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15章 予兆

A番連絡通路に響く、2つのエンジン音。

其れは人々の中を斬り裂くように貫いて行った―――。

駅ナカと呼ばれる店々は地下道のような役割を持つ其処には存在しない。

冷たい空気が肌を横切る。先導していたケット・シーは風に当たりながらも、前を見据えていた。

やがて天井の吊り看板にA番C出口への行き先が示された矢印を見つけたケット・シー。

ケット・シーはその一瞬を捉え、すぐさま運転手のパチュリーに指示を下す。


「…A番C出口は次の分岐点を左側や!」


「分かったわ!」


段々と人数は少なくなっていった。

冷たい空気が肌に刺さるのが目立つようになった時、彼女はバイクを傾けた。

二股で分かれる分岐点で左に行き、それに続いてジェネシスも曲がる。

再びエンジン音を唸らせ、そのまま先に見える光に向かって駆ける―――。


―――出た。太陽の光だ。


迷宮であったハルバード駅から見事に脱出した2台のバイク。

出た先は裏路地…喧噪街の中に小さなオアシスに身を現した彼らはそのまま運転する。

遠くでは悲鳴が響き、ドクターヘリや救急車が駆け付けていた。

マスコミや報道陣と思われるヘリコプターが上から駅を巨大なライトで照らす。


「このまま大通りに出て、考古学研究所まで行くんや!

でもセキュリティ対策をしっかりと施してはんねん。だからバイクで硝子に突っ込むんやで!」


「ほ、本気で言ってるの貴方!?」


「駅を滅茶苦茶にしといて、今更その発言は受け入れはんねんで!

別に突っ込むぐらい出来るやろ!大の大人なんやで!」


「えぇ…」


仕方なくため息をつくパチュリー。

大通りは駅爆発の影響で混乱を極めており、遥かなる渋滞を引き起こしていた。

しかし彼らはバイクである。車が混んでる間、その横の纔かな隙間を用いて疾走する。

全く動かない車を尻目に疾走する2台のバイク。彼はそんな光景に哀れみを思い浮かべていた。


「…すいすい行けるね、バイクは」


「車線の纔かな隙間でも行けるものね。渋滞なんていざ知らずよ」


そのまま疾走していくうちに、大通りを囲む建物の中に一際目立つ、白い建物が見える。

工場のようにも捉えられる、その巨大な建物を一見した時、ケット・シーは反応した。


「あれやで!あれ!あそこがマター博士が幽閉されてると言われてるハルバード考古学研究所やで!

今から突っ込むんや!急いでマター博士を救出するんや!」


「分かったわ!」


パチュリーはそのまま脇道に逸れると、ジェネシスも続く。

白い豆腐のような建物には沢山窓ガラスがついており、綺麗な庭が存在していた。

その中を突っ切るようにアクセル全開で走る2台のバイク。その場にいた研究員は驚きを隠せないでいた。

白衣の人々を前に、同じ考古学者として考えられないが…一気に窓ガラスを突き破った。


衝撃が音となって響く。静かな館内に雷鳴の如き轟音を響かせて―――。

…2台のバイクが行きついた先は大きな本棚が並べられた研究室であった。

急ブレーキをしたパチュリーに続いて停車させるジェネシス。奥にいたのは何処か懐かしい男性…。


「…久々だのう、ジェネシスにパチュリー」


「お久々です、マター博士」


「それにしても…随分派手な入館方法だのう…ほっほっほっ」


長い白髭を靡かせて、煤けた本を静かに呼んでいた彼こそ、捜していたマター博士であった。

椅子に座っていた彼はゆっくりと起き上がると、来客である彼らを持て成すかのように振る舞った。

椅子を3つ用意し、座るよう勧めてきたのだ。


「ま、マター博士!早く脱出しましょう!フィラデルフィアに帰るんです!」


「やっぱり来たわね。…五月蠅い音が聞こえたと思ったら」


マター博士の元にやって来た、桃色の頭髪をした白衣の女性。

そんな彼女の後ろには機械軍兵と思われる兵士たちがマシンガンを構えていた。

反対側を見渡しても兵士たちがマシンガンを携えている。…完全に包囲されていたのだ。


「…お前は…!」


「ああ、ジェネシス。そんなに怒らんでええ。この人はいいお方じゃよ?

チャカ・リプカについての資料を沢山見させてくれた、優しい考古学者…さとりさんじゃ」


彼女を前に、彼は怪訝そうな表情を示した。

後ろで機械軍兵たちを制してる時点で、やはり敵であった。マター博士に対して、何の理由で拉致したのかは分からないままであったが…。


「…何が目的だ!?何の為にマター博士を連れ去った!?」


「人聞きが悪いですね。…まあいいでしょう、痛い目を見るのは貴方たちですから!」


彼女はダイヤモンドのような正十二面体である結晶を持つや、超常現象がその場で起こったのだ。

非科学的な…科学では証明出来ないような雷鳴が室内に迸ったのだ。

マター博士は訳が分からない事象に頭を抱えて怯える。そして…その雷鳴が彼に目がけて飛んできたのだ。


―――しかし、彼も同じような者は既にギャラクシュアス戦にて手に入れていた。

懐に仕舞っていたそれが急に輝きだすと同時に目の前にバリアを作り出し、雷鳴は相殺された。

―――理解出来なかった。超常現象同士が衝突しあい、空回りした爆発…。

爆風が部屋内にたち込め、本が吹き飛ばされる。黒煙が視界を遮った。


…黒煙が晴れた後、散らかる部屋内の中…彼女は称賛した。

虚構に響く、彼女の拍手の音。それはジェネシスたちに対して向けられたものであった。


「…流石ね、アルカナを持っていたとは」

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