37章 戦艦ノヴュアンデルの銀翼
遺跡内からサンプルを採取し、最低限必要なモノをヘリコプターに詰め込んだ。
2台のヘリコプターのうち、男性陣と女性陣で乗るヘリコプターを分け、そのまま遺跡から離陸した。
熱帯雨林の木々の中を巧みな操縦で躱し、そのまま大空へと舞い上がった。
さっきまでは鬱蒼とした空間にいて、雲すら視界に映らなかった為、開けた空を見た時、やはり嗚呼、と言ってしまう。普通なのに、普通じゃない気がしたのだ。
「…マター博士。空ってこんなにも美しいものなんですね」
「いつもは見慣れてる空も、見忘れていれば改めて其の美しさに気づくものじゃ。
人ってそう言う生き物じゃからの、常識の有難味が分からないからのう」
ヘリコプターは綺麗な大空を飛翔している。
対を為す、もう1台のヘリコプターでは窓に張り付くようにこいしとケット・シーが景色を眺めている。
パチュリーと慧音は揺れ動く機内の中で、操縦士が用意していたのであろうポッドの中の何かを飲んでいた。
きっと紅茶かコーヒーだろう。
ジェネシスとマター博士は静かに椅子に座りながら会話していた。
ヘリコプターの中にいた操縦士や助手は全て国からの派遣要員だ。機内にいた助手がそんな2人に飲み物と茶菓子を用意する。気が利く行動に軽く会釈を交わし、それぞれ手に取った。
ジェネシスは用意されたポッドの紅茶を飲む。味は安上がりで、其処ら辺の業務スーパーのものだな、と予測した。
「…エストネア3世に『お前、私の子供に似ているな』って言われた時、何故かこいしが焦っていたんですよね。…何で焦ったんでしょうかね?あたふたしていたような気がしたんですが…」
「気の所為じゃよ。…何でも気にしていたら駄目だ。軽い感情も大事じゃぞ」
マター博士の言う言葉に納得し、頷く彼。
しかし彼女の不思議な行動に考えてしまう。自分を笑うのではなく、何故焦ったのか。
何時もは天真爛漫な彼女が滅多に取らない仕草に、何処か不思議な感情を抱いて―――。
齷齪した気持ちは収まらず、彼の中で大蛇のように暴れ続ける。必死にマター博士の言葉で宥めようとするが、一度気になった事はどうも離れられないような気がして…。
ふと窓を見ると、向こう側のヘリコプター内で楽しく談笑している彼女がいた。
可愛げな帽子を被って、頭の上に猫を乗せて。パチュリーや慧音も楽しそうな表情を浮かべて。
落ち着いた雰囲気がジェネシスの乗る機内に対し、向こう側は楽し気な雰囲気である。
だが、どうも疑問は彼女の表情を歪ませてしまうのであった。
すると2人のいた空間に、突如緊急ニュース速報が入る。
焦った声の男性アナウンサーで、ラジオの為姿は見えないものの声の緩急で緊急事態だと分かった。
「…只今、フィラデルフィア諜報部は『ハルバード王国の空襲の可能性が高い』と発表しました!
諜報部によると、暗号解読で功績の高い四季映姫氏が空襲についての暗号を解読した模様です。
暗号には執行日については言及されておらず、空襲だけの情報しか分からない模様です。
フィラデルフィア国民の皆様方は空襲時の避難準備を事前に行うよう、申し上げます!
―――繰り返します!只今、フィラデルフィア諜報部は………」
急いで繰り返されたフレーズ。
其処にはフィラデルフィアに襲い掛かる恐怖がすぐそこに迫っていることを示していた。
ジェネシスは緊急ニュース速報を一フレーズだけ聞くと、溜息を一つ、ゆっくりと付いた。
「…戦争激化、か。…それにしてもエニグマの解読なんて凄いな、映姫」
「彼女は暗号解読のプロじゃからの。見抜けないものなんて無いと思うのう」
マター博士は笑って見せたが、ジェネシスはどうも晴れない顔であった。
ヘリコプターの操縦席からは、熱帯雨林の中で建つ考古学研究所が見えてきた。
プロペラ音は何時までも響き渡る。ポッドをもう一度手に取ると、彼は再び紅茶を口に含んだ。
刹那、操縦士が大きな声を上げたのであった。其れは狭い機内の中に何度も木霊して、彼らの鼓膜を何度も震わせる。
「た、大変です!奴らが…奴らが来ました!」
その時、窓ガラスを隔てた向こうの世界には銀色に輝く浮遊戦艦が現れたのだ。
大きさは800m程で、甲板も備え付けられている。ほぼ空母と変わらないが、空に浮かんでいるのだ。
甲板では2台のヘリコプターに呼びかけを行う兵士たちが集まっていた。その中でも中心に立っていたのは、赤い頭髪をした猫耳の彼女であった。
「我々はハルバード空軍だ!大人しくしろ!さもないと撃ち落とすぞ!
