38章 壊れた紙飛行機
彼らを乗せたバハムートは翼を靡かせては墜ち行く戦艦を尻目に、研究所へ向かった。
ジェネシスは熱帯雨林の中に墜ちていく戦艦を視界に映しては、この世の儚さを知ったような気がした。
炎と共に、戦艦を織り成していた欠片は雨のように降っていく。
天変地異かのように見える情景に、何処か此の現世の残酷さを知りながら…。
「…終わった、わね」
パチュリーも彼の元に寄っては、同じ景色を見つめている。
緑が生い茂る、機械も何も知らないような世界に炎は墜ちていった。
欠片の一つ一つには兵士の血とも思われるものが付着していたりと、生々しさも忘れない。
中には肉片が炎の凄まじい熱さでパーツと融合している、見るに堪えない物まで墜ちていく。
「…ああ。果たして此れが正義と言えるのかどうか…それは別だがな」
彼がそう静かに述べると、ゆっくりと息をついた。
風を切り、遠くにあるフィラデルフィア市街地を背景に…ジェネシスは空を見つめていた。
ぼんやりとした、綺麗な大空。雲がゆったりと、大海を航海する船のように浮いている。
「…それにしても、燐のアンドラメシス細胞が気になるわね…。
―――何も、攻撃を受けても自動的に修復してしまう…実験にしろ、恐ろしい力だわ」
慧音は燐のアンドラメシス細胞を危惧していた。
ハルバード王国が其の細胞を開発している段階だからこそ助かったが、常用化されればフィラデルフィアは敗北を免れない。…何せ、怪我を負っても死なないのだ。
溺死か、またまた再生不可能に陥れるほどギタギタに斬り刻むか。
………………どちらにしろ、厄介なことに変わりは無い。
「…アンドラメシス細胞…一体どういう仕組みなんだ?」
「向こうの最新技術を漏えいさせて貰える程、親切じゃないのよ」
慧音に諭されて、彼は溜息をついた。
これからも、ハルバード軍は自分たちの妨害をしてくるだろう。
…そう考えるだけで、疲弊感が募るのであった。肩の荷がいつもより重く感じるのも、また。
「…フン、これからが長そうだな」
◆◆◆
バハムートはそのまま考古学研究所の駐車場に着陸する。
風圧を起こしては、ゆっくりと土瀝青に足を付けて、翼を折り畳む。
背中に乗っていた彼らが降り立った時、バハムートはジェネシスの懐の中へと回帰していった。
サンプルが乗せられていたヘリコプター2台は無事に存在していた。
彼はハルバード軍の攻撃を喰らわずに済んだヘリコプターを視界の中に捉えては、安堵した。
改めて見た、自分たちの陣地に涙がふと出そうになった彼。気づかれないように手ですぐに拭う。
彼らの帰りは、多くの者に見届けられた。
考古学者たちやマター博士の拍手の中、慧音やパチュリー、こいしやケット・シーは嬉しそうにしながら祝福を受けていた。
しかしジェネシスは酷く居心地が悪かった。嬉しそうな彼女たちをン尻目に、すぐに自室へと向かう。
そんな彼に気づいたケット・シーは、去ろうとする彼の後ろをついていった。
◆◆◆
自室は何も荒らされていなく、懐かしい臭いが鼻につく。
机上に乗ってある、沢山の資料。見ただけで溜息が自然と出てしまう。
T-falを取り出しては、中に入っていた紅茶を飲む。…暖かな喉越しは、疲弊していた彼に素晴らしい感覚を与える。
ふと扉が開いたかと思えば、静かにやって来たのはケット・シーだ。
可愛らしく、回転いすに腰掛けていた彼の前にあった机に乗っては、彼の顔を覗き込むように話す。
何時もは陽気な猫だが、今は何処か辛辣そうであった。
「…ジェネシスはん。…人っちゅうのは、やはり何をするか分からない生物なんやで…」
彼はケット・シーが何を言ってるのか、全く分からないでいた。
人について猫が案じる理由も、どうして今更になって言い出すのか?彼は不思議であった。
「…どういうことだ」
「…今からワイが言う事は…全てホンマの話やで。…覚悟して聞いてな」
猫は話した。
ゆっくりと、静かに話された内容…それは短い時間でありながら、彼の中では何十分何時間と経過したような感覚であった。
心が動揺を隠せないでいた。…心の中に蟠りが出来たような気がして。
信じていた。…ただ、それだけであった。それだけであったのに、心が束縛されたような気がして…。
「…本当か」
「…ああ、せやで。…彼女がハルバード軍のさとりに対して電話で話してるの、聞いてもうたわ。
………悲しいかも知れないが、これが現実やで。…ジェネシスはん」




