20章 シズマの憂欝
彼はこいしの案内でそのまま管理室へ赴いた。
その前に武器室へ赴き、自分の武器であるブレイズバリスタ、其れに加えてパチュリーの電気ロッドを入手する。奪われた武器の奪還に成功し、後は管理室で全てを解き放つだけであった―――。
薄暗い中に置かれた管理室。
鉄で出来た重たい扉を開けば、鈍い音がその場で響く。
中は沢山のモニターが置かれており、1人の女性がその場を取り仕切っていた。
回転椅子に座って事務を熟す彼女の視界に映った2人の影。其れは違和感以外の何物でも無く―――。
「…誰ですか」
回転椅子を回転させ、顔を見せる彼女。
背中に生やした悪魔のような翼が特徴的な、スーツ服姿の彼女は2人を睨み据えていた。
やって来た2人を不審者扱いするかのように―――。
胸にはネームプレートが付けられ、「小悪魔」とだけ書かれていた。
「…本来、此処は機械軍兵は立ち入り禁止です。…破った場合、殺害許可が下りますから」
暗黙の了解を破った2人に対し、大剣を構える彼女。
やはり機械軍兵では無い事を見抜いていた―――邪魔な被服を脱ぎ捨て、本来の姿を露わにした彼。
続いて彼女も脱ぎ捨てるや、すぐに武器を構えて戦う素振りを見せた。
「…機械軍兵以外ならいいんだな?」
「…脱走犯ですか。…何を企もうが企まいが、此処へ来たことが運の尽き。此処は管理室ですから」
「悪かったな、最初から此処へ来ること目当てで来たのさ」
ブレイズバリスタを両手で携え、目の前に存在せし敵を見据えた彼。
刀身の鋼鉄に部屋内の薄暗い蛍光灯の光を反射させて―――。
「…なら歓迎しましょう。…その紅を此処で八つ裂きにしてあげましょう!」
◆◆◆
大剣を大きく振りかぶった彼女に対し、慣れた手つきで対応する彼。
ブレイズバリスタで彼女の一撃を受け止め、金属音が室内に響き渡る。
「…貴方は愚かですね…何も分かっていない」
「その言葉…そっくりそのまま返すよ」
彼女の背中に向けて、取り出した2丁銃の銃口を向けては引き金を引くこいし。
それに気づいた彼女はすぐさま空中回転で回避し、銃弾を躱す。
その隙を窺って彼はブレイズバリスタを銃化し、相手に狙いを定めて連射する。
「…その大剣…銃機能も伴っていたのか…!」
「悪かったな。…だが、武器にも工夫が必要になった時代だからな?」
自身に向けて放たれる銃弾を躱しながらも、攻撃の隙を窺う彼女。
しかし、こいしはそんな彼女に向けて銃弾で猛攻を仕掛ける。反撃の余地は存在しなかったのだ。
「…クッ、これでも喰らえ!」
彼女は辛うじて懐から煙幕弾を取り出し、その場で一気に展開させる。
放たれた煙幕に視界を遮られ、対象を見失った2人は攻撃を止め、不安に煽られていた。
「…煙幕を使ってきたか…!」
彼は自らに迫りくる気配を察知し、すぐさま剣を構えた。
案の定、彼女は煙の中からジェネシスに向けて一撃を蒙ろうとしたが失敗し、その音にこいしは気づいたのだ。
「…見ぃつけた!」
◆◆◆
一発の銃声は煙幕の中を貫いて。
全てを引き裂いた弾は彼女の背と胸を結ぶ一直線上の穴を穿いて、そのまま姿を消し去った。
噴き出す紅。返り血を受けたジェネシスの大剣に微量ながらも血が付着する。
口からも血を溢れだしながら、そのまま地に身を堕とす彼女。
哀れにも地面に刺さった彼女の大剣が無寐の焦燥を醸し出している。現実的であって、非現実な。
「…この大剣をコイツの墓標としてやるか。…よくやったな、こいし」
「えへへ…そう言われると照れちゃうな…///」
頬を真っ赤に染めた彼女は彼の顔を見ては照れていた。
ジェネシスは沢山置かれたモニターを司る中央機械の前に置かれた回転椅子…今さっきまで彼女が座っていた椅子に座ってはボタンに示された表記を確認していく。
回転、C回路など訳の分からない事が書かれていく中、1つだけ「厳禁!」とシールが張られたボタンが存在していた。一際目立つ、小さな赤いボタン。
そのシールを剥がすと、其処には「牢獄全部屋解除」との文字があった。
確信した彼は勝ち誇ったような笑みと同時にそのボタンを威勢よく…押したのであった。
サイレンが鳴り響いた。其れと同時に唐突に開かれた鉄格子。
静かな刑務所内は混乱淀めく空間に変化し、喧噪的な世界に早変わりする。
地面に重く圧し掛かる足音はその証拠でもあって示唆でもある。
「…来たな、全部屋解除だ。…行くぞ」
「分かった!」
2人は大剣の墓標を前に颯爽と姿を消した。
喧噪的な世界へ変化した空間に足を踏み入れ、巨大な暴動を起こして―――。
「…フィラデルフィア大空襲だけは止めて見せる!…覚悟しろ!」




