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42章 喚び出されし者:バハムート・スカーレット

ラディウスに乗っていた一行の前に立ちはだかった機械龍。

同じような形容の上に乗っていたのは、2人の姉妹であった。其れは枢機卿―――。

………レミリアとフランドールであった。

彼女たちは眼下のジェネシスたちを見据えては、不敵な笑みを浮かべている。

機械龍の頭部の上に乗っては、レミリアが再び発言した。


「……貴方たちには散々な迷惑を蒙られてきたわ。お陰で私たちの職が剥奪されそうになったのよ。

―――この枢機卿と言う職は簡単には手放す訳にはいかないの。…此処で手柄を立てないと、私たちも危ないのよ。

だからジェネシス。……私たちの犠牲になって貰えないかしら?」


彼女はそう、淡々と述べた。

如何にも普通そうな素振りで、怒りの示唆は口調の何処にも現れていなかった。

髪を風に靡かせては、当たり前のように彼らに向かって発言した。


「…お断りだね。勝手に死んでろ」


彼は辛辣にも、彼女たちの要求を跳ね除けた。

背中の鞘から大剣を差し抜き、剣先を陽の光で煌めかせる。

彼の行動に続いて、他のメンバーも戦う構えを取った。そんな光景に、フランはしかめっ面をしている。


「…ハァ、分からず屋は困るね。…実践理性じっせんりせいが大事ってことかしらね?ならやってあげるわ!

