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41章 兵器ラディウスの檻

ジェネシスたちはそのまま駅のホームに上っては、FBIの救護を受けた。

戦闘に立ち会ったジェネシスと慧音は多少の掠り傷は被ってはいたものの、動く分に大差は無かった。

すると彼らの前に見覚えのある顔が姿を見せる。……小町だ。


「ジェネシスさんに慧音さん!よく列車を止めてくれたね!このままだと列車は終着駅で衝突事故を起こすところだったよ!………危ない危ない」


駅の構内は電車の暴走事故の所為で人が溢れかえっている。

小町は安堵を見せると、何人かのFBIを連れては彼らに話しかけた。


「まあ、今FBIの車が来てるので乗ってください。…きっと此処まで来たって事は、何か訳があるでしょうし、ね」


◆◆◆


彼女が運転する車に乗せられた一行は、そのまま総合参謀本部へと向かった。

駅近くに停めてあった車に乗りこんでは、空襲の被害に遭った市街地の景色がまじまじと映る。

これでもか、と言う程残酷に牙を剥く情景。彼は目を覆いたくなった思いであった。


「…全て、ハルバードがやったのね」


「そうですね。…派手にやってくれたものですよ。…もう、怒りと言うより笑いが出てきますよ。

此処まで派手にやってくれたら、我々も強硬策に出かねませんからね」


車は空襲によって罅割れたコンクリートの道路の上を走る。

流石に空襲の中心となった市街地では車通りは少なく、人も少なく疎らである。

流石に空襲直後の現場を歩むのは普通の考えには至らない、その光景が普通なのであろう。


慧音たちは車の中で、その光景を見ては涙を流していた。

気が利いていたケット・シーがティッシュを持っていて、彼女たちに渡す。

鼻を啜る音が車の中に響く。車が市街地の奥へ進むと、空襲を受けて行方不明となっていた人々を捜索する部隊が瓦礫の除去作業を行っていた。

先ほどの誰もいない無人地帯は全員救出したのか、死亡したのか白黒が付いたのだろう。


「…こんなことをやって………赦されると思ってるのかしら」


パチュリーは鼻を真っ赤に染めながら、自身の怒りを露にした。

血を流しながら地に伏せる者達に向かって手向けられる黙祷。悲しみも、いずれはその場で起こる。

永遠の流れに乗っている以上、やはり今回のような悲劇を防ぐことは出来ないのであろうか?

人は過ちを繰り返す。所詮、生き物である以上……争いは永遠に続くものなのだろうか?


―――――彼は分からなかった。

が、窓から見える景色に瞋恚を感じ、そして絶望した。

小町も、そんなジェネシスたちの気持ちを汲み取ってか、無言を貫いていた。

静かな車内に聞こえていたのは、車の走行音とタイヤと道路の摩擦音だけであった。


やがて車のフロントガラスからは総合参謀本部の建物が見えてくる。

幸いな事に、高層建てビルである総合参謀本部は空襲の被害を受けていなかった。

そのままフィラデルフィア総合参謀本部の駐車場となる地下立体駐車場へ入っていく。

明るかった景色も薄暗くなっては、オレンジ色の電灯の下で車は走る。

決められた番号が振られた駐車スペースに車を停車させると、4人は降り立った。

外は焼け焦げた匂いがすると同時に、職員の叫び声が聞こえる。……人の救出であろう。

ジェネシスも最初の目的である救出に参加する為、急いで向かおうとするが小町に服の裾を掴まれてしまう。


「…何故止める!?」


「ジェネシスさんの気持ちは分かりますよ。でも、今は貴方たちにしか頼めないミッションがあるんですよ」


◆◆◆


総合参謀本部の中は極めて喧噪的で、やはり空襲の件もあるだろう、国民からの対応に追われていた。

引っ切り無しに音が鳴るコールセンターの電話。其れを尻目に、彼らは小町の案内の元進んでいく。


「…何を頼むのよ、私たちに」


「まあまあ。………ミッション、って言っても本当にミッションかどうか、あやふやですがね」


彼女は多少の笑みを浮かべていた。

どうして笑えるのか、ジェネシスには理解出来なかった。この大惨事の中、笑える要素は何処にも無い。

………枢要である此処がフィラデルフィアの最後の砦みたいなものである。其処に努める彼女だからこそ、笑える余裕があったのか。


一行はそのまま敷かれたカーペットの上を行く。相変わらず喧噪的で、耳を塞ぎたくなるほどだ忙しい。

そして奥に見えた、淋しく存在していた部屋―――其処こそがまさに、以前訪れた大統領室であった。

木目調のドアを小町が開くと、彼らの視界に回転椅子に座った彼女の姿が映し出される。

相変わらず小町はマイペースであり、厳かなアトモスフィアを易とも簡単に打ち破ってしまう。


「あっ!呼んで参りました~!」


「こらこら、多少は落ち着きを持ちなさい。…今、国民は懺悔の雨に暮れているのですから」


「す、すみません………」


諭された小町は顔を下げ、反省の色合いを見せる。

回転椅子を回転させ、大統領はジェネシスたちと顔を合わせた。そして、深々と頭を下げたのであった。


「…色々、危険な目に遭わせた事は悪く思っております」


「……いや、別に私たちは…。…其れに、ハルバード軍と戦うのはこっちの都合も多少、存在しますし…」


ジェネシスはそう話すと、大統領は手招きをした。

すると新たに人が加わった。スーツ服を纏って、緑色の髪の毛を靡かせている。

……以前、ケット・シーと出会った際に話した、四季映姫であった。


「…またお会いしましたね、皆さん。…まあ、今回も頼みたいことがあってきたんですよ」


すると大統領は一枚の書類を、一番前にいたジェネシスに差しだした。

空気抵抗を受け、真直ぐには伸びずにふにゃふにゃと圧し折れる書類。彼は其れを受け取った。

其処には今度、自らが受けられようとしているミッション内容が記されていた。

それは―――――


――――――――――『ハルバード制圧』。



その書類に刻まれていた内容に、彼は呻った。

確かにハルバード王国はこの国を滅ぼそうとしている、だが向こうも戦争を好まない人々は沢山いるはずだ。そう考えると、残虐な処刑者になるよう言われても、躊躇せざるを得なかった。