………ヘリコプターをこちらに引き渡せ!甲板に着陸させよ!」
どうやら向こうはヘリコプターにジェネシスたち考古学者が乗っていることを見抜いていたようであった。
このままでは確実に旧約水晶髑髏聖書は向こうの物になってしまう。
彼は背中の鞘に仕舞っていたブレイズバリスタを取り出しては、操縦士に言い放った。
「…ヘリコプターを戦艦の上に停泊させろ!
―――私たちが奴らを仕留める!何としてでも遺跡のサンプルは考古学研究所に届けろ!
…其れを向こうにも伝えるんだ!」
「はっ、了解!」
操縦士はジェネシスに言われた通りに向こうに伝える。
向こうの飛行機に乗っていた3人も了承したのか、スピーカー越しから「分かった」との連絡が入る。
2台のヘリコプターはそのまま甲板に着陸しようと見せかけて、戦艦の上を停泊していた。
彼はヘリコプター内にあった備品類の中から、爆破用のダイナマイトとライターを懐に忍ばせた。
「マター博士は危ないですから、先に帰っていてください!」
「じゃ、じゃがな…」
「こういうのは若い年齢じゃないと出来ませんよ?」
彼にそう言うと、扉を解き放っては一気に降下したジェネシス。
マター博士は彼に全てを託したかのような顔だちを浮かべては、そのままヘリコプターは飛び去った。
次いで女性陣も降下し、4人と1匹は合流を果たした。
「…ジェネシス、随分大胆な行動に出たわね。…そう言うの、嫌いじゃないわ」
「だったら尚更だ」
彼らは武器を構える。ケット・シーもこいしの肩の上で自身の拳銃を構えていた。
多くのハルバード空兵たちが銃器を構えては甲板の端にいる4人に向けた。
兵士たちの中に紛れて、スーツ服を着た女性…燐はそんな彼らに話しかけた。…憐れむように。
「…誤解を招いているようですが、私たちの目的は遺跡のサンプルではありません。
………目的は"貴方たち"、…いや、"貴方"と表現した方がいいですかね。……ジェネシス」
「…悪いね、どうも派手にやりたい気分なんだ。―――邪魔しないでくれ」
彼は大剣を携え、刀身を身近にある太陽の光に反射させた。
煌めく鋼の刀身。続いて3人も武器を構えては戦う姿勢をとる。反射して空兵たちも引き金に人差し指を持って行く。
燐は物騒な彼らにため息混じりの声を上げては、呆れる様子を示す。
「…純情じゃないですね。…素直に交渉に応じればいいものを。
……それに――――この戦艦、ノヴュアンデルに勝てるとでも?」
「交渉も何も言われて無いがな。…まあ、言われたところで首を横に振るだけだが」
彼は右手だけに大剣を持ち変え、左手をポケットに突っ込んだ。
無造作に動く懐。怪しそうな顔をした燐は右手を天に翳したと同時に声高らかに宣言した。
「……撃て!」
空兵たちは一斉に引き金を引こうとしたが、此処で慧音が行動に出た。
黒くて丸い、大きさは野球ボールくらいの物を燐に向かって投げつけると、閃光が解き放たれたのだ。
空兵たちは引き金を引いたが、瞬間的に視界を失った為に敵が見えず、銃弾は訳が分からない方向へ飛び交ったのだ。
隙を窺った4人はそのまま空兵たちの波を抜け、操縦室へ向かう。
「…閃光弾なんて、お手柄だな」
「どうも。…鏡を利用した爆発式閃光弾。…ヘリコプター内にあったわ」
4人はそのまま操縦室へ向かうが、ジェネシスは置き土産にダイナマイトを点火させた。
市販である安上がりなライターでダイナマイトを着火させては、甲板で閃光弾に戸惑う彼女たちに向かって投げつけたのだ。
しかし、燐だけは気づいたのか4人の方へ走って、ダイナマイトを躱そうとした。
刹那、ダイナマイトは派手にも甲板を爆破、その場にいた空兵たちは大空へと投げ出されてしまう。
多くの断末魔が響く中、甲板は浄土と化していたのだ。其処に誰も存在しなかったのである。
操縦室へと向かう為、機械室などを通っていく彼ら。
…この戦艦を操縦して、無事に元の研究所へ帰るつもりだったのだ。…乗っ取りである。
