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10章 喚び出されし者:バハムート・ギャラクシュアス

突然、辺りに巨大な咆哮が響き渡り、其れはその場にいたフィラデルフィア国民が畏怖を抱いた。

巨大な化け物か、その蠢く大きな影は病院を包み、そして放たれた一撃は病院の瓦礫を吹き飛ばした。

唐突に4人の前に現れたのは、赤い眼を持った機械龍―――そう、全てがプログラムによって動かされた刃コ生命体であったのだ。

乱数と指示を元に産みだした高機能AIを持ち、焼け付く空を飛翔して―――。


「…あれは"バハムート・ギャラクシュアス"!?」


FBIであって、彼らよりハルバード王国に詳しい小町は鎌を携え乍ら、そう静かに述べた。

目の前に存在する機械龍は獲物を睨みつける蛇のような眼差しを向けて…その灼熱を口に含んでいる。

精密機械であることが、機械龍を常に纏う電流が証明していた。


「…バハムート・ギャラクシュアスって何だ!?」


「…ハルバード王国が極秘で開発していたと謂われた殲滅用兵器…!

―――兎に角、奴を此処に連れてきた以上…ハルバード王国はこの国家を侵略するつもりだ…!」


ジェネシスの問いにしかめっ面で答えた小町に、3人は動揺した。

奥では空がその機械龍の全貌を見て笑っている。勝ちを確信したのだろうか。

病衣を荒ぶる風…爆風に靡かせた彼はブレイズバリスタを両手で構え、機械龍を睨み返す。


「…人間の意地ってモノを見せてやる!」


そう彼が発言した時、他の3人も同じく構えた。

病院内では大体の人間が避難し、殆ど廃墟状態になっていたが…喧噪は消えていなかった。

寧ろ続いているのだ。バハムート・ギャラクシュアスの登場に多くのマスコミや報道陣が駆け付けるも、対象は殲滅用…近づけば自らの身を滅ぼす。

遠く離れた距離からヘリコプターでカメラを構える図々しさは、やはり褒めたたえられる執念とでも言うべきだろうか。


機械龍はその場で口元に灼熱を溜めこんでいる。

溢れだす蒸気がその生々しさをより一層感じさせる。しかし…彼は恐れていなかった。


「…さあ来い!バハムート・ギャラクシュアス!」


◆◆◆


飛翔していた機械龍に対し、積み上げられた瓦礫を踏み台にして斬りかかった彼。

しかしバハムートもそんな彼に対して鉤爪の一撃で反撃を示す。

お互いの金属音が響き合い、空中で迸る摩擦。


人間は飛べない。彼はその一撃を相殺された後、すぐに元の瓦礫に着地する。

同時の慧音が軽々しい身体を用いて、俊敏な動きと共に機械龍に殴りに掛かった。

だが相手は機械…人間の拳が金属に敵う訳がなかった。


「慧音!どうやって…」


「頭を使いなさい!頭、を!」


彼女は機械龍に対して拳をぶつける訳では無く、そのまま装甲の身体に乗ったのだ。

バハムートを操っているかのような姿は滑稽に思えたが、機械龍は必死に足搔き、振り落とそうとする。

その間にFBIの武器としてバズーカを持ってきた小町は一気に放射、爆撃を図った。

慧音はそのバズーカに当たるよう機械龍を操り、足掻いていたバハムートの右翼にバズーカが直撃する。

一発ではビクともしない機械龍に連続発射し、容赦なく射落とす。


炎を上げて落ち行く機構の翼。

バランスを崩し、平衡感覚を失った機械龍は身を地面に落とし、そのままダイブする。

すぐに飛び降りた慧音に、パチュリーは褒めたたえた。


「流石ね、慧音。…標的にし易くしたのね」


「そうよ。…ただ、まだ敵は生きてるみたいね」


瓦礫に埋もれた機械龍は、その翼で得る飛翔能力を完全に失い、電流はより一層激しくなっていた。

が、むくむくとその身を起き上がらせては"飛べない鳥"なりの足掻きを見せようとする。

AIはまだ生きていた。4人に向かって突進を図り、意地でも殲滅を図る。

空は機械龍の蹉跌している様子に焦燥を抱き、再び右手の制御棒で4人を狙おうとする。

しかし、それにいち早く気づいたパチュリーは電気ロッドで制した。


「ぐふっ!?...」


「貴方の行動は私が赦さないわ」


パチュリーは再び膝から崩れた空の背中を右足で踏み、只でさえ力が無い彼女に力を加えた。

奥では3人はバハムートの突進を躱した3人が反撃を図っていた。

