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27章 冷涼なる風を受けて

宵闇の中、彼の運転する車はインターチェンジから高速道路を降り、元の研究所へと向かう。

熱帯雨林の中に整備された道路。流石に郊外までとなると、対向車の光は輝かない。

GT-Rのヘッドライトだけが空しく輝き、鬱蒼とした木々を照らしていく。


やがて木々が失せては開けた空間に出る。

そして朧げに映る4つの棟で形成された近代的なコンクリートの建物―――そう、彼らは帰ってきたのだ。

彼はその建物を視界に映した時、何処となく安堵を覚えるものであった。

―――それも其の筈、彼は険しい道のりを突き進んできたのだから。


闇の中、ぼんやりと電灯が淋しく照らす駐車場。

多くの考古学者たちの車は既に消えており、ポツンと何台かが残されているだけであった。

彼は助手席の彼女を起こさないよう、静かに駐車する。

扉を開けて降り立つと、広々とした草原に吹き抜ける冷涼な風を全身で味わうことが出来た。


後ろの席で退屈そうにしていたこいしは待ってましたと言わんばかりに勢いよく降り立った。

彼女にも風は満遍なく吹く。彼女の薄緑色の髪の毛をさらさらに靡かせる。

彼は溜息を少しつくと、反対側に移っては扉を開けて、気持ちよさそうに寝ているパチュリーの肩を優しく叩く。

しかし彼女は寝息を立てて、レム睡眠に入っている。…もう少し早めに起こしておけば、と言う後悔と共に彼は彼女を強く揺さぶった。

振動に気づいてか、欠伸をしながら彼女は静かに瞑った目を開けていった。

彼女の視界の中に、ぼんやりとした彼の顔が大きく映し出される。


「…ん…?…ああ、ジェネシス…」


「着いたぞ。お前何時まで車で寝てるつもりだったんだ」


「…貴方の車の椅子、結構柔らかくて良かったわ」


そう適当に褒めると、彼女も続いて降り立った。

こいしは両手を広げて、身体一面に吹く風を受け止めている。

パチュリーはそんなこいしの右手を握って、考古学研究所へ歩いていった。こいしも又、そうであった。


ジェネシスは去っていく2人を尻目に、何もない宵闇の草原を見渡していた。

駐車所から一歩出れば、其処は未開発の地だ。何がいるか、何が住んでるのかすら不明だ。

何処かから鳥の鳴き声が聞こえる。其れは広々とした世界に木霊して―――。


彼はその時、この世の何かを悟ったような気がした。

漠然としたオーラの中、彼もまた、こいしのように両手を広げて…。

全身に行き当たる、居心地の良い風。GT-Rを背景に、彼はその風を静かに受けていた。


◆◆◆


彼も2人を追って研究所に戻る。

急に視界が明るくなり、中はやはり静かであった。そんな彼の帰りを待っていたのか、玄関先には慧音が存在していた。

彼の生存を目の当たりにして胸をなで下ろすかのように安心している。

大剣を背中の鞘に仕舞っていた彼の元に寄っては握手し、改めて彼の存在を確認していた。


「…流石はジェネシス、期待を裏切らないな」


「貴方の思う期待って何でしょうかねぇ…」


彼は慧音を適当にあしらい、自室へと向かう。

冷たい対応に彼女も焦り、自らの気持ちを分かってもらおうと奮闘した。


「で、でも!ジェネシスはよく頑張ってくれたし、何かお礼でもしよっかな~って」


「お礼は要らないから寝させて下さい」


彼がそう言うと、慧音は残念そうな顔をした。

そのまま階段を昇っていっては、慧音の視界から姿を消した。彼女には彼にとって、多少の罪悪感が存在していたのだ。

…人任せにしてしまったこと、マター博士捜索に於いてハルバード王国へ潜らせた際、相当な危険を被ったと耳にした。途中でこいしやマター博士出会えたのは良かったが、自身の罪滅ぼしの為にも、彼の何かの役に立ってあげたかったのだ。


「…何時か、ステーキでも奢ってあげよっ」


彼女は自分にそう言い聞かせると、靄靄とした心を突っ撥ねた。

…そうだ、まだやることはあるんだ。

心の転換を急いだと同時に、ジェネシスへの仄かな思いを抱いていた。

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