しかし、敵もそう甘くは無かった。
多くの空兵が消えたとは言え、まだ数があった。銃を携えた空兵たちが武装しながら行く先を妨げる。
厄介な相手ながらも、彼らは剣や電気ロッド、拳や拳銃で何とか撃退していく。
鮮やかに吹き荒れる血が鮮烈にも視界に残るが、気にしている暇など無いのだ。
戦艦は既にバランスを崩している。と言うのも、戦艦を浮かしている半重力体がダイナマイトによって破壊されたのだ。
半重力体は重力とは対を為す力であり、磁石で言うS極とS極、N極とN極のように相反するのだ。
其れが破壊されたことで重力に引っ張られ、甲板全体が落ちかけているのだ。
前方に傾く戦艦。滑りそうになるが、それでも彼らは進んでいった。
「…待ちな!其処までだ!」
此処で現れたのは…ハルバード軍の特殊部隊、火焔猫燐。
片手には拳銃を構え、もう片手には火炎放射器を持っては傾く船内の通路で対峙する。
…4人をまるで貫くような強い眼力で見据えながら。
「…悪いわ、待てる暇なんて無い」
慧音がそう言い捨てると、燐は更なる苛立ちを見せる。
クッ…と辛そうな顔をしながらも、今自分が置かれた状況を鑑みて、改めて怒りを募らせるのであった。
自らがこの戦艦の中では翹楚である以上……。
「…待てる暇がないなら、さっさと死ぬんだな!…行くぞ!」
◆◆◆
燐は一気に火炎放射器で4人に向かって放つ。
しかしすぐさま後退して火炎放射器の熱さを逃れようとする。燐はそんな彼らに近づいては火炎放射器の火焔を撒き散らした。
辺りに煙が舞う。4人はそれぞれ分かれ、燐は慧音とパチュリーを視界に捉えては狙っていた。
こいしとケット・シーは追加で来る空兵たちを相手していた。
「ジェネシスはん!ワイらは此処を食い止めるから…!」
「分かった!…任せるぞ!」
ジェネシスはその隙を窺っては一旦隠れ、回り道をして燐の背後へ移る。
彼の行動を見て理解した慧音とパチュリーは自らが囮になる作戦を選び、逃げ続けた。
熱さが襲い掛かろうとする。だが振り向きもせず、ジェネシスの攻撃を待っていた。
「このまま焼け死ぬんだな!ドブネズミが!」
「ブーメラン、お疲れでーす!」
背後からブレイズバリスタで一気に斬りかかったのはジェネシスだ。
しかし気づいたのか、火炎放射器を投げ捨てては近くにあった鉄骨で攻撃を防ぐ燐。
火炎放射器は投げ出された後も火炎を出し続け、無駄にも瓦斯が無くなって火炎を発さなくなったのだ。
火炎放射器を無意味に化させた事で近づきやすくなった2人は、彼の攻撃を受け止めていて背中ががらんどうの彼女に攻撃を叩き込もうと図る。
「さて、貴方がドブネズミであることを証明する番ね!」
「ドブネズミなら、大人しく死んでいなさい!」
ガントレットと電気ロッドの一撃が燐の背中に叩きつけられた。
攻撃を蒙った彼女は力が抜け、鉄骨を下に落としてしまう。その為、ジェネシスの大剣も追加攻撃として前面に受けてしまう。
突き抜けた刀身。右肩から左わき腹を結んだ一直線に入った大剣。
血が溢れる。綺麗なスーツ服姿が紅色に染まっては、何処か残酷にも……。
「…私は死なない」
燐の身体は不思議にも、斬られた跡が修復されていくかのように元に戻ったのだ。
非現実的な光景を前に、3人は呻ざるを得なかった。同時に狼狽の声も上げて。
武器を再び構えては、両手を大きく広げて傷の完全治癒を見せびらかす燐を睨み据えた。
「…どういう原理なんだ」
「…まあ、そう聞くなよ。…お前たちが予想してる以上に現実臭く、SFなんかでは無い。
―――"細胞の修復化"…アンドラメシス細胞だよ。一度斬られても、細胞が自動的に甦る」
自信の右手の腕を見せつけるかのような姿勢で、彼女はそう淡々と述べた。
アンドラメシス細胞…密かにハルバード王国が開発していたと聞く、再生可能な細胞である。
原理は遥か昔に開発されたiPS細胞と言う物を応用して作るものらしいが、考古学者である彼に分かるはずもなく。