―――――此処で貴方たちを撃墜させてあげる!…行くわよ、バハムート・スカーレット!」


◆◆◆


バハムート・スカーレットはラディウスに向かって、いきなりホーミングミサイルを発射する。

しかしラディウスの防衛機能で相殺のホーミングミサイルを発射し、空中でぶつかり合って爆発が起こる。

そのままラディウスはスピードを上げてスカーレットに体当たりし、お互いの居場所がくっついた。


「ジェネシス!…私と貴方がバハムート・スカーレットに乗り込みましょう!」


「わ、分かった!」


彼とパチュリーはそのまま向こう側の機械龍に移り、向こうもレミリアがラディウスへ移動した。

やがてお互いの機械龍は離れ、機械龍同士も体内で製造された、煮えたぎる炎を吐き合った。

炎が空中で分解され、火の粉が機械龍の背にいた彼らにも飛んでくる。

2人はスカーレットの背で、妹である枢機卿のフランドールと対峙していた。


「…一々小賢しいのッ!」


彼女はそう言いながら、自身が持っていた拳銃で2人目がけて引き金を引く。

しかし2人は銃弾の方向を見抜き、避けながらも彼女に向かっては近づいて行った。

だが居場所はスカーレットの背中、ラディウスの炎攻撃を避けようとした機械龍は大きく羽ばたき、3人にとっては地震のような揺れが発生したのだ。

斜め行く地面に必死にすがり、藁をも掴む思いで耐え凌ごうとする。


―――しかし、此処でフランは拳銃の銃口を2人に向けてきたのだ。

片手でスカーレットの凸に掴まり、もう片手で黒塗りの銃砲を向けて―――。


「このまま死ね!」


フランはバハムート・スカーレットに掴まっていては動けない彼らに向かって引き金を引こうとする。

しかしジェネシスが咄嗟の判断で大剣を銃化し、拳銃を構えていたフランに先手を打ったのだ。

銃弾は彼女の拳銃を弾き飛ばし、そのまま遥か彼方の真下へ落ちていってしまう。

スカーレットは態勢を立て直し、3人は安定して立てるように戻った。

フランは拳銃を落とされたことに苦い顔を浮かべていた。


「…これで終わりね!枢機卿も別の人に変わってあげなさい!」


パチュリーは拳銃が無いフランに向かって、電気を纏わせた電気ロッドで一撃を蒙らせようとする。

しかし、彼女の腹部に強烈な健脚の一撃が食い込んだ。其処にはフランの足があったのだ。

彼女は狼狽え、一旦退いた。


「…武器が無いなら、フランは手足で戦うね。…武器には頼らない」


「拳銃を使ってて、『武器には頼らない』発言は矛盾してませんかね……?」


「黙ってて!」


フランは水を差したジェネシスに向かって殴りかかる。

しかし彼も彼女に向かっては容赦なく、ブレイズバリスタで襲い掛かってきた彼女を一蹴した。

薙ぎ払われ、よろけながらも必死に立つフランドール。

だが、此処でパチュリーが本気の電気ロッドの一撃をお見舞いしようとしていた。


「…おしまい、ね」


彼女はフラフラになっていたフランを容赦なく薙ぎ払った。

彼女はそのまま空中へと放り出され、あの世を見つめるかのような絶望した眼でスカーレットから落ちていった。

しかし、乗せていた主を失ったバハムート・スカーレットは2人を落とそうと身体を反対に向け、背中を逆転させたのだ。

雲梯うんていに掴んでる状態みたいになった2人は辛い表情を浮かべていたが、下から声が聞こえた。


「今よ!手を離して!」


此処で2人は察し、すぐさま手を離す。

案の定、下にはラディウスの背中があり、着地することが出来た。

マター博士と慧音はレミリアを端まで追い詰めており、妹の落下に即して気が動転していたのだ。

落下はすなわち、死を意味する。


「貴方たち…。……私の妹を…妹を………妹を返してェッ!!!」


涙の雨を描きながらも、心情不安定に陥った彼女は持っていた二枚刃の太刀で襲い掛かってきた。

今まで慧音たちと戦ってきた事が、身体中の出血や痣で良く分かる。しかし、レミリアは自らが蒙った怪我にも動じずに襲い掛かったのだ。


―――全ては、愛する妹の落下…死が原因だ。


襲い掛かった彼女を突き落す気になれなかった慧音は華麗な足払いで太刀を空中に放り出す。

そのまま武器も落下し、彼女もまた何も持たない状態になる。

するとフランとは違っては無駄な抵抗をせず、膝からガクッと崩してはこの世の儚さを嘆いていた。


「フラン………どうして……」


敵にも、家族はあることを。

全面的に非がある、と思っていたハルバード王国も、考えを改め治すきっかけになったような気がした。

するとジェネシスは大声を上げて、ラディウスに命令を下したのであった。


「ラディウス!落下したフランを救え!」


◆◆◆


そのままバハムート・ラディウスはスカーレットに背中を向けたまま、真下へと進んでいった。

絶好の攻撃チャンスなのに、スカーレットは攻撃しなかった。ただ、空中の中で雲と共に浮遊していただけであった。

機械でありながら、ラディウスに申し訳なさそうな眼差しを静かに向けて―――。


落ち行く彼女は翼を失った天使のように、天を見上げ乍ら落ちていった。

しかしラディウスは彼女を掬い上げるように背中に乗せると、そのまま上昇していった。

ジェネシスの目の前で着地したフラン。彼女は絶望の淵に佇んでおり、着地の感覚を捉えていなかった。


「ふ、フランッ!」


レミリアは途方に暮れていたが、突然目の前に降ってきたフランに純粋な喜びを抱いた。

すぐに彼女は妹を抱きかかえ、フランも其の温もりで何が起きたのか、やっと理解していた。

周りを見渡しては、自分を抱いている姉に抱き返して―――。


「…お、お姉さま……」


◆◆◆


2人は抱き終え、再会を果たすとジェネシスがその場へ赴いた。

大剣を背に、座り込んでいた2人に向かって述べる。その声に、敵味方関係は無かった。

優しそうな眼差しで、枢機卿と言う職務を捨ててまでお互いを大事にしていた姉妹に、彼は感銘を受けたのであった。だからこそ、彼はラディウスに命令を下したのだ。


「…国に翻弄されて自分を見失っていたんだな……」


そう言われた時、2人は彼の方を向いては頭を下げた。

予想外の行動に全員は少しばかり驚きながらも、ジェネシスは笑みを浮かべていた。

其れは不敵なんかでは無く、微笑みに近いような笑みであった。


「…どうして謝るんだ?」


「……私を突き落した理由も、全てフランたちが作っていた事は分かってた……。

ハルバードはフィラデルフィアの領地を犯した。…だからこそ、私はこのまま死ぬんだな、って思ってた。

―――でも、フランを助けてくれた。もう、何も言う事は無いよ。嬉しかった。敵なのに手を差し伸べてくれて」


彼女たちはどうも、観念したようであった。

悲しそうな表情も消え、今や清々しそうな顔になっている。

元々は純粋で、優しい子たちだったのであろう。しかし、冷戦状態が感情までもを悪化させたのだ。


するとバハムート・スカーレットがラディウスに近づいた。

ラディウスは応戦する姿勢を見せるも、相手の機械龍は何もしなかった。

レミリアとフランはバハムート・スカーレットに帰還命令を下すと、レミリアは頬を真っ赤に染めながら言い出した。


「……私が、ハルバード女王を説得してみる。……だから、私たちもついて行くわ。

―――でも、流石に相手は私たちの仲間、武器を向ける事は出来ない。ただ、両国との架け橋には為って見せるわ」


◆◆◆


バハムート・スカーレットは水平線の彼方に消えた。

当初の目的であった石油パイプ破壊が、罪の無い無辜むこのハルバードの民にどれだけの被害を出すのか、彼は理解した。そして、改めて行き先を変更した。

其れに際して、誰も文句を言わなかった。レミリアとフランは今まで持っていた、彼らへの敵対心を完全に消して、似而非な平和ではなく新たな平和への秩序を織り成そうという希望を持っていた。


ラディウスはそのままハルバード市街地へと向かう。

そして、こいしが携帯で繋がっていた相手がいる場所―――そこへ向かう。

彼女から目的の真髄を……聞き出すために。


「―――――ラディウス!次はハルバード考古学研究所へ行け!」

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