9章 迎撃
右手に核燃料の制御棒を構えた彼女は4人を睨み据えるや、その制御棒の口を向けた。
黒いマントを沈黙が蔓延る病院内に於いて靡かせては、静かな笑みを浮かべて―――。
「…私たちは目的を持って動いています。…大人しくすれば手は加えませんよ。
…まあ、レティを退けた以上…その実力は本物なのでしょうけどね」
「…つまり何が言いたい!?私を拉致して、拷問にでもかけるつもりなのか!?」
「そんな馬鹿らしい事はしませんよ。ただ…"協力してもらいたいこと"がありましてね…フフ…」
その不敵な笑みは、彼を使って行う"何か"を確実に示唆していた。
しかし、FBIである小町はそんな空の笑みに抗い、睨みを浮かべた表情を示す。
罪もない人々に殺戮を行ったこと―――其れはフィラデルフィア国際空港での大惨事も兼ねての話であった。
マスコミや報道陣が多く駆けつけ、その日は空港で起こった射殺事件で持ち切りになろうとしていた矢先の出来事―――悪夢の飛行機事件。
そして同時に起こった、病院テロ事件。
―――FBIを弄んでいるかの如しハルバード王国軍の愚行。これ以上、傍観している訳にはいかないのだ。
「…協力?なら他の博士に頼んでもらおう、私は意地でも行かない!」
「なら力を示すまでですね…。
…安心して下さい、核と言っても放射能はシャットダウンしましたから…」
空は戦う構えを示すと、合わせて4人も迎撃態勢を取った。
不敵な笑みを表情から隠し、真剣な眼差しに憐れみを浮かべて―――。
「…我がハルバード特殊部隊の力、見せてあげましょう…!」
◆◆◆
彼女はいきなり右手の制御棒でエネルギーを充填させる。
暗い底の中にうっすらと赤く輝く。それは等しく…核そのものであった。
静かな眼差しと共に放たれた、その灼熱は―――4人を取り込もうと襲い掛かる。
「避けて!」
小町の声が空間に透き通ったと同時に全員が灼熱の着弾地から離れ、爆発から身を躱す。
核の力を含めた一撃は病院の瓦礫を吹き飛ばし、とてつもない轟音を立てる。
逆に考えると、そのような威力を持つ攻撃を何度も使用する彼女は強敵であった。
「…小賢しいですね」
彼女は偶々近くにいた慧音とパチュリーに向かって再び核エネルギーを解き放つ。
が、背後にいた小町は咄嗟に拳銃を構え、背中を穿とうとするが俊敏な動きに躱されてしまう。
2人に襲い掛かった核エネルギーに気づいたジェネシスは避けるよう呼びかけた。
その一筋の声が空間の中で何度も木霊した。
「逃げろ!」
2人は咄嗟に逃れるや、案の定爆発を回避する。
すぐに立ち直った慧音は自身の拳を信じて、小町の射撃を避けて傲慢に為っていた彼女に正拳の一撃をお見舞いする。
その攻撃は彼女の腹部に当たり、狼狽えの声を同時にあげる。
その隙を窺ったジェネシスは大剣を構え、一気に斬りかかるも制御棒で受け止められてしまう。
摩擦音が響くと同時に、パチュリーは電気ロッドに電気を纏わせて攻撃にかかる。
「…こんな大人数を1人で相手したことを後悔するといいわ!」
鍔迫り合いの途中であった空に襲い掛かった高圧電流。
それは体内を一瞬で駆け巡り、刺激も少なからず、力を抜かしてしまう。
そして…そのまま彼の大剣の一撃を蒙り、その後ろにいた慧音に背中を殴られた。
最終的には小町の折り畳み式大鎌で体を斬られ、傷だらけのまま…倒れてしまった。
◆◆◆
「案外弱かったわね」
パチュリーの声は傷だらけながらもゆっくりと起き上がった彼女を皮肉っていた。
蔑まれた感情に怒りを抱いて、睨みを利かせる。
しかし攻撃を蒙った以上、治癒が必要である。これ以上戦えない事を悟った空はスマホを取り出すや、連絡を行う。
「…こちら空。只今より"バハムート・ギャラクシュアス"を展開せよ」
そうスマホの奥の相手に伝えるや、彼女はスマホの電源を落とし、静かな笑みを浮かべた。
敗北者の強がりか、それとも実際の意地なのか。
左手を上に掲げ、4人を嘲笑いを含めた視線で見据えて―――。
「…これで戦いは終わったと思わないで下さいね。…私たちには"兵器"があるんだから」




