19章 ⅨがⅨのⅨとなる時
その麗姿は飛行機墜落事件で乏しくなった存在であった。
彼女の顔を見ては確信し、同時に心が爆発するかのように喜びを仰いだ。
その時の表情に嘘はつけないでいた。心情も感情も、皆1つにして―――。
「こ、こいしか!生きていたのか!?」
「シー、声を大きくしたらバレちゃうよ。一先ずは此処を開けるね」
再び機械軍兵の服を纏い、持っていた鍵で彼の牢の鉄格子を開ける。
自由の身となれた彼は状況を察知し、その喜びの感情を心の中に押し殺した。
彼女はそんな彼に機械軍兵の服を渡す。何処から仕入れたのか、無造作に彼の胸元に投げるこいし。
いつも被っている帽子を深く被って―――。
「…あ、ありがとな。でも、どうやって―――」
「其れは気にしないで。…私が頑張って手に入れたんだから~。
…私ね、瓦礫の中に埋まってたけど助かったんだよ。…ジェネシスさんも助かってたって聞いて嬉しかったよ。また会える、ってね」
静かな微笑みを浮かべる彼女に対し、彼も笑みを口元に浮かべた。
彼女から貰い受けた服を纏い、もはや本来の彼とは見えないほど変装した状態になった。
「今から他のみんなを助ける為に捜しに行くよ。
―――噂によれば『パチュリー』さんに『ケット・シー』さん、そして『マター博士』だっけ?」
「そうだな。…じゃあ、早速行きますか。…でも…武器、取り上げられたなぁ」
「武器なら全部、武器庫に仕舞われてるよ。…大丈夫、廃棄とかされてないから」
彼女は不安を募らせる彼を安心させると、背伸びして冷たい回廊を進む。
そんな彼女の背を追いかけ、機械軍兵の振りをして歩みゆく。
通路の冷たい空気が肌に触れる。何処かに垂れた雨の雫の描いたコントラストは美しくも―――。
◆◆◆
「あ、そういや見廻り交代の時間が来ましたね!…今日はお2人ですか!
―――では、後は頼みます!」
「はい、分かりました!」
元々いた兵士との見廻りの番を引き継ぎ、やんわりと刑務所内に身を溶かした2人。
こいしは親指を上に立てて笑みを浮かべると、彼も同じ仕草をとった。
仲間が入れられた場所までは流石のこいしにも分からず、何処か捜して数分―――。
とある部屋の中で、誰かの話し声が聞こえる。
周りの檻や兵士休憩所などと比肩してはより業火に見える部屋で―――。
2人はそのドアの前に座り、中にいる人たちに気づかれないようにして佇んでいた。
ジェネシスは持参していたボイスレコーダーを構え、話の内容を録音する。戦時中の敵対国の重要そうな会話を録音することは諜報係がやりそうだが…彼はその気分に浸っていた。
その様子を呆れた眼差しで見つめる彼女。
「…諜報部か何か?」
「私たちの国は戦時体制なんだぞ…こういう事は積極的に行わなきゃ」
部屋の中で談笑とも言える会話は全て、鮮明に録音される。
―――誰もいないと思っていた…だからこそ、部屋の中の人物らは全てを話せるのだ。
「―――はははは、冗談が上手いな。ジェネシスが脱走、か」
「でも考えられますよ。何故なら、彼はフィラデルフィアにおいて重要な役を担っています。
充分に視野に入れて検討すると、やはり仲間もろとも処刑が好ましいかと―――」
「でも、そうしたらフィラデルフィアは本気で怒って此方が不利になりかねないぞ?」
「だからこそ、先手を打って我々はギャラクシュアスなどを用いて掃討作戦を行ったんです。
…だけど、まだしぶとく生き延びてるようなので…此処に存在せし最終兵器"ゼロミッション"を用いましょう。
…やるんです。――――――『フィラデルフィア大空襲』を」
その言葉―――"フィラデルフィア大空襲"。
彼はその発言を耳にした時、心から震え上がったような気がした。
身が揺れる。怯えの色はかく表し、残虐なる夢を頭に描いて―――。
彼は録音を止めた。それと同時に彼女に話しかけた。怯えの色を顔に表したまま。
「…早く行こう。…ここの牢屋を監視してる場所は何処か分かるか?」
「え、何で?…一応、私は知ってるけど…」
「其処に押し入って、全ての鉄格子を解除させる。罪人たちを一斉に脱獄させ、此処を混乱に陥れる。
その間に仲間を捜して脱出だ。…確か機械軍兵たちのバイクがあったな」
彼は此処に入れられる前に見た、刑務所の光景を思い出した。
多くのフラッシュの中、纔かな隙間に映った…機械軍兵のバイク駐車スペース。ハルバード駅での事案から考察するに、やはり鍵はフリーだろう。
「…ⅨがⅨのⅨとなる時…。…急ごう。時間に猶予は無い」