パチュリーや慧音たちも、彼が受け取った書類を覗き見するが、内容に唖然としてしまう。


「…私たちに、コレを…」


彼は書類に目を通してから、静かにそう発言した。

戸惑いの色を見せ、書類を出して来た彼女たちを再度見返す。

しかし映姫も永琳も、また小町もあっけからんとしていて、何の変哲もないようであった。


「…そうです。…ジェネシス、貴方には…辛いかも知れないけど、行って欲しいんです。

―――――勿論、私たちが持つ最終兵器をお譲りします。……バハムート・ラディウスです」


その言葉を聞いた時、彼は更に迷った。

果たしてラディウスを貰い受けてまで、ハルバードを殲滅することが真なる平和と言えるのか。

確かに手を出して来たのは向こうであるが、やはり狼狽してしまう。


「…ジェネシス。貴方は…どうするのよ」


慧音にそう聞かれた時、彼は本当に迷っていた。

大統領室の中、彼は静かに悩んでいた。思考回路、海馬の全てをフル稼働させているような気分であった。

閃光が脳裏に迸る。光ファイバーのように、全ての神経に考えを通らせては結果を導きだそうとしていた。


彼は悩んだ。

両手を頭に押し当てて、何が此の場での回答がベストなのか、必死に考えた。

狂いそうになった。朧げにも、視界は渦を巻いてるような錯覚に陥っていた。

パチュリーが悩む彼を諭すように肩をくっつけては、彼の耳元で小さくささやいた。


「…貴方の好きな方にするといいわ。どっちにしても、私は貴方について行くわ」


その言葉1つで、彼は身が軽くなれたような気がした。

書類に刻まれた、文字の羅列。彼は再び読み直すと、書類を映姫に返却した。

映姫はそんなジェネシスの突発的な行動に驚いていたが、彼は静かに……頷いて見せたのであった。


「…分かりました。行きましょう」


◆◆◆


―――――総合参謀本部、屋上。

風が吹き荒れ、下界には凄惨な光景が広がっている。…空襲の遺した傷痕である。

彼は怒りに震えながらも、屋上で停泊している存在―――バハムート・ラディウスを見据えた。

以前、ハルバード刑務所から脱出した際に用いたが、相変わらず銀翼が勇ましく輝いている。


マター博士も、慧音も、ケット・シーも、パチュリーも……全員が彼について行く意思を見せていた。

彼女らは彼の下した決断を全く恨んではいなかった。寧ろ清々してるようであった。

此れから始まる長い旅……そして、彼らを裏切った存在―――こいしの真実を確かめに。


「…行こう、私たちの旅はこれから始まるんだ」


◆◆◆


バハムート・ラディウスが飛び去った際、見送りをしていた3人は視界から機械龍が消えると手を振るのを止めた。大統領は何処までも続く水平線を、限りない戦争に見立てては世界の行方を案じていた。

表情を歪ませては、今フィラデルフィアに起こっている事件の1つ1つを対策する為、頭の中で練っていたのだ。


「…大統領。ジェネシスさん達には……何を期待するのですか」


映姫の質問に、彼女はすぐ答えた。

既に質問されるのを未来予知してたかのように、瞬発的に答えたのだ。


「…そうね、何も期待して無いわ。…逆を言うと、全てに期待しているわ」


◆◆◆


バハムート・ラディウスは市街地上空を飛空していた。

思えばジェネシスは飛行機恐怖症であったが、何故かバハムート種には乗れている。

……これは一種の慣れであろうか。彼は大剣を背に、遠くを刻む、青々とした線を見据えていた。

真上では何も知らないような太陽が、彼らを暖かな光で照らしている。

するとケット・シーがジェネシスの肩に乗っては、彼に向かって話しかけた。


「…ワイらはこれから、一体何をするんや…。

―――何も未来が見えないんや。こいしはんに裏切られ、町はあのザマや。

………ラディウスを貰い受けたはええけど、もう何をすべきか…」


「―――先ずはハルバード王国が建設した石油パイプの破壊じゃな」


マター博士がケット・シーの質問に答えるかのように発言した。

確かに、ハルバード王国の経済を支えている石油パイプを破壊すれば、向こうの資源は無に等しくなる状態に陥る事は明白だ。

資源枯渇に陥ったハルバードはやがて戦争状態の中、経済衰退を果たす目に遭うだろう。

そうすればリーマンショック並の経済混乱…もとい暗い日曜日も、起こる可能性が充分にあり得るのだ。


「…石油パイプ、ですか」


「そうじゃ。そうすれば向こうはいずれ経済破綻する。其処が狙い目じゃな」


「…其れがいいわね。…マター博士の言うとおりに従って、先ずは資源を破壊しましょう」


パチュリーも、彼の意見に賛同を示した。

慧音も頭を縦に振り、ジェネシスは先ずやるべきことを見い出した。

遠くでは太陽の下、巨大な銀色の筒が2本、延々と伸びている。…それこそが両国の仲を嫌悪に陥らせた元凶であった。

ジェネシスはラディウスを操縦し、軌道変更をしては筒へと向かう。

しかし、バハムート・ラディウスの前に立ち塞がったのは、もう1つの機械龍であった。


「…お久しぶり。…ジェネシス」

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