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23章 帰還

天井と言う空に映った、巨大な影。

其処から聞き覚えのある声が今、彼らの鼓膜を揺さぶらせた。

肩には折り畳み式の鎌を担ぎ、眼下にいたジェネシスたちを迎えるように―――。


「…こ、小町か」


「いやー、派手にやってくれたね。…まあ、戦時中のうちらからしたら称賛に値するけど。

噂では聞いてたけど、ハルバード秘密兵器をやっつけたんだって!?」


「ゼロミッションの事かねんな」


ケット・シーは予測を立ててそう発言するや、彼女は知ったかぶったような表情をした。

彼女もまた、ゼロミッションと同じ機械龍の背中に立っている。

これが、フィラデルフィアの"秘密兵器"と云う物なのだろうか。


「そ、そう。ゼロミッションの事ですよ。…其れをやっつけるなんて流石ですね!

…あ、今私が乗ってる、この機械龍は"バハムート・ラディウス"…私が以前言った"秘密兵器"の概要ですよ」


彼女はそう自信満々に述べた。

バハムート・ラディウス…其れはフィラデルフィアがハルバードに対抗する為に作られていた最終兵器でもあるものだ。ギャラクシュアスやゼロミッション同様、その目つきは勇ましく、仲間であるにも関わらず畏怖を抱いてしまう。


「…其れにマター博士が見つかって、ホントに良かったですよ~。

これで"今は"此処には用は無いので、帰りましょう!皆さんもラディウスに乗ってください!」


彼女はそう言うや、ラディウスを操っては着陸させる。

燃え盛る大地に降り立った機械龍。ちょっとした規模の粉塵を巻き起こして―――。


「懊悩してたって無意味ですよ!…さぁ、帰りましょう!」


◆◆◆


機械龍の上は無機質な空間を漂わせながらも、何処か安堵が存在していた。

エレベーターのように昇っていくラディウス。たった数十秒で彼らは既に青の中だ。

酸素が少なくなっているのが分かる。しかし、彼は考古学者―――高所に存在する遺跡の訪問などで、低酸素症には為り難い身体を事前に作り上げていた。


「…凄いや、私たち…空を飛翔してるみたい」


こいしはラディウスの上から眺められる景色に感銘を受けていた。

窮匱を見せぬような水平線。何処までも、それは続いていて―――。

緻密なパーツで出来あがった背中の上は確かに暴風が吹き荒れているが、ラディウスに設置された装置で風からは守られている。

その装置には暴風に対して人工的な強風を起こすことで相殺を図る意味合いがあるらしい。


快適にも、パチュリーとマター博士は小町が何故か持参していたトランプで遊んでいる。

今はスピードと言う遊びをしているようだ。お互いが真剣な眼差しと共に高速で手を動かす。


実を言えば、パチュリーは考古学研究所でもジェネシスにトランプ遊びを提案したりしている。

主に練習と言う意味合いだろうか?…しかし、彼に技量は無い。結果は一目瞭然だ。

マター博士がそんなパチュリーについていけるという一面を知って、彼は何処か驚きを得ていた。


ケット・シーとこいしは仲良く座っては眼下の景色を楽しんでいる。

こいしの上に座ったケット・シーの頭に当たる、仄かな膨らみ。其れに薄々気づいては笑みを浮かべていた猫。…やはりケット・シーはそう言う奴である。


彼は1人、ぽつんと取り残されていたような気がした。

バハムート・ラディウスはそれでも尚、遠くに何時か見えるであろうフィラデルフィアの街並みを目指す。

彼は考えた。…自分の所為で、何人もの無辜の民が死んだのか、を。

列車テロ事件も、刑務所暴動事件も、全ての犯人は自分だ。其れが祖国の正義でも、"良心"の受け持つ正義とは差異…異なりを生じていた。


この蟠りは自分自身の声偶擿裂では表現できないような、不思議な感覚であった。

「正義」と「良心」と言う2つの天秤が釣り合いそうで釣り合わぬ齟齬のような感覚。

彼は闚覦きゆしていた。この苦く、そして甘い変な感情が早々に消えてくれることを―――。


「…どうしたんですか?ジェネシスさんらしくありませんよ」


考えに更けていた彼の元にスキップしながらやって来たのは小町であった。

彼女自身の紅い髪を靡かせて、明るく振る舞う彼女の姿。


「…私"らしい"って一体どんな感じなのか」


「明るく、何時もヘンテコで馬鹿っぽくて後先も考えないような人!」


「…素直に傷ついた、訴訟きそ


彼はその場に座り込み、受けた言葉に含有していた意味を真に受け止めた。

変であった。馬鹿であった。…自身の行動が、他人にそうイメージづけていたことにショックを受けて。


「あー、嘘ですよ!嘘!冗談だって!

…あ、そういや空港に停めてあったGT-R、直しときましたよ。ちゃんと修理して、ね」


「おお、其れは良かった。…あのまま凹んだ儘じゃ困るしな」


彼は立ち上がると、彼女の右手の手の中に何かが光ってるのを気づいた。

其れは彼自身も持っている…そう、アルカナのようなものであった。


「…小町、それは…」


「…戦い中に拾ったものです…。…そういやFBIの研究で、この結晶に凄まじい力が込められている、と」


「既に経験した。…相手が其れで非科学的な雷鳴を起こし、其れを私のこれが防いだ。

…どうやら"クリスタル・スカル"と言う超常的な存在の分裂した姿らしいな」


彼はそう話すと、小町は自身が持っていた結晶を彼に握らせた。

空の青を受けて、より一層光り輝く。…そんな結晶に、彼は何処か美しさを感じていた。


「…ほら、見えてきましたよ。…フィラデルフィアの外観です」


小町が指を差した先…そこにあった、朧げに映るビル街。

見覚えのある建物が沢山並んでいる。…黒煙が立ち上っている点は戦争を直々に身近だと思わせた。

しかし、今まで戦争相手国のスパイとして派遣されていた彼にとって…帰還は歓喜のものであった。


「…帰ったら、静かに…国際空港のコーヒーショップに行きたいなぁ…」


そんな淡い願望を抱いて、彼は遠くを望む。

バハムート・ラディウスは飛翔していた。…何処までも罪の無い景色は、彼の感情を支えていた。

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