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襲撃の獣と救出者

初秋の夕闇の時


ガサ……


「……なに……?……音がしない……もしかして……あれ……?」


エリカは身の危険を察していた

なぜなら

不意に近くの茂みが

音を立てたまま

何の音もしないからだ


さらにいうならば

獲物を逃さないと

主張するような

睨みつける視線を

冷や汗とともに

背後に感じたから


リスなどの小動物ならば

鳴き声や足音が

するだろう


人であった場合も

村の猟師が黙ったままでなく

声をかけるだろうし


そもそも茂みから

はみ出てしまう


しかし実際は

どちらでもない


残る選択肢は一つ


山から下ってきた狼だ


狼は獲物の隙を突いて

肉を喰らう肉食獣

その獲物は大型動物である

鹿などから家畜である牛

果てには人間すらも喰らう

人々に忌み嫌われし害獣


それが狼という

自然界の狩人


それに気づいたエリカは

数歩ほど後ずさると

全力をもって

狼から逃走するために

疾走し始めた


ダッダッダッダッダッ!!


エリカはバスケット一杯分の

ロカリス草を抱えながら

好調に駆け出したのだが


獲物であるエリカの

逃走を感じ取った狼は

即座にエリカへと

疾駆したのだ


「嘘でしょう!? こんなに走っているのに、もう追いつかれそうだなんて!?」


エリカはたまらず悲鳴をあげたが

狼との距離は

徐々に狭まっていた


不幸な時ほど

さらなる不幸が

身に降りかかるように


エリカの前には

一本の木の根が

己を主張するように

生えていた


「きゃっ!?」


危機に瀕し

精神の余裕が

無くなっていたエリカは

見事、根っこに足を

引っかけてしまう


さらにバスケット一杯分入っていた

ロカリス草も地面にぶちまけてしまう


絶体絶命の危機

そう判断したエリカは

迫り来る恐怖に

眼をつぶった


「危ない!?」


男の叫び声が

不意に耳に入る


ボンッ!


ギャゥ!


一度だけの爆音と

鼻腔をくすぐる硝煙


そして、狼の短い悲鳴が

眼をつぶっていたエリカに

聴こえた


「君、大丈夫かい? 狼なら僕が追い払ったから、安心していいよ」


恐怖で眼をつぶり続けているエリカに

男が声をかける


男の言葉にエリカは

恐る恐る眼を開くと


良質の革で作られた

毛皮のマントを羽織り


動きやすさを重視した

青色のワイシャツと厚手のズボン


同質の革で作られたのであろう

簡易な鎧と臑までの長さの靴を履き


柔和な勇壮を思わせる顔立ち

紅葉を思わせる赤色の瞳と

短めの金髪した細身の長身

の青年が視界に写った


「あ、助けてくださって、ありがとうございます。

あたしの名前はエリカ、あなたの名前は?」

「僕の名前かい? 僕はレスターという名前だよ。間一髪、君が助かって良かったよ」

「どういうことですか?」

「それはね、村の薬草医さんの娘さんが、こんな時間になっても森から帰って来ないから、探すように頼まれたからなんだ」

「うわぁ……もうこんな時間……お父さん、今頃心配してるだろいなぁ……」


時刻は赤い夕闇から

星々が静かに瞬く

夜の時間


エリカが昼過ぎから

森に入ってから

かなりの時間が経っており

親が子供の心配をするのは

無理がない時間でもある


「帰りは僕が送っていくから、安心していいよ。狼が襲ってきても返り討ちにしてあげるから」


「そうですか。ありがとうございます」


そして二人は

地面に散らばってしまった

ロカリス草を拾うと

ルドニの村へ帰るために

歩き始めた


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