村への帰還
今回は会話劇風です。
それは初秋の夜のこと
狼に襲われたエリカと
間一髪で助けたレスター
二人はルドニの村を目指して
森の中を歩いていた
「レスターさんって、なんでルドニの村に来たんですか?」
「村に向かう商人の護衛でね。狼とか野盗に襲われても、大丈夫なようにいるんだよ」
「そうなんですか」
「君はずっとルドニの村に住んでるのかい?」
「ええ、産まれたときからずっと。なので、旅人さんとか憧れますね」
「そうなのかい? 僕も旅人だけど、路銀稼ぎに依頼を受けたりするからね。護衛もその一環さ」
「へぇ、なんだか楽しそうですね」
「時々、故郷のこととか思い出して悲しくなるけどね」
「それは体験したことないから、分かりません……」
「故郷にいたときは、外の世界に思いを馳せて。外の世界にいると、故郷に思いを馳せるなんて矛盾してるけど、旅をすれば誰だって味わうものだよ。だから、そんなに気にしなくても良いよ」
「レスターさんって優しいんですね」
「そうかな? でも、悪党には厳しいけどね」
「……厳しいって、どんな風なんですか?」
「少し懲らしめて、役人に突き出す程度だよ。町を騒がせてるなら、報奨金も出るから、よくやるね」
「よくやるんですか」
「うん、一気に路銀を稼げるからね」
「レスターさんの話しを聞いていると、なんだか旅に出たくなります」
「旅というのは、世界を見たい、あるいは知りたいという動機に突き動かされるようなものだよ。まぁ、他にも色んな動機があるけどね。エリカさんが旅に出たいという動機はなんなのかな?」
「あたしの動機は……ずっと、見慣れた風景のなかで過ごすという檻の中に閉じ込められている気がして、嫌なんです」
「だから、旅に出て檻の中から抜け出したいと?」
「ええ。そんな動機じゃいけませんか?」
「動機というのは、実のところなんでもいいのさ。人攫いに連れ去られたなら、故郷へ戻るために旅する人もいるだろうしね」
「色んな動機でもいいんだ……。
そういうレスターさんは、なんで旅をしてるんですか?」
「僕かい? 僕の場合は、世界を見たいという動機かな。人々の暮らしでも、自然の風景でも、構わずに見たいんだ。そして、それらをまとめて、人々に知ってもらうために、旅行記を書くことだね。世界にはこんな人々が居ますよって」
「素敵な夢を叶えるための旅ですか?」
「恥ずかしいけど、そういうことになるね」
「あたしはいいと思いますよ」
「誉めてくれてありがとね。あ、もうそろそろ村に着くね」
「ほんとうだ。みんなに心配かけちゃったなぁ……」
「こればかりは素直に謝るしかないねぇ」
「分かりました。道中ありがとうございました」
「いやいや、僕も楽しかったからお互い様だよ」
「それじゃまた」
「ああ、またね」
レスターのおかげで
無事にルドニの村へ
帰れたエリカは
心配した両親に怒られながらも
レスターの事が頭から離れなかった
それはエリカが
十五才の時が終わる
数週間前の日だった
彼女が抱いた
レスターへの気持ちを
知るのは
それから数日が経ったあとのこと――






