12章 鹵獲ミッション
―――フィラデルフィア国際ターミナル。
主に此処から色々な行き先の列車が発車される巨大ターミナル駅である。
駅ビルが建ち並ぶ喧噪街の中心核として存在していた大駅は全部で56個ものホームを持っている。
しかし、その日は3から6番線ホームがやたら込み合っていた。
行先表示に書かれていた地名―――『ハルバード』。
ジェネシスたちはFBIの特権で座席を余裕で予約し、テロ行為に使う拳銃も受け取って…後は列車に乗るだけであった。
FBI専用の駅入り口を通って中へ入り、人ごみをどうやって越えるか悩んでいた。
「…これは酷いな。…やはり最終便はコレか」
「せやで。最初からこんなん予測しとったわ。ワイについて来ればええ」」
ケット・シーは彼の腕から飛び降り、勝手に歩き始める。
少しでも見放したら見失う程の混雑に戸惑いながらも、彼女の手を引っ張って猫の跡を進む。
彼に引っ張られていたパチュリーは周りの人ごみに圧迫されて、何処か窮屈そうであった。
「むきゅ~…苦しい」
「無理に可愛いアピールしなくていいから」
2人はそのまま進んでいくと、いつの間にか路地裏に来ていた。
駅の中でも比較的に人口密度が少ないこの場所は薄暗く、埃が空中を舞っていた。
咳を催す彼を知らず、そのまま歩くケット・シー。すると猫は何の変哲もない壁の前で動きを止めた。
「…此処やで、此処。…ほな、行きまっせ~」
隠されたパスワード承認機にパスワードを打ち込むケット・シー。
すると壁に穴が開き、その中を悠々と進んでいく。まさかの光景に驚きを隠せないでいた2人。
「此処から行けるで。ついてこいや~」
「あっ、ハイ」
◆◆◆
隠し通路を使ってこっそり旅客列車に乗り込んだ一行。
まさかケット・シーの言った通路が線路の下に繋がっていたとは、予測も出来ない事案であった。
そのままホームに上り、易々と指定された席に座る。
真ん中に簡単なテーブルを拵えたボックスシートであった。椅子は柔らかいクッションで出来ている。
外は乗り込もうと必死な乗客が見えるが、2人はFBI専用スペースにいる為、のほほんとしている。
窮屈そうな車内を尻目に、退屈そうな欠伸を浮かべる。
「…ホントにこの後、この列車をハイジャックしなくちゃいけないのね」
「せやで。其れが我らの使命や。…奴らは"機械軍"って軍隊を持っておるんや。其れがフィラデルフィアで言うFBIみたいなもんや。
そいつらの本部ビルがハルバード駅ビルそのものなんやで。だから猛スピードで突っ込めば、それ相応のダメージは与えられるんやで。ちな、ダイナマイトって貰ったやろ?」
「ダイナマイト?…え」
パチュリーは気づいた。…ダイナマイトは貰っていないことに。
しかし窓の景色は大きな駅構内のでは無く、移り行くフィラデルフィアのビル街を映し出していた。
―――既に列車は発車していたのだ。
そして彼は、ケット・シーの背中に貼られてあった、毛に隠れていた付箋を見つけた。
桃色の付箋を剥がすと、「な、何や」と恥ずかしそうな表情を取る。
…そこに書かれてあった事。
―――あ、其れがダイナマイトだから
「…え?」
―――ダイヤモンドで出来てるとか言ってたけど、嘘。ごめんね~☆ by映姫
「…」
彼はどうしようもない感覚に浸った。
実際、向こうではケット・シーに従うよう言われたため困惑に陥ってしまう。
しかし当の本人はそんな事が無いよう振る舞っている。…単に知らないだけなのかも知れなかった。
列車はフィラデルフィアの街並みを抜け、草原地帯を走っている。
主にこの付近が争いの火種となった石油産出地である。遠くでは銀色の巨大パイプが列車の向かう方向へ伸びている。
旅客列車は静かな揺れと共に線路を走る。何処までも続くかのような悠久の旅をしてるかのように―――。
ケット・シーは楽しそうにパチュリーと話している。
しかし、この付箋の書き込みを見た以上…普通に接することは不可能であった。
無知が一番楽な時…彼は付箋を見てしまう以前の自分を羨み、見てしまった自分を呪った。
「でな~、ワイが以前小町はんの前でな~」
楽しそうな会話をするケット・シー。
パチュリーの横に座って会話をし続ける姿は、やはり凄いと感じざるを得なかった。
しかし爆弾。たかが爆弾。爆弾なのである。そう、彼は爆弾だ。
―――黙っているのが賢明なのか?…しかし、彼は我慢出来ないでいた。
「…なあ、お前さ…こんな付箋がお前の背中に貼られてたけど…」
「んあ?ジェネシスはん、どうしたんです?」
ケット・シーは会話を止めて、彼が持つ付箋を受け取った。
其処に書かれてた内容を見て一瞬は驚きを見せたものの、最終的には何故か納得で終わっていた。
「ああ、最初は見て『ファッ!?』って思ったけど、これ事実みたいなもんやで。
ワイの身体は只の縫いぐるみや。でも中に入ってるのはダイナマイトでは無くて人工AI装置やで。
ワイの事を"ダイナマイト"って表現したのはワイがダイナマイト係ってことやな」
「そ、そうなのか...」
自分から人工AI装置とか言える時点で察した彼はただ頷いていた。
ケット・シーがどんな役割なのか、それは又何時か、見い出せばいいだけであって―――。
―――刹那の出来事であった。
「こちらハルバード王国特殊部隊、ミスティアが告げる!