「…随分、厄介なのね。…全員がアンドラメシス細胞、って訳では無いの?」
「…当たり前、だな。アンドラメシス細胞は開発段階、私は実験の動物に過ぎないって訳だ。
………此れも全て、靈夢様の命令なんでね。……先ずはその命を頂こうかな!」
右手で構えた拳銃の銃口を3人に向け、引き金を引いた彼女。
すぐさま3人は反射的に身を躱し、パチュリーは電気ロッドに電気を纏わせる。
慧音は銃弾の雨が吹き荒れる中、その拳を信じて彼女に殴り込む。しかし左手で受け止められてしまったのだ。
「…私の拳を受け止めるなんて、相当ね」
「自信を持つより、目の前の事象を心配しろ」
燐は彼女の顔に向けて拳銃を構えるが、パチュリーが電気ロッドで叩き込む。
しかし慧音を盾として、彼女は回避してしまう。攻撃を代わりに受けた慧音の悲鳴が響く。
パチュリーはすぐに彼女を心配するものの、燐は2人に向かって…まるで"絶好の機会"とも言うように引き金を引いた。
―――2人は、目を瞑った。
「―――――諦めるな!」
此処でジェネシスが大剣を盾に登場、右手で大剣を構え乍ら左手でアルカナを輝かせて。
銃弾の雨を耐えながらも、彼は大声で船内で宣言したのだ。
「…出てこい!バハムート!」
その瞬間、左手の掌が急激に光ったと同時に艦内に現れたのは龍だ。
巨大な翼を靡かせては、眼下にいた燐に矢のような鋭さの視線を向けて―――。
全てを飲みこむかのような、深紅の瞳を輝かせては、蒸気が溢れだしていた。
「―――バハムート!奴を"落とせ"!」
「……………了解、しました」
燐に向けて放たれた、一筋の閃光。
其れは全てを爆破させるが如く、空中に浮遊していた戦艦を一気に崩壊させる。
燐は投げ出された。暴風が吹き荒れる上空で、アンドラメシス細胞を受け持つ彼女は、微笑みを浮かべながら―――。
「…行け!戦艦ノヴュアンデル!奴らを吹き飛ばせ!」
◆◆◆
空中戦艦を構成していた機械や部品の一部はバハムートの灼熱で一気に溶け、その中にジェネシスたちも飲みこまれそうになる。
しかし、バハムートの背中に乗って何とか落下は免れることは出来た。
続いて雑魚散らしを行っていたこいしとケット・シーも落ちてくるが、バハムートは自ら彼女の元まで飛び、背中に乗せる。
落ちた際、ジェネシスが彼女を受け止めた。…受け止め方はお姫様抱っこのような形であったが。
「…パチュリーはん、悔しがるな」
「悔しがってなんか…ないわよ」
こいしはすぐに降り立ち、パチュリーも不貞腐れた顔をすぐに表から消した。
バハムートの上は風が吹き荒れるが、つべこべ言ってる暇は無い。
最後に燐はリモコンを取り出しては、戦艦に向かってAI操縦を行うよう設定していたのだ。
バハムートは一旦離れ、戦艦を見下ろす位置まで飛ぶ。
半欠け状態の空中戦艦にいた兵士たちは全員投げ出され、中は無人となっている。
目の前を飛ぶバハムートに乗っていた4人を敵視したのか、自動的に装着されていた大砲などの口を向けてきたのだ。
「…此れが戦艦ノヴュアンデル……」
「置き土産、ね。甲板をダイナマイトで爆破されて、一部をバハムートにやられても尚…抗うのね」
4人は武器を構えた。
バハムートの背中の上で、未知なる存在―――戦艦と今、戦うのだ。
◆◆◆
ノヴュアンデルはバハムート目がけて一気に大砲だのマシンガンだの装着された最大限の武器をフル活用し、空中を舞う龍に向けて射落とさんと狙う。
しかしバハムートはそんな戦艦のAIを見切っていたのか、華麗にも4人を乗せては隙を窺っていた。
「…まさか戦艦と戦う事になるなんてね~。こいし、全く想像もつかないよ」
「―――――『事実は小説よりも奇なり』。…英国の詩人、バイロンの言葉だ。それぐらい知ってるだろう」
彼女は静かに頷いて見せると、彼は反応して口元に笑みを浮かべた。
