18章 ゲヘナフレイムの終焉
包囲され、どうしようも出来なくなった彼らはバイクから降り、投降せざるを得なかったのだ。
仕方なく、渋々両手を上げる一向に対し、多くの兵士たちが取り囲んで手錠をかける。
空ではハルバード駅爆破及びハルバード考古学研究所爆破の容疑として、やって来たパトカーに乗せられて連行される姿をヘリコプターがしっかりと捉えていた。
その場は騒然とし、多くの野次馬やマスコミが駆け付けた。
喧噪的な雰囲気の中、纔かな窓ガラスの隙間を見つけては実行犯の姿を収めた一枚を撮る為、全員が必死こいてカメラを構える。
フラッシュの雨が起こったと同時、パトカーはサイレンを空間に響かせて走行する。
それに続いて機械軍兵のバイクが3、4台後ろをつく。
その姿を見て、フランは満足そうな顔を浮かべて特殊部隊である5人と共にいた。
「…捕まえたわね」
猫耳で紅い頭髪の彼女はそう満足げに言うと、フランは頷いた。
視界の中に映る、段々とその情景を小さくするパトカー。響かせるサイレンのドップラー現象を起こして―――。
「…これでさとり様…若しくは靈夢様がお喜びになられるでしょう」
◆◆◆
―――ハルバード刑務所。
此処では数多くの罪人たちを収監し、多くの機械兵が中で見回りしている世界であった。
狭まれた空間の中に押し詰められたような檻。そして中にはそれぞれ、哀れな罪人たちが閉じ込められている。
脱出は可能なのか?…此処は至って他の刑務所と比肩する箇所が無い。所謂"普通の刑務所"である。
ガチガチに固めた厳重警備をしている訳でもない、しかし警備の泥濘がある訳でも無い。
其処に収監させられた、1人の考古学者。
大剣を没収され、その身一つで檻に閉じ込められたのだ。どうしようも出来ない世界で―――。
「おっ、意外と此処、居心地が良さそうだな」
檻には窓がついており、其処から陽が差し込んでくる。
明るい部屋に置かれた、普通の家具店で売っていそうなベッドと4万弱程度の液晶テレビ。
簡素な木のテーブルの前で座って、テレビを点けると自分たちのニュースで持ちきりであった。
マスコミは辛うじて捉えられた、一瞬だけ映った彼の顔を見せている。
其れについてキャスターと何処からか呼んだであろう専門家が話を広げている。
どのチャンネルもそうであった。面白くなかった彼はそのままYouTubeを観ようとする。
ネットに最初から接続されたテレビで動画を観る事は容易であった。
以前、小町に言われた「10万再生を突破したバハムート・ギャラクシュアス戦」を観ることにした。
検索欄に"バハムート・ギャラクシュアス"と調べると、広告を挟んで一番上に出てきた噂の動画。
再生数は11時間前にして100万再生を突破していた。
いざ再生すると早速入る広告に苛立ちを見せる彼。5秒経過して「Add Skip」の欄を選び、本編を視聴する。
内容は第三者視点の戦いの様子であった。確かに自分が過大評価されてもおかしくないような姿であった。
別人のようにも思えるものだ。が、彼は詰まらなそうな顔をして、1分で視聴を止める。
「…こんな動画の何処がいいんだか。だったらゲームでもやってろ、って話だな。
映像主義に走った、今のゲーム業界にお似合いだろう」
彼を取り巻くゲーム業界は今や映像主義に走っているのは事実であった。
ストーリーを重んじる所為で、所々に挟むムービーの頻度が比較的に多くなってきているのだ。
確かに映像は綺麗だ。3Dを駆使した最高の技術は称賛に値するが、やはり何か齟齬を感じていたのであった…。
…ゲームが特に好き、と言う訳では無い彼が業界を語った所で所詮は素人、何の説得力は無いが。
すると彼の檻を叩く者が現れた。
音に気付いた彼はすぐさま応答に出る。相手は…さとりであった。
「…フン、私を捕まえてご満足、ってか」
「貴方がどうして躍起したのか、私には理解出来ないわ…。
…あそこでしっかりと話してくれればいいのに。…どうしてかしらね」
彼女は呆れ顔であった。
すると懐から拳銃を取り出し、鉄格子越しにいる、無防備な彼に向けて銃口を向ける。
急に取り出された武器に戸惑いを感じ、齷齪している彼女を必死に宥めた。
「…おい!早まるな!」
「答えは簡単よ。…答えなさい。新約水晶髑髏聖書に書かれた内容を。
―――答えない場合…言わなくても分かってるわよね?」
「…悔い改めて」
彼は拗ねて、機嫌をわざと悪くして座り込む。
彼の答えに唖然とする彼女。…そして脳裏に一つの思考が雲のように浮かんだ。
「…貴方、淫…いや、何でもないわ。…それよりも早く教えなさい。
…時間は無制限じゃないのよ。…貴方に与えられた時間も、また」
「分かった分かった。…答えればいいんだろ。…全て教える、嘘じゃないのをな」
彼は内容を事細かく、全てを彼女に話した。
また彼女も暗記能力が高く、彼が話したことをすぐさま覚え、暗記してしまう。
「…分かったわ。最初からそう言えばいいのに…」
彼女はそのまま拳銃を懐に仕舞い、彼に背を見せて、颯爽と立ち去った。
静かにその姿を消す彼女の麗姿を彼は淡々と見ていた。辺りに寂寥が再び訪れる。
彼は再びリモコンを手に取ると、暇つぶしにYouTubeで手当たり次第、動画を観始める。
最近はMAD動画と言う物が流行っているらしい。MADとは主に「気が狂った」と言う意味合いで用いられ、特定の作品に対する音声を繋げて一つの曲を織り成すというものだ。
核となるネタを中心にして繰り広げられる動画は確かにその曲としての意味合いは成り立っているが、やはり違和感を感じる。
このような特定作品に於ける二次創作は、その原作に利益を蒙る事は事実であるが―――。
「…いつ削除されるかな」
不敵な笑みを浮かべて、その動画を後にする彼。
すると再び檻の鉄格子を叩く者が現れた。振り返ると、其処には懐かしい姿が存在していたのだ。
機械軍兵の衣装を脱ぎ捨て、正体を現した人物―――。
「誰だ?」
「お久しぶり!ジェネシスさん!」




