようね。しかも出しゃばった真似なんかして。

…面白くないわね、…勝手に停戦なんて御免よ」


「…国王が自らワイたちに会いに来てくれるとは…ワイたちも物価が上がったやな!」


ケット・シーは国王の登場を皮肉って発言した。

彼女は猫に対して腹立たしさを覚え、槍先をケット・シーに向けた。

しかし猫は微動だにせず、慧音の肩によじ登っては挑発行為を行っていた。


「……まあ、国王自らが持て成しの来てくれたなら…話は早いね。

―――――行くわよ、私たちが……それ相応のお返しをしなくっちゃ!」


慧音の声に合わせて、ジェネシスたちは武器を構えた。

此処で対峙する2極の間に現れては、両手を広げて制止させようとするフラン。

涙目を浮かべては、平和と祖国の板挟みに遭っていたのだ。


「…ジェネシスさんたちも、靈夢様も……。…もう、やめましょうよ…」


「小賢しいのよ!雑魚風情が!」


国王は止めに入った彼女に蹴りの一撃を浴びせ、そのまま吹き飛ばす。

レミリアの元まで飛ばされたフランに、姉は心配の声を掛けた。息苦しそうな彼女に、彼女も涙腺を顔に描いて―――。

そんな枢機卿たちの元に足を運んでは、心配するレミリアの顔を蹴とばす国王。

流石の行動に、ジェネシスたちは目を疑った。


―――その時であった。フランの目が、本当の怒りに変わったのが。


其れは決して偽りなんかでは無い―――絶対に許せない、と言う彼女の想いが込められていた。

この際、彼女は堂々と枢機卿と言う身分…所謂、職務を捨てる覚悟をしたのだ。

別に我が身がどうなっても構わない、しかし姉であるレミリアを傷つけた国王を…許す訳にはいかない、と。


「…靈夢様……いや、靈夢…。…フラン、本気で怒ったよ。

――――――今から…私たち枢機卿がクーデターを引き起こすわ!…全員、アイツをやっつけるのよ!」


フランはスマホのスピーカー機能越しで、周りにいた戦闘機に搭乗していたパイロットに述べた。

やはり国王への悪寒感情は高まっていたのか、どの戦闘機も反対の意を示さなかったのだ。

下界では突然起きた、空中のクーデターに賛同を示す民衆も多く、戦争へと持ちこんだ元凶をけなす勢いで怒号が湧いた。


…国王である靈夢は良い居心地がしなかった。対峙するジェネシスたち、そして裏切られた枢機卿2人、更には戦闘員たちや発起した民衆たち。

―――全員が憎くて、仕方なかった。彼女は彼らを睨み据え、マントを風に靡かせていた。


「……実に。…実に!居心地が悪いわ。一体誰の所為かしら?

―――私と言う神聖な存在を穢し、全てを飲みこんでは私の桃源郷を破壊しようとする冒涜者は!?」


彼女は懐から、光輝く結晶を取り出した。……紛れも無い、其れはアルカナであった。

光り輝く結晶を自身の身体に押し付けるように胸に抱きしめると、アルカナに込められた意思がオーラのように溢れだし、彼女を包み込んでいくのだ。

―――彼は察した。具体的にどんなのかを説明出来る訳では無いが、何か悍ましい予感がしたのを。


「…そうはさせるかッ!」


彼は彼女に先手を打つようにブレイズバリスタで斬りかかった。

しかし、彼が斬ったと思った時、既に手ごたえは無く、彼女はアルカナに溶け込まれていた。

オーラに覆われ、彼女はアルカナの意思そのものに為り果てたのだ。

……形容は巨大な顔を浮かべた、鋼鉄の天使の翼を生やした機械の要塞であった。

ぎこちない巨大な顔そのものが、彼女の変わり果てた姿であった。…此れが、アルカナの力でもあった。


「…愚かなものよ。何も知らずして、私に謀反を図ろうとなど。

―――――だから、私はあれだけ王を崇めるよう言ったのだ。貴様ら人間風情が、私に勝とうと思うな」


すると生まれ変わった国王は機械龍を呼びよせた。―――バハムート・スカーレットだ。

どうやらスカーレットは操られているらしく、ラディウスに向かって炎を吐こうとする。

しかし、此処でレミリアが周りの戦闘機に命令を下し、戦闘機たちはバハムート・スカーレットに攻撃を仕掛けた。

スカーレットは攻撃を中断し、戦闘機との戦いに移る。


「……下らない偶像崇拝は終わりだ、終わり。…お前が例えアルカナの力を使おうとも、こちらにだってアルカナはある。……怯える必要が無い」


「そうね、ジェネシスの言う通りよ。貴方みたいな傲慢主義者を崇拝しても、何一ついい事はなさそうだもの」


パチュリーも加わって、2人にそう発言された時、要塞の顔は瞋恚そのものへと変貌した。

自身へ抗いを見せる、愚かな反逆者たちに神の力を見せる為、全ては国王の尊厳として―――。

レミリアとフランは武器が無かったが為に、ジェネシスたちの後ろで要塞を睨みつけていた。

裏切り者を睨み返すと、要塞は機械的な天使の翼を大きく広げては歯車を回転させ、冒涜者への天罰を落とさんとする―――。


「―――では、貴様らの下らない悲喜劇とやらを観ていてやろう。そして私を導いて見せよ!

――――我が名はバルトアンデルス、此れが私の正体だ!

―――――神への謀反を企んだ、壊れし神のしもべたちよ!永遠の床につくがいい!」

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