龍の背中の上は風圧が凄いが、彼らに向けられる風圧は何かの力で軽減され、立てる程であった。
よく見てみると、アルカナが入っている彼の懐が光っていた。…そんな非科学的な現象に感謝しながらも、彼らは戦艦と戦う。
ジェネシスは武器を構え、再び選管に降り立った。
次いでパチュリーと慧音が降り立ち、こいしとケット・シーはバハムートの上に残る。
3人に対しても向けられる武器。しかし、慧音は笑っていた。…余裕そうに。
「…これは…余裕だね」
慧音は一気に走り去ると、動く対象物に気を取られるAI。
戦艦は中を駆け抜ける彼女を完全に対象に捉え、その間に2人は戦艦の枢軸部分を捜す。
―――――さっきは燐との戦闘で赴けなかった操縦室へ向かったのだ。
しかし通路に入った瞬間、AIが作動して2人に銃弾が放たれる。
一旦は回避したものの、2人は慧音のことも考えると早々の決断を強いられた。
「…怪我、するなよ」
「…ええ。分かってるわ」
2人は通路へと突入し、銃弾が吹き矢のように飛び交う中、一気に奥へと潜り抜けた。
無機質な空間を通って、バハムートの爆炎で穿たれた巨大な穴を尻目に進む。
半重力体も破損の所為でバランスが保てない戦艦は斜めに傾いたり、横に傾いたりと予断を許さない。
しかし2人は無理やりにでも突き抜け、一気に操縦室へ足を急がせた。
外ではバハムートが、中では慧音が自動AIの囮となっている。
流石の慧音も疲弊が溜まり、足の動きが鈍くなっていく。しかし、抜かりは禁物だ。
空中回転回避など、身体能力を生かした技で銃弾を避け切っていく彼女。だが、辛いのも事実であった。
…早く、どうにかしてくれ。その思いを2人に向けて抱いていた。
ジェネシスたちは銃弾を潜り、そのまま操縦室へ着いた。
暴れ狂う戦艦を止める為、ジェネシスは急いで"緊急停止ボタン"を見つけlすぐさま指の腹を押し付けた。
カチッ、といい響きが聞こえた。…その瞬間、AIは止まったのであった。
同時に半重力体も止まり、浮遊していた戦艦は事実上の落下となる。
「だ、脱出よ!」
「分かってる!」
2人は揺れる戦艦の中、外への脱出を図ろうとする。
しかし相次いで機械の爆発が発生、2人も例外では無かった。…パチュリーが倒壊して倒れた機械に挟まれたのだ。
通路で伏せるように倒れる彼女。上には重たそうな機械が圧し掛かっている。
「…じぇ、ジェネシス!このままだと……」
「…だから何だ!私の命など…この腐った世界に対して熨斗をつけてやる!」
すぐさま機械を退かし、倒れる彼女に右手を差し伸べる彼。
艦内は揺れて、徐々に崩壊を始めていたが…その時だけ、彼の顔が視界に映った時―――時が止まったような気がしたのだ。
自らの為に命を投げ捨てる覚悟を、彼は持っていた。…なら、自らも期待に応えねば。
しっかりと、彼の右手を掴んでは立ち上がった彼女。
埃を払うと、彼に感謝の気持ちを心から伝えた。
「………ありがとう」
「…お前が私に言うなんて、明日は天変地異か?…まあいい、脱出するぞ!」
彼の相変わらずな答えにムッとしながらも、何時もの本調子に笑みを浮かべた。
燐と戦い、大穴が開いた場所の真下で、こいしとケット・シー、其れに慧音がバハムートに乗って待機していた。…後は2人だけだ。
「早く脱出するよ!」
「ああ!」
◆◆◆
2人は大穴からバハムートに乗り込み、そのまま龍は全員を乗せて飛翔した。
その瞬間、戦艦ノヴュアンデルは空中で分離を開始、見事に綺麗な大爆発を空に飾った。
真下にある熱帯雨林の中に炎を纏ったパーツが落ちていくが、大体が空中抵抗で炎は消えていった。
龍はそのまま、マター博士や多くのサンプルが待つ考古学研究所へ向かった。
その日も尚、太陽は全てを遍くように暖かい。彼は大剣を背に、疲弊と共にこれからの自分、そして国の行く末を案じ続けていた。
パチュリーはそんな彼に何処か惹かれながらも、フフッ、と静かな笑みを浮かべて見せていた。




