3章 いきなりやってきた刺客
熱帯雨林の中に整備された高速道路を白塗りのGT-Rは疾走する。
エンジン音は響かず、静かなドライブがそこには存在していた。
ハンドルを握り、青々とした自然を視界に映していた彼は助手席で寝ているこいしの姿をフロントミラーで確認した。
やはり、寝顔は可愛かった。…勿論、手を出したら犯罪だが。
慧音から渡された、銃と大剣を合体させたブレイズバリスタは運転席の横に、いつでも取れるように置かれている。
やがて視界が開けると、其処には大きなビル街…フィラデルフィアの中心街が見える。
高層ビルを何棟も連ねた外観は、熱帯雨林の中で基本的に過ごす考古学者の彼としては新鮮にも思えた。
メーターは90を超えていた。白線は既に一直線化しており、だんだん対向車も増えていく。
すると何時もは点けっぱなしにしていた車内ラジオから、慧音の声が響き渡る。
緊急事態用に、ラジオで音声連絡を取れるよう設定していたのだが、今まで使ったことは2、3回とその回数は少ないでいた。
そんなラジオを用いてまで、彼に伝えたいことがあるという訳である。
「ジェネシス!…奴らよ、奴らが来てるわ!」
「奴ら?」
「特殊部隊よ。…ハルバード王国の特殊部隊の一部がジェネシスを狙ってるわ!
…FBIからの連絡で、確実に存在が確認されてるわ!
―――こいしがもし寝てるなら、すぐに起こしなさい!…運転しながら戦うのよ!」
すると大きなエンジン音を立てて疾走するバイクが、わざとなのか白塗りのGT-Rと並走した。
運転席側に現れたバイクに乗っていたのは、スーツ服を着た、金髪の女性であった。
すると窓ガラスを隔てて向こうから彼女は拳銃の銃口を向けたのだ。
其れを知って彼は急いでこいしを起床させ、今置かれている境遇を急いで説明する。
「―――って訳なんだ」
「えー!?じゃあ戦わなくちゃ!」
何処か棒読みな気がした彼女であったが、彼女は貰った二丁銃を構え、後ろの席に移動した。
窓ガラスを開け、並走するバイクの運転手の思惑を彼は尋ねた。
「何が目的だ!…お前はハルバード王国の特殊部隊か!?」
「そうだ。…私はジェネシス…お前を拉致する為に此処へ来た。
―――大人しく車を停めろ。…静かに私の言う事を聞け」
「お断りだ、何が目的かどうかは知らないが…私はお前たちの意思には乗らない!」
すぐにブレイズバリスタを右手で構えて見せる。左手だけで運転する片手運転状態は危険と言えど、こうするしか無いのだ。
一応、今走っている高速道路は基本的に直線であるのが功を奏している。
「…そうだ!こいしだって許さないぞー!」
「…こんな展開は最初から予測していた」
彼女は左耳に嵌っているイヤホンを当て、送られてくる指令を受け取る。
目の前にいる対象の拉致。すぐに取り掛かる為、運転しながら簡単な挨拶を交わす。
「―――こちら黒谷ヤマメ。…只今より対象との接触を行います」
◆◆◆
ヤマメはそのまま銃撃を行うが、彼はその大きな刀身で銃弾を防ぐ。
殺しに来ているのか、ヤマメは銃弾が尽きるまで連射を続ける。
その隙を窺ったこいしは構えた二丁銃でヤマメ目がけて穿とうとするが、彼女はそれに気づいてスピードを落とす。
ジェネシスは自身も対抗する為、ハンドルを巧みに操ってヤマメに近づこうとする。
他の車に気遣いながらも、ヤマメに至近距離で近づいてブレイズバリスタで斬りかかる。
しかし、彼女は見事な運転さばきで華麗に攻撃を躱してしまう。
「…なんだアイツ…運転を上手に熟してやがる!」
「…じゃあこいしに任せてー!」
こいしはヤマメを目がけて二丁銃で連射する。
しかし、彼女は防弾ジョッキを着ているのか、身体に当たっても狼狽すら見せない。
―――やはり直接攻撃しかないのだろう。
「…仕方ない!…こいし、ちゃんと掴まっておけよ!」
「な、何をするのジェネシスさん!?」
「一気に畳みかける!GT-Rは確かに愛車だが…死ぬぐらいなら構わない!」
彼はドリフトを行い、高速道路とタイヤとの摩擦音が響き渡る。
そのままヤマメの進行方向に対峙した形で車を移動させ、そのまま彼はアクセルを踏み切った。
―――彼女はジェネシスのふざけた行動に理解出来ないでいた。
「…は!?」
「このまま突っ込む!」
逆走している彼のGT-R。そのまま拳銃を構えたヤマメを彼は撥ねてしまう。
やはり重量ではバイクが車と比肩することは儘ならず、そのまま彼女は大きく空中を舞ってしまう。
巨大なクラッシュ音と共にバンパーが少し凹んだが、彼はそのままUターンをすると元の軌道に戻る。
自ら事故を引き起こした彼はフロントミラーでその状態を確認した。
ヤマメは高速道路上で横たわり、後ろでは渋滞を引き起こしている。
警察沙汰になりそうだが、既にFBIの許可が出てるから何とかなるはず…と言う謎の自信だけを持って。
「めんどくさい事になってしまったな…」
「地味に車が傷ついてるけどね」
「…そんなの何時か修理に出せば何とかなる。…修理費は慧音に話そう」
そのままバンパーが凹んだGT-Rは奥に見せる巨大な立体駐車場を持つ建物…フィラデルフィア国際空港を目指す。
そこからチャカ・リプカへ向かうのだが、やはり気は重たく感じたのは事実であった。