―――只今より、この列車は我らハルバードの手中とする!反逆を示す者は直ちに射殺を行う!」
車内に巨大な声のアナウンスが響いたと同時に2人はその存在に気づいてしまった。
咄嗟に彼は鞘から大剣を差し抜き、起きた事象を前に武器を構えた。
―――テロである。そう、これは彼が起こすはずのテロを先に起こされてしまったのだ。
このままでは計画通りにはならない。全ては運転権利奪取の為に―――。
「…こんなん不味いやんけ!奴らに奪われたら…作戦失敗するやんか!」
「なら行こう。奴らの射殺など恐れるな、全てはフィラデルフィアの為だ」
スーツ服を窓から入る風に靡かせて、大剣を片手に…彼はそのまま席を外した。
ハルバード軍を捜しに行こうとするジェネシスをパチュリーとケット・シーは追いかけた。
「ま、待ちなさいよ!」
「せやで!早すぎや~」
◆◆◆
彼は軍を追いに列車内を駆け巡った。そして、先頭車両に武装集団が構えていたことに気づく。
―――胸に金色の勲章を付けた、鳥のような翼を生やすスーツ服の女性。
多くの武装兵を制し、将軍のような立ち振る舞いを見せながらも背は小さい…不思議な感覚であった。
すぐに彼の元にパチュリーとケット・シーが追いつき、その様子を把握した。
「…どうやら向こうにも考えはあるみたいね」
「…そうだな。…でも、間違いなく車内で戦えば不利だ。何せ数は向こうの方が圧倒的だ」
「…ジェネシスはんの仰る通りや。逃げ場が限られた車内で戦うのは不利や。
だからこそ、ワイらは列車の上に誘き寄せて、其処で戦うんやで」
ケット・シーの意見は彼も最初から考えていたものであった。
最終便である為、人が窮屈で逃げ場がない旅客列車内で戦うのは人数が多い向こうが有利だ。
しかし列車の上では逃げ場は幾らでも作れるし、場外に押し出せば敵も結構減らせるのだ。
「上に登る梯子ならさっき見つけたやで。ワイらは先に避難しとるから、誘き寄せほんま宜しくな~」
「人任せだな…」
パチュリーの右肩に乗ったケット・シーはそのまま颯爽と消えてしまう。
軽い溜息をついた後、任務執行の為にも彼は銃化したブレイズバリスタを片手に、銃声を空回りさせた。
その瞬間、室内にいた武装兵たちは凍りついたと同時に過敏に反応し、すぐに陰に隠れていたジェネシスを発見する。
「は、反逆者だー!」
一斉に声が上がったと同時に武装兵たちは射殺を試みるも、ジェネシスはすぐに梯子を登って避難する。
上へ逃げた彼を追いに武装兵たちも梯子を登ろうとするが、迎えたのはケット・シーであった。
何時の間にか持っていた拳銃を取り出しては、梯子を登る兵士たちの顔面に銃弾を穿って行く。
「む、向こうにも来てるわ!」
もう1つ梯子があったのか、其処から武装兵たちは雪崩れ込んできたのだ。
しかしジェネシスは大剣で一気に薙ぎ払うと、大勢がそのまま列車外へ放り出されてしまう。
大勢が犠牲となっていく中で、一際目立った存在がジェネシスの攻撃を避けて3人の前に現れた。
呆気なく他の武装兵は消え、容易く仕事が済んだことに少し違和感を感じていたが―――。
「ほんま弱っちいな、ほんなら武装兵やめたら?」
最後に残った1人に対して告げるケット・シーに対し、相手は睨みを据えていた。
金色の勲章を胸につけて、拳銃の銃口を3人に向ける特殊部隊。
「…お前たちは何が狙いだ?我々のテロの邪魔か?」
「テロと言うのもどうかと思うんですけど…」
パチュリーの一言にイラつき始める相手は機嫌を悪くしたのか、試しにパチュリーに向かって一発、銃弾を放った。しかし見切られており、彼女に身体を反らされて躱されてしまう。
攻撃が躱された事に、更にイラつきを募り始める特殊部隊。
「…悪いがこっちにも事情はある。丁重に此処で殺させて貰おう!
―――こちらミスティア・ローレライより連絡、只今より対象者の殺害を行う」




