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2章 旅立ち

彼はそのまま彼女を連れ、一階の研究所長室へ向かった。

階段を淡々と降り、そのまま銀色の扉を開け、隔たれた室内へ足を踏み入れる。

回転椅子に座っていた所長は招いた客の方に顔を向け、立ち上がった。


「…来たのね、ジェネシス、こいし」


「…ご用件は何ですか、慧音さん」


上白沢慧音。フィラデルフィア国際考古学研究所の所長である存在だ。

青と白が混ざった髪の毛を靡かせ、彼女は机の上にラジオを置く。

呼び寄せた2人にそのラジオを聞かせるかのように…。


「…今からこのラジオを聞いてほしいのよ。…マター博士の件よ」


古煤けた、年季の入ったラジオ。

これは昔からこの国際考古学研究所に置かれていた物らしい。

彼女は物を大事に扱い、道具の買い替え需要も最低限のモノしか示さない。

未だにそのラジオには点灯を示す緑色のランプが点く。


ノイズが入っていながらも、慧音がお目当てのニュースが流れるのに時間は要さなかった。

女性アナウンサーの声が中から聞こえ渡る。2人はラジオに耳を傾けていた。

こいしは興味なさそうに所長室に設置された生け花をじっと観察している。

黄色い花びらを付けた花は彼女の興味を更にそそらせる物であった。


「…昨夜、フィラデルフィア総合参謀本部が国際考古学研究所に勤める、マター・ルフトシュピーゲルング国際名誉教授の正式な失踪を発表しました。

マター博士は先先月、国際考古学研究所を出発してから行方を消したと思われます。

FBI、フィラデルフィア連邦捜査局は捜索を開始しましたが、依然として見つかっておりません。

…では、次のニュースですが…」


一段落がついた場所で、慧音はラジオの電源を落とした。

そしてジェネシスに申し訳無さそうな顔をしたと同時に、両手の掌を合わせた。


「…お願いだ、マター博士の代わりにチャカ・リプカの調査を頼みたいんだ!」


「えっ…」


彼は戸惑った。

と言うのも、チャカ・リプカは未だに開発や採掘がされていない、言わば人類未踏の地だ。

その地に自分が中心として調査に赴くのは、やはり責任感を感じてしまう。


「…ジェネシス以外に頼れる奴はいないんだよ~。…なっ、頼むよ~お願いだからさ~」


彼の肩を揺さぶってお願いする慧音に、彼は仕方なく首を縦に振った。

まだ誰も踏み入れたことの無い遺構だからこそ、マター博士のような素晴らしい人が第一人者となるべきだったのに、どうも納得が行かないのも一つの所以であったが。


「…分かりました。…行けばいいんですね。

―――簡単な調査票とレポートを纏めて提出しますね。…でも、マター博士の捜索は?」


「それならFBIに任せれば大丈夫、ジェネシスは気を楽にして行っても大丈夫」


彼はため息を一つつくと、自分は扱われやすい存在であることをつくづく感じた。

はっきりと断れず、有耶無耶にしてしまう自分の感情が原因であることは分かっていたが、どうもその性格に自分自身も嫌っているようであった。


「…分かりました。…主に飛行機でフィラデルフィア国際空港から遺跡に最寄りのゼラ・マグヌス空港まで行けばいいんですね。…こいしも連れて行くんですか?」


「当たり前よ。…1人じゃ危ないわ。…最近はハルバード王国のスパイがこの町に忍び込んでるって聞いたしね。…ちゃんと武器も持って行った方がいいわ」


フィラデルフィアは首都国家だが、それに反してもう1つの国家が存在する。

其の名もハルバード王国。1人の王を中心として成り立つ国は、フィラデルフィアと敵対していたのだ。

主に石油の産出地である草原があるのだが、其処はフィラデルフィアの統轄地になっていた。

しかし、不法にハルバード王国がパイプラインを建造、今のような関係に至っている。

石油は産業を発展させる潤滑油であるが、石油の産出地を最初に発見したのはハルバード王国であった。

統轄主か、開発主かの2択で揉めていたが…そのスパイがいるとは到底、彼は考えられなかった。


「…武器、か。勿論こいしにも渡すんだろうな」


「当たり前じゃない。…はい、先ずは貴方ね。…これよ」


慧音は巨大な刀身と拳銃が一体化した大剣を彼に渡す。

柄の部分には引き金があり、其処を引くことで銃弾が放たれる仕組みのようであった。

決してガンブレードでは無く、2つの武器が合体したものであった。


「…これはブレイズバリスタ?」


「大正解よ。FBIでも最上級の役職員にしか与えられない武器よ。それを授けるわ」


「こいしにも頂戴!」


生け花に興味を無くした彼女は話を聞いていたのか、慧音の元に行く。

勿論こいしの為にも、しっかりと武器は用意されていた。…彼女は銀色に輝く二丁銃を手渡した。

銃身に描かれている獅子は勇ましく、獰猛に感じられた。


「うわー!これをこいしが使うのね!」


「こいしはまだまだ小さいし、此処に入ってきた新人さんだから遠距離攻撃を宜しく頼むわ。

―――ジェネシスは若いし、近距離でもいけるでしょ」


「おい、何で私だけそんな適当なあしらわれ方なんだ」


「大人でしょ? オ・ト・ナ?」


ジェネシスは大人である。これは不変の真理であった。

フィラデルフィア国際考古学研究所に入る年齢期限は18歳以上が基本となっている。

こいしは新人、大人と言われる境である20歳には未だに到達していないのが現状であった。


「…分かりました分かりました。行けばいいんですね、ハイハイ」


大剣を付属していた鞘に仕舞い、其れを背負う。

考古学博士にはあるまじき、剣士のような姿。やはり、どうも違和感を感じていた。

こいしも貰った二丁銃をポケットに仕舞い、部屋を出ようとしていた。

慧音から航空便の往復分のチケットを受け取り、軽い挨拶を告げた。


「…行ってきます」


「行ってらっしゃい」


その挨拶は至って普通の光景に思われた。

こいしもジェネシスの手を繋ぎ、平穏な一日が始まったように思えた。

駐車場に泊めてあるのは、愛車の日産GT-R。白のボディが太陽の光を受け、煌かせている。

2人は乗り込み、そのまま空港を目指した。

エンジン音を響かせ、熱帯雨林の中に作られた道路を疾走し、そのまま高速道路に乗り入れた。


―――しかし、これが冒険譚の始まりになろうとは、誰も想像がしなかったのだろう。

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