ジェネシスは大剣を銃化し、検知センサーが埋め込まれている眼の部分に向かって射撃を図る。

センサーを破壊すれば、バハムートは盲目になるも当然であった。


「喰らえ!私の射撃を受けろ!…バハムート・ギャラクシュアス!」


一発目の射撃が外れても、彼は無差別的に撃ち続けた。

十発目か何かで機械龍の左の眼の液晶を破壊、片目盲目に陥れた彼。

続いて右目も射撃するが、バハムートは黙っていなかった。

―――3人に向かって、自身が持つ灼熱を解き放ったのだ。


「よ、避けろ!」


小町の一筋の声が響き渡ったと同時に、全員がその場を離れて攻撃をやり過ごす。

真正面にいたのは…パチュリーによって動けなかった空であった。


「え...ちょ...!」


ボロボロのスーツ服を灼熱に帯びさせ、とてつもない衝撃を受けて吹き飛ばされたのだ。

病院からすぐに消えた身を憐れんだ4人は同時に背を向けていた機械龍に攻撃を畳みかける。

ジェネシスは大剣を、慧音は落ちていたハルバード兵の剣を、パチュリーは電気ロッドを、小町は折り畳み式大鎌を―――。


裂かれた装甲。溢れだすパーツ。

機械龍を作っていた機構は崩れ去り、大きな狼狽え声と同時にその場に堕ちた。

燃え上がる機械龍。唐突に訪れた沈黙の中、4人はその光景を前に安堵を抱いた。


◆◆◆


「ん、何だコレは?」


バハムートを倒した後、ジェネシスは焼け付く地面にダイヤモンドのような綺麗な結晶を見つける。

正十二面体であるその結晶を自らの掌の中に置いて、其の煌めきを眼に映した。

太陽の木漏れ日を受けて輝く水晶に、彼は何処か心を奪われていた。

考古学者である身、不思議な物には興味を抱くのが彼であった。


「…一体何なのかしらね?…まぁ、持っておけばいいんじゃない?」


「そうだな。…落とし物としても、誰の持ち物かはもう分からないしな」


パチュリーも彼の掌の中の水晶を見てからそう言うや、頷いて彼はポケットに仕舞った。

遠くではハルバード王国のヘリコプターが一目散に退散してるのが良く分かった。

バハムート・ギャラクシュアスが只の人間に倒された事が…やはり納得できなかったのであろうか。


「…機械が世界を統一する世界…そんな日も近いのかもな」


「あら、随分と考察深そうな発言ね」


小町はそんな彼の発言を汲み取った。

バハムート・ギャラクシュアスを信頼し切っていたハルバード王国はもういなかった。

ボロボロに映し出される街並み。荒廃した町を前に、彼は不思議な感情を抱いていた。


「AIが人間を完全に超えてしまい、制御出来なくなってしまう臨界点…いつか訪れるのかもしれないわね」


「…シンギュラリティ、か。何時か機械は人を超すんだろうな。

―――それが何時の未来かはまた別だが、な」


遠い未来―――其れはたった一夜で爆撃を受け、滅茶苦茶に破壊されたフィラデルフィアも当て嵌まった。

失われた希望を見出すために、暗闇を案じ続けて―――。


「…あ、そうだ。…今から3人に来てほしい場所があるんですよ。

…場所はフィラデルフィア総合参謀本部のFBI部課です。…話したいことがあるんですよ。

既に車は呼んでますし、安心して下さい」


確かに焼け付くコンクリートの上を疾走して、病院廃墟前に停車した一台の黒塗りの車。

サングラスをかけた運転手はFBI職員で、小町はその車に案内した。

断った所で途方に暮れてしまうため、3人はそのまま乗って総合参謀本部へ赴くことにした。

車内ラジオでは永琳大統領の決意の声が表明されている。


「…我々フィラデルフィアは、衆愚政治によって馬鹿げた侵略を行うハルバード王国に対し、宣戦布告を行った。

今回の飛行機事件及び国際空港、病院襲撃は今回の宣戦布告に繋がった要因である。

其れに伴い、徴兵令を施行する。満18歳以上の男子は兵士資格があるかの試験を受けよ。

また、医者、考古学者、公務員は兵士資格を削るものとする」


―――ハルバード王国への宣戦布告であった。

其れは3人も何ら反感を抱かなかったが、何故ハルバード王国は侵略を行うのか理解出来ないでいた。

車窓からは荒廃するフィラデルフィアがまじまじと映し出される。

残酷な程、鮮明に映される景色に―――彼は何処か胸苦しさを感じて。

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