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35章 喚び出されし者:バハムート・エストネアⅢ

祭壇の奥に開けた、遺跡の深淵。

彼らは躊躇うことなく、その中へ足を踏み入れた。厳かな雰囲気と共に暗闇の通路は何処となく神聖な雰囲気を漂わせていた。

何物をも排除しそうな威圧感が彼らの身に襲い掛かる。心情では不安定に陥るものの、その身に対しては何も起こっていない。…恐怖だけで今更、踵を返すのは馬鹿馬鹿しい話である。

ジェネシスは通路の中を突き進んでいく。周りの壁にはびっしりと表面積を余すことなく絵が描かれている。

彼はそれらの絵を1つ1つ見ていくように、ゆっくりと進む。懐中電灯の光が壁に刺され、全体を余すことなく照らして…。


「…ホントに此処は凄い場所なのね。…どうして今まで発見されなかったのかしら」


「フィラデルフィアの熱帯雨林は一度入ったら出られないって話も曾てはあったからな。

日本って言う国の中にある樹海みたいなものだ。…熱帯雨林そのものを自然保護してると言う理由もある上、そう言う昔話も重なるとやはり入る輩なんて無に等しいだろう」


慧音の問いに対して、彼の言う事も一理、存在していた。

と言うのも、鬱蒼としていては出口が全く分からないような熱帯雨林に入っても、何の意味も見いだせないからである。…確かに資源は豊富に存在している。しかし、総合参謀本部が黙ってはいないだろう。

自然保護と伴って、昔から伝わっていた話も相俟って…やはり誰も熱帯雨林なんかに近づかないのだろう。


通路を只管ひたすら進んでいくと、再び広い空間に出る。

祭壇のあった空間よりは3倍程であろうか、暗闇ながらも広々とした場所に来たことだけは分かった。

一行が其処へ訪れた時、不思議な事に照明が灯ったのだ。…空間の天井には蛍光灯が設置されていたのだ。


「…け、蛍光灯!?」


「ど、どういうことじゃ…!?」


一行は蛍光灯の存在に呻ざるを得なかった。

何せ、祭壇によって隠された道の奥に佇む空間に、近代科学の技術が施されていたのだから。

心臓を射貫かれたかのように驚き、そして戸惑うジェネシスたち。セオレム文明の神秘に対して考えていたのである。


刹那であろうか、ジェネシスが持っていたアルカナが懐で輝いたと同時に天井の蛍光灯のブレーカーが落ちたのか、電流が辺りに迸ったと同時に照明が落ちたのだ。

光り輝くアルカナが空間の唯一の光源となっては、凄まじい光を放ってたのだ。そして光は一行を覆い尽くした…。


「ま、眩しいッ!」


咄嗟に目を瞑って、眩しい光を回避する一行。

ケット・シーは肩に乗っていたこいしの背中に顔を押し付けるように光を回避している。

全員は手で目を隠すなどして、アルカナの急激な輝きを避けた―――。


………その時であった。ジェネシスがゆっくりと目を開けると、其処には機械で出来あがった龍が翼を靡かせて、其処に存在していたのだ。口から蒸気を漏らしては、電流を纏わせて―――。

蛍光灯の光は戻り、明るくなった空間に御座するは、悍ましき存在―――。


「…私は此処を守りし守護者…バハムート・エストネア3だ。

此処までやって来れる人間がいるとは…感服した。これならエストネア3世様に会える顔だちだ」


機械音声で語る機械龍に、彼らは少し困惑した。

が、認めてくれたことに対してはやはり嬉しいのであった。


「…わしらを認めてくれるのかのう?」


「…会える顔だち、とは述べた。だが認めたとは何一つ言っていまい」


バハムートは眼下に存在していたジェネシスたちに向かって、自身に備え付けられた銃器を一斉に向けた。

マシンガンや拳銃、バズーカなど武器の種類は多種多様だ。それらが一斉に向けられたのである。

どれも蒸気を零しては、勇ましさを感じさせるものであった。


「…ならば勝って見せよ!…この私に!」


―――そう、声が空間に呼応した時である。

バハムートの声と同時にジェネシスのアルカナが再び光っては、彼らの目の前に現れたのは同じ龍であった。しかし機械で作られた訳では無く、しっかりとした逆鱗が目立つ生き物であった。

エストネア3と同様、蒸気を口から漏らしては堅牢な身体で其処に存在していたのである。


「…お、お前は…」


「私はお前に呼ばれし存在…バハムートだ。…その結晶は私の意思が込められしアルカナ。

―――持ち主のお前に対し、私は帰依きえしたのだ。…お前の力になろう」


「…フン、上等だな」


彼はアルカナに込められた力が具体化したことに際し、薄笑いを浮かべて見せた。

科学では証明出来ないような事かも知れないが、蛍光灯が付いている遺跡を見つけた以上、どうでもよく思えてきたのだ。

史実に基づき、過去を見出すことが考古学者の役目。過去がどうなっているかなんて、常識は其処には関係ないのだから。寧ろ、今まで非常識だと思っていたことが常識になり得る可能性も充分にあり得るのだから…。


「…アルカナにはこんな力が込められていたの…凄い…」


こいしはバハムートの姿を見ては驚愕していた。其れは他の全員もそうであった。

2体の龍が同じ空間の中で佇んでいるのだ。見慣れない非現実的な光景に、動揺を隠せないでいた。

ジェネシスは自らに帰依したと告白するバハムートの身体に触れた。右手の掌がその逆鱗に触れた時、暖かな温もり…哺乳類のような暖かさが宿る。龍はどうやら恒温動物であるらしい。


「…どうやら仲間が1人…いや、1"匹"増えてしまったみたいだな。

―――――行くぞ!お前に私たちの力を見せてやる!…覚悟しろ!バハムート・エストネア3!」


◆◆◆


ジェネシスはすぐさま背中の鞘に納刀されていた大剣を抜刀すると、右手で重い大剣を携えた。

続いてパチュリーも電気ロッドを構え、2人は戦線の前線に立った。


「…他の全員はエストネア3に攻撃してくれ!私たちは奴の気を惹かせる!」


「「「分かった!」」」


2人はすぐさま敵に向かって走り、エストネア3に敢えて狙われるような立ち位置で走る。

案の定、機械龍は2人を焼き尽くさんと灼熱のブレスを口から吐き出すが、華麗にも2人は攻撃を躱す。

俊敏な身の熟しに機械龍もターゲットに定めたのか、集中的に狙い始めたのだ。

これを受けて、作戦通りに執行するために他メンバーは動き始めた。


「今のうちに攻撃じゃな!」


マター博士は高齢ながらも、ジェネシスのアルカナが呼び出した龍の背中に乗る。

空間の中を一気に飛翔し、マター博士はまるで乗り物を操縦しているかのようであった。

続いてこいしとケット・シーは銃器で一気に戦闘へ持ち込んだのであった。


「私たちだって負けてはいられないんだから!」


「せやで!ワイらだって強いんや!舐めたらあかんで!」


マター博士の操縦していたバハムートは夢中になっていた機械龍に向かって炎を吐く。

背中に直撃した灼熱の塊は機械龍を唸らせ、電流を更に迸らせた。

狼狽えた隙を窺って、勇敢にもこいしとケット・シーは銃口を向けては射撃する。

意味がないかと思われがちだが、緻密なパーツで出来あがっているエストネア3の構造を削ぎ落とす事は、根本から破壊することと同じなのだ。


「…マター博士!ちょっと退いて!」


飛翔していたバハムートにジャンプしては乗り込んだ慧音。

そのまま奥で狼狽えていた機械龍に向かって、威勢よく飛び込んだのだ。

背中に着地し、暴れ狂う機械龍の背中を掴む姿は闘牛士を彷彿とさせるものであった。


乗られた機械龍は痒みの原因である慧音を振り落とそうと一層暴れ始める。

その隙を窺って、ジェネシスとパチュリーは囮役を一旦止めては武器を構える。叩き込むつもりだ。


「喰らえ!」


「そうよ!」


ジェネシスとパチュリーの声は空間の中で木霊したと同時に大剣は暴れ狂う機械龍に叩きつけられた。

2人の一撃はこいしとケット・シーの銃弾で剥がされては不安定なパーツ構造を陥っていた機械龍に巨大なダメージを与え、腹部部分が完全に崩壊した。

電流が爆発のように発生し、慧音はすぐさまマター博士が乗っているバハムートの背中に移った。

刹那、エストネア3は大爆発を起こし、其れと同時に天井の蛍光灯が爆発に巻き込まれては誘爆した。


◆◆◆


煙が空間の中に漂い、咳をする一行。

蛍光灯が爆発したことで空間内は一気に真っ暗になり、暗闇が回帰した。

爆発に際した煙幕が消えると、お互いの姿は朧げながらも輪郭だけ捉えられるようになった。

バハムートはその場に佇んでは、ジェネシスを見据えている。


「…倒した、のか」


すると辺りが急に光輝いたと同時に、バハムート・エストネア3のパーツの破片が集中的に散らばっていた箇所から光が漏れだしていた。

光の勢いはジェネシスのアルカナのように勢いよく、一行はその場へ近づいた。


代表してジェネシスが手袋を填めては瓦礫の中の光源を捜すと、アルカナの結晶と思われるものが5つ、綺麗にあったのである。

彼らは驚いた。こんなにも大量にアルカナが発見されるとは、誰も思ってもいなかったのだ。


「…アルカナ、じゃな…」


マター博士は光り輝く結晶を見ては、静かに述べた。

ジェネシスは右手で結晶を一掬いしてみると、やはり紛れも無いアルカナであると改めて再認識させられた。


「…アルカナにはそれぞれ別の意思が込められている。…私と同じようにな」


バハムートがそう述べた時、これらのアルカナにも同じような"意思"が存在すると彼らは考えた。

…閑静な中、ジェネシス以外の彼女たちは光輝くアルカナを1つ1つ拾っていく。

掌の中でも尚、アルカナは光を止まずに煌めいている。その情景は幻想に例えられるほどだ。


バハムートはジェネシスが持っていたアルカナに回帰する。

すると道が開き、更なる奥へ進めるようになっていた。緑色の光が中から煌めいている。


「…行こう、遺跡の最深部へ」


「…ええ。分かってるわ」


一行はエストネア3を倒して疲弊しながらも、更なる奥へ進んだ。

朧げな輪郭はそのまま深淵へと足を踏み入れる。一体何処へ繋がっているのか、好奇心を募らせて。

技術を持ちし古代文明の遺構。静かな佇まいとは裏腹に、驚きと発見に満ち溢れていたのである